ブログ「青空リポート」地方私大の役割④

教育

◆ブログ「青空リポート」・地方私大の役割④◆

―「人財確保」に地域のスクラムを―

―「地方創生の推進拠点」は地方私大―

<大都市圏から人財に誘いの手>

これまで新潟県内の私立大学は高い地元就職率を維持してきたのですが、人財を地方で確保していく上で心配な点も出てきています。新潟青陵大学看護学部の今年度の就職状況を見ると、これまで低い年でも72%程度を確保していた県内就職率が2024年度は10ポイントほど落ち込みました。この理由については現在調査を続けていますが、コロナ禍が収まり「首都圏一極集中」の動きが再び加速していることとの関連が懸念されます。コロナ禍が襲う前も「首都圏一極集中」が加速する中で「待機児童問題」が顕在化し、例えば東京都や隣接する自治体では住宅手当を優遇するなどして、地方から保育士を〝釣り上げる動き〟が強まっていました。せっかく育てた地元のエッセンシャル人材を首都圏に持っていかれる状況に手をこまねいているわけにはいきません。

<保育士確保に連携協定締結へ>

「保育園発祥の地であり、保育環境の良い新潟市に、地元育ちの保育士を残そう」と新潟市議会有志が声を挙げてくれたことに呼応し、本学園ではまず新潟市私立保育協会と手を組み、新潟市と包括連携協定を結ぶことにし、今、準備を進めています。2月中旬に中原八一・新潟市長と面談し、この状況について説明。保育業界に詳しい人材育成企業「キャリアフィールド」とも組んで、新潟市・市私立保育協会・キャリアフィールド、本学園の4者で年度内にも協定を締結する予定です。協定では市やキャリアフィールドが「新潟市の保育園で働くことの優位性・条件の良さ」などについて周知を図ります。保育士を目指す学生たちはもちろん、高校生やそのご両親らにも広く情報を届けていきます。例えば新潟市の3歳児未満の保育士配置基準は全国でも高水準です。全国では子ども6人に対し保育士さんを1人配置する標準に対し、新潟市では3人に保育士さんが1人と手厚くなっています。また、大都市圏などの狭い園庭や園舎に比べれば新潟市の保育環境がいかに素晴らしいかについて、他の保育団体にも順次連携の輪を広げ、多くの方に周知していくことで「子育てするなら新潟市」のムードを盛り上げていきます。

<看護・介護分野でもスクラム>

日本では人手不足が一気に顕在化してきました。首都圏一極集中の動きを放置し、地方の私大を「統制なき自由競争」に晒していけば、若年人口が大都市圏に吸い上げられていき、地方が衰退していくことは間違いありません。私たちは国に「大きな政策」を求めると共に、「地域の人材を地域で育て、地域に還元していくシステム」を強固にしていくよう努めます。

まずは保育分野で地域のスクラムを組んでいきますが、看護や介護・福祉分野でもこの種の取り組みは有効と思います。本学園で実績をつくりながら県内自治体と県内私大、関係団体とのネットワークを強め、県全体の取り組みまで高めていきたいと思っています。

例えば県内大学などで組織する「地域プラットフォーム」を土台に、地元就職率の高い大学・短大が音頭を取ってテーマごとに関係団体・自治体と協定を結んでいく方式はどうでしょうか。先進的な取り組みや実績を挙げた挑戦には地方創生交付金などで支援をし、文科省レベルの取り組みではなく国全体の「大きな政策」を打っていくことを強く訴えていきます。18歳・22歳人口のいたずらな県外流出を防ぐことが「地方創生」の大きな土台となることは間違いありません。

写真=新潟青陵大学・短期大学部のキャンパス1号館では年に何回か、地域の方も交えてのイベントで盛り上がります。これは「月見草の会」の2シーンです

21日に中教審の答申が示されました。シリーズ①でもご紹介したように中教審大学分科会「高等教育の在り方に関する特別部会」では昨年12月、答申の中間とりまとめを行い、新たに「重視すべき観点」として「高等教育機関を核とした地方創生の推進」を取り入れました。今回の答申も石破政権の掲げる「地方創生」が一つの柱となっています。今後の大学改革の方向性を示すものなので、答申の中でこちらがポイントと捉えたことを中心に概要を紹介します。

◆中教審「高等教育システムの再構築」答申(2月21日)◆

―「大学撤退・縮小へ支援強化」打ち出す―

―「地方の学び」機会減少に強い懸念―

中央教育審議会(中教審)は21日、「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~」について阿部俊子文科相に答申しました。この中で高等教育の「質」「規模」「アクセス」の3要素に触れ、「学生を確保できない高等教育機関は経営が悪化し、教育の質を確保できなくなる」とし、全体の規模適正化を進める一方、「地域における教育機会の確保」の必要性を指摘しました。今後の地方私大の在り方について大きな影響を与える中教審の答申内容について簡単にご紹介します。

<「危機は今、足元にある」>

答申では「はじめに」で現在の状況に触れ、「危機は今、我々の足下にある。その危機は急速な少子化をはじめとした(略)」と書き始めています。「急速な少子化は(2040年ごろには)中間的な規模の大学が1年間で90校程度減少していく規模で進んでおり、定員未充足や募集停止、経営破綻に追い込まれる高等教育機関が更に生じることは避けられない」と指摘する書きぶりは、このシリーズ初回で紹介した「財界にいがた」の記述紹介と変わりありません。「2024年現在約63万人にいる大学進学者数は、2040年には約17万人減の約46万人となり、現在の定員規模の約73%へと大幅に減少する」―との件も記述されています。

「はじめに」ではさらに、「特に地方においては、質の高い高等教育へのアクセスが確保されない事態も想定される。これらへの対応は待ったなしとも言うべき状況にある」と地方の今後に警鐘を鳴らしています。これは私たちの危機感を共有していることと認識しています。

<「質」・「規模」・「アクセス」を提起>

「高等教育政策の目的」の章では「質」・「規模」・「アクセス」の3要素から記述しています。まず「高等教育の質の確保」の重要性に触れた後、「全体の規模」に論を進め、「地域や社会のニーズ等を踏まえた上で、国は再編・統合や縮小、撤退を支援することが必要」と指摘しています「再編・統合」はもとより、「撤退」「縮小」も〝普通の選択肢〟となっていくわけですが、その状況下でも「私立大の公立化については、安易な設置は避ける必要がある」と言及しています。このことは「私大の公立化は、地域の活性化に必ずしもつながらない」とする私たちと問題意識を共有していると受け止めています。

「アクセス」の面では、「個々の高等教育機関や進学者に委ねるのみでは現在のような都市部への集中が引き続き予想されることから、このような事態を防ぎ、地域における『アクセス』を確保するための方策を講ずることが必要である」と記述していることは「卓見」と言えるでしょう。やはり「地方の学びの機会」が減少することには強い懸念があります。

<「地方創生推進」の観点>

次いで「社会の中における高等教育機関の観点」では、「人材育成を核とした地方創生の推進」の項を立て、役割の重要性を指摘しつつ、「高等教育機関が地方創生を推進していくためには、地域の発展に向けて、地方公共団体、産業界、金融機関等、地域の様々なステークホルダーと一体となって取組を進めていくとともに、国がそれを支持することが必要不可欠である」との記述も評価できます。ただ、問題はこれまで指摘しているように、(私たちの努力不足もあって)地方のステークホルダーにその意識がまだ薄いことなのです。

<大都市圏と地方との違い>

答申では「「高等教育への『アクセス』確保」の項を立て、「地域ごとのアクセス確保を図るための仕組みの構築」の重要性を指摘してもいます。具体的には地域のステークホルダーが参画する「地域構想推進プラットフォーム(仮称)を構築することが必要であり」、「コーディネーターの役割が重要」とも記述しています。さらに「都市から地方への動きの促進等を通じた地方創生の推進」の項目の中でも重要な指摘がありますので、ご紹介します。

―また、都市から地方への動きの促進等の取組として、東京圏と地方圏の間で異なる課題があることを踏まえて、地域の特性に応じた方策を検討することが必要である。大学進学希望者に対する大学入学定員(大学進学収容力)が100%を超える東京都や京都府のような大都市圏においては、大学進学収容力の都道府県格差の縮小を目指すとともに、地方圏の大学等との連携を進めることが均衡ある国土の発展や地方創生の観点からも必要である。一定の学士課程定員の規模縮小をしつつ、(略)。

―他方で大学進学収容力が100%未満の道県においては、地方の高等教育機関の振興を図るとともに、地域ごとのアクセス確保を図るための仕組みの構築が必要である。あわせて、対面授業と遠隔・オンライン教育の双方の良さを生かし、全国からアクセスできる、より多様かつ実践的な学修が可能となる環境を整えていくことも重要である。

上記の指摘にも深く頷けるものがあります。

<「たった10年しかない」>

答申は「おわりに」でも重要な指摘を記載していますので、これも再録します。

―18歳人口が急激に減少するのは2035年頃である。あと10年あるではなく、たった10年しかない。この期間に国において必要な制度改正や支援措置を講じるとともに、各高等教育機関においては、本答申で示した質・規模・アクセスに関する必要性を認識し、議論を重ねた上で実行していかなければならない。

―本答申を手に取った全ての者が、今直ちに改革に取り組むことが求められる。また、そのためには、本答申で示した内容について、各高等教育機関の執行部や教職員はもとより、進学希望者や学生、その保護者、地域社会、産業界など様々なステークホルダーにとって分かりやすい情報発信を行っていくことも重要である。

これも「答申の締めの言葉として、もっともなもの」と受け止めています。

<「絵に描いた餅」にしてはならない>

答申は、全体としてバランスが取れており、「地方からの視点」も私の予期以上に盛り込まれていると感じました。ただ、問題はこれからです。大都市圏と地方圏、国公立大と私立大、大規模校と中小規模校では、利害が対立することは当然です。また、新潟県内での利害調整や「アクセス確保を図るための仕組み構築」での役割が期待される「地域構想推進プラットフォーム(仮称)」についても、早期に設置し、機能させていく上で多くの困難が予測されます。最大の「壁」は地域の「様々なステークホルダー」が、少子化が地域の高等教育機関に及ぼす影響をまだ「自分ごと」として捉えていないことと考えます。

今回の中教審の答申を報じた新潟日報ではサブ見出しに「地方の進学機会は確保」と打ちました。これは現段階ではまったくの〝希望的観測〟というか、答申が謳う「目標」にしか過ぎません。今後は答申が記述している通り、「国において必要な制度改正や支援措置を講じるとともに」、「本答申を手に取った全ての者が、今直ちに改革に取り組む」ことが実行されて、はじめて答申の目指す道筋が見えてくるものと思います。

答申を「絵に描いた餅」にしてはなりません。その意味でも私たちは今後、まず多くのステークホルダーの方々に地方の私立大学の現状と課題についてお伝えし、「地方私大の未来は地域の未来に直結する〝自分ごと〟である」ことをご理解いただけるよう努めます。今後もよろしくお願いいたします。

 

 

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