いま学校は?10

教育

*ウィズ・コロナ時代 いま学校は?*

<新潟市の小学校に見る①>

―楽しみなコミュニティ・スクール―
―「新潟は制度の前に実態つくった」―

これまで新潟市の内野小学校(西区)を舞台に、「ウィズ・コロナ時代」の学校と子どもたちの様子を見てきた。内野小は、全国での新型コロナウイルスの感染拡大に苦しみながらも、学業の遅れを最低限にしつつ子どもたちの育ちを促していた。夏休みや学校行事のあり方についても、かなりの独自性を発揮しているように見える。また、内野小では、これまで培ってきた地域との関係強化を土台に、新潟市教育界の次の課題であるコミュニティ・スクールへの移行や教職員の働き方改革に取り組んでいく意欲が感じられた。これは、「新潟の小学校に共通する基盤」と言えるのだろうか―まず、コミュニティ・スクールについて、新潟市の教育政策監や新潟小学校の校長を務めた伊藤充・新潟青陵大特任教授に聞いた。

<地域総がかりでの協働>

内野小の7回目で紹介したように、新潟市は2022年度から全校で「コミュニティ・スクール」への移行を予定している。コミュニティ・スクール(以下略称=CS)は「学校運営協議会」を設置し、子どもたちの成長を「地域総がかり」で支える仕組みだ。文科省はCSのメリットとして①校長や教職員の異動があっても、地域と学校との連携・協働体制が継続する「持続可能な仕組み」であること②(地域の)当事者意識が高まり、地域総がかりによる協働活動が充実すること―の2点を挙げている。協議会メンバーは保護者や地域、学校支援者の代表と、校長をはじめ教職員ら学校関係者で組織され、新潟市では最大15人で構成される。新潟市教育委員会では、国の大きな方針を踏まえ、学校運営協議会の実務に当たる事務員(CS事務員)を1校に1人配置することを決めている。

<「CSを想定して地域と連携」>

伊藤充・元新潟市教育政策監は、「新潟市教委がCSづくりを進めるに当たって、このCS事務員に、新潟市の地域と学校をつなぐキーパーソンである地域教育コーディネーターの兼務を可能にしたことが大きなポイントです」と指摘する。新潟市では、2007年に政令指定都市に移行する段階で作成した「市教育ビジョン」に「学・社・民の融合」を掲げ、その柱として「地域と学校パートナーシップ事業」を据えて、地域と学校の関係づくりに力を入れてきた。地域と学校をつなぐ重要な役割を担ってきたのが「地域教育コーディネーター」だ。

伊藤さんは「CSは、新潟が進めてきた地域と学校パートナーシップ事業の延長線上にあります。国がCSに進むことを想定して、事業をやってきた、と言っても良いでしょう。新潟では『地域総がかりでの協働』という仕組み・制度の前に、地域との協働の実態をつくってきました。全国的には『CSはハードルが高い』と嫌がっている地域が少なくないが、新潟はこれまでの土台があるのでスムーズに移行できると思います」と語る。新潟市教委もその流れがあるから、地域教育コーディネーターという存在を重視しているのだろう。市教委が任命するCS事務員との兼務だけでなく、学校運営協議会委員との兼務も認めることが決まっている。

<自転車の前輪と後輪>

新潟市教委では、CSと「地域と学校パートナーシップ事業」との関係を自転車の前輪と後輪に例えている。「CSの学校運営協議会は、目標やビジョン、目指す方向を定めコントロールする舵取り役」の前輪で、「パートナーシップ事業(地域学校協働活動)は目標やビジョンを実現する駆動力・馬力・持続力の役割」を担う後輪、との位置づけだ。

 

写真=新潟市教委が作成したコミュニティ・スクール(CS)の説明資料。右側のページはQ&Aで、自転車の前輪と後輪に例えてを使ってCSを説明している
学校は、目標やビジョンをつくることは得意かもしれないが、馬力・持続力は学校だけでは生まれない。「駆動輪がないとCSは前進しませんが、駆動輪をつくることはとても難しい。新潟市は多くの学校で良い流れをつくり、地域との協働で実績を積み上げてきました」と伊藤さんは言い、「他の分野でも言えることですが、日本の地域がやるべきことに取り組んで成果を挙げ、それを受けて国が制度化して一般化・普遍化していく―私は、これが良い方式だと思っています。新潟の地域との協働の取り組みと国のCS推進は、その一例になると思う」と続けた。

<個別の人事でなく、任用に意見>

学校運営協議会は、「教職員の任用について、市教委に意見できる」と市教委の制度では決められている。このことが「教職員の人事に口出しできるようにするのか?」との疑問を一部で生み、CSの推進を妨げる一因になってきた。伊藤さんは明確に説明する。「まず、『学校運営の基本方針の実現に向けて』との前提があり、個別の人事に意見するわけではありません。例えば、学校方針が『英語教育を充実させ、世界で活躍する人材を育てる』とした場合、『英語教育ができる人材をもっと育成して、英語人材を当校に配置すべき』との意見はできるということです」

<バランスシート戦略>

地域教育コーディネーターの活動が根付くことで、地域との協働が大きく前進した新潟の学校だが、内野小学校の中村芳郎校長は商社マンだったせいか、「教職員に、さらに意識を変えていってほしい」との思いを込め、「バランスシート戦略」を作成した。企業のバランスシートと比較して、内野小のバランスシートを示したものだ。

【純資産の部】の「資本」は新潟市(市教委)と市民からの税金・寄付を計上。【資産の部】には、「流動資産」として現金・預金(配当予算など)、「有形固定資産」として校舎・施設・土地・樹木・教材園などを記載。「無形固定資産」として地域・学校の歴史文化や教育目標・ビジョン、「さくら学校」のブランド、教職員の情熱・授業力、児童や地域・保護者らの願い・誇り―などが挙げられている。注目されるのは【負債の部】の「流動・固定負債」として、学校ボランティアの支援(見守り隊、PTA活動、学習ボランティア、読み聞かせ、キャリア教育など)や「愛桜会」「地域特別チーム」をはじめ自治会・まち協議会などの地域組織の活動を挙げ、さらに行政の支援まで計上されていることだ。この負債は、地域などへどう返済されるのだろうか?中村校長の戦略では、「児童・教職員の感謝・笑顔。防災への備え・安心感。避難所機能・学校開放。地域の誇り・拠り所。祭りなど地域活動へ参加することで(返済)」―などとなっていた。

<学校にかかわる人、すべての幸せ>

企業では、「資産を活用した価値創造」として、「従業員や株主らに利益を生み、企業の社会的責任を果たしつつ、企業理念や技術革新などを具現する」ことを目指すことになる。中村バランスシートによると内野小では、「学校資産を活用した、かけがえのない価値創造」として、「学校にかかわるすべての人たち(ステークホルダー)の幸せづくり」を挙げていた。中村校長はバランスシート戦略を示しながら、「学校ボランティアや地域組織の支援を負債の部に計上することに違和感を持つ教職員がまだまだ多い。学校は『やってもらって当たり前』の考えを改める必要があると思うのですが…」と苦笑しながら語るのだった。

<青空記者の目>

内野小学校シリーズの7回目に続いて、コミュニティ・スクール(CS)のことについて取り上げてみた。これからの学校のあり方を大きく変える制度改革だと思うからだ。国は2005年度からCSの全国導入に着手。昨年度までに全国で7千6百校以上がこの制度を取り入れているという。私が新潟市長になったのが2002年、新潟市が教職員の人事権を持つ政令市に移行したのが2007年だから、CSはかなりの歴史を積んできたことになる。私は、市長として「CSとして形・制度を整える方向性は良いが、本当に地域との協働を推進する力がある学校が全国にどれだけあるのだろうか」との疑問を持ち、「地域教育コーディネーター」の配置や「地域と学校パートナーシップ事業」の推進を先行させてきた。まさに伊藤元教育政策監の言う「制度の前に、実態をつくってきた」ことになる。新潟市では地域の方が学校にかかわることで「地域の達人」が増え、地域教育コーディネーターから地域コミュニティ協議会や区自治協議会の役も務める方が増えてきた。地域力のアップである。この土台から、新潟で真のコミュニティ・スクールにふさわしい学校が数多く生まれることに期待したい。

 

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