にいがた 「食と農の明日」12

まちづくり

*にいがた 「食と農の明日」(12)*

<ウィズコロナ時代 自然栽培農家の今②>

―心配なコメ農家の後継者難―

―「一生懸命の農家は、みんな仲間」―

<コメ農家は重装備が必要>

「コメ余り」の世の中とは別世界にいるような宮尾さんだが、地域で農業の後継者が少ないことは大いに気になっている。「新潟は、コメ農家に偏っているでしょ。これは正直、難しい面がある。コメ農業は新規就農者というか、非農家が入りにくい構造になっている。だって、畑だったら極端な話、クワ1本で始められるけど、コメ農業は重装備。トラクター・田植機・コンバインをそろえると数千万かかる。そうなると、非農家の子は入りにくく、農家の子が跡を継ぐ形になるけれど、その人たちが農家を継ぎたがらない」と宮尾さん。妻の久美子さんも「乾燥機だっているし、そうなると、家も大きくないと困るしね」と続けた。

写真=「コメ農業は重装備」と語る宮尾浩史さん

<コメづくりは子育てもいたいなもの」>

機械化が進んだコメ農業で、もう一つ、宮尾さんが気になることがある。「何でも機械でやる今のコメ農業は、年を取ってもできる。だから、親父がいつまでたっても、田んぼを子どもに継がせない。オレは30歳で、自分で決めて農業やった。自分で決めたから、へこたれなかったと思う。人に言われてやるのが一番ダメだし、50歳、60歳になって農業始めるんじゃ、情熱が湧かないんじゃないですか」と宮尾さん。そして、宮尾さんには心強い同志がいた。妻の久美子さんだ。「いくら機械化されても、一人で田んぼやるのは難しい。うちは女房と二人でやってきたから」と宮尾さんが言うと、「コメづくりって、子育てみたいなものですかね。夫婦でやってきましたから」と久美子さんが応じた。

写真=「自然栽培の田んぼに入ると、気持ちがいいんです」と語る宮尾久美子さん

宮尾さんが暮らす、阿賀野川より北の地域でも、コメ農家の後継者は少ない。今回の新型コロナウイルスの感染拡大で特に業務用米が落ち込み、新潟県が主食米の栽培面積を10・5%減らす作付目標を発表した。それが離農の引き金になる可能性も心配だ。「70歳ぐらいの人で、『そろそろ、やめたい』という人は大勢います。でも、『あの人に田んぼ任せれば安心』という農家さんが手一杯になってきているし、その人たちも60歳超えていますから、10年後はどうなっているか…」と宮尾さん。久美子さんも「米価がずっと下がり傾向で、耕作規模を大きくすると、その分ダメージも大きくなりますから」と語る。

<園芸プラス食品加工に期待>

「コメ依存が強い新潟の農業は、そんなとこにも問題があるんじゃないでしょうか」と宮尾さんは言い、「それに比べると、野菜農家の方では跡継ぎが結構いますよね。新潟県も今、園芸の方に力を入れると言っているので、それはそれで良いと思う。野菜や果樹やれば直売所などでも付加価値取れるしね」と続けた。久美子さんも「直売所では女性がつくった物が人気ありますよね。ちょっとした味付けなんかは女性が得意だし、買い物する時、選ぶのも女性のことが多いから、消費者の気持ちも分かりますからね」と園芸プラス食品加工に期待する。

<日本一ウエットな田んぼ>

しかし、問題点もある。「海抜ゼロの低平地が多い越後平野は、どうしても水はけが悪いでしょ。野鳥の会の友達が言ってましたけど、新潟がハクチョウの飛来数が一番多いのは、『新潟の田んぼがウエットだから』だって。ハクチョウは田んぼの泥水ごと落ち穂を吸い込むんだそうです。『日本列島は弧の状態になっているから、新潟辺りで一番日本海が幅広くなっていて、湿った雪が降り、田んぼもウエットになっている。それがハクチョウにとっては、一番エサを取りやすい』んですって。と言うことは、新潟が日本一水はけが悪く、畑に転換しにくいってことですよね。転作田の大豆・麦もうまくいかない」と宮尾さん。「その地形的なことも踏まえて、行政とJA,研究機関と農家がしっかり話し合って方向を出してほしいですね。補助金で誘導するんでなく、農家の心が動くように政策を打ち出してほしい」と宮尾さんは語った。

<青空記者の目>

地域の農業のことが気に掛かる宮尾さんは、自然栽培だけにこだわっているわけではない。「オレは自然栽培だけど、有機栽培でも、大規模化でも、スマート農業でも、どの道でも良いと思う。『一生懸命に農業やっている人は、みんな仲間』の気持ちです。それぞれの分野で、誰もが取り組みやすいようにベースをしっかりとさせていくことが大事だと思う」と宮尾さんは語った。「例えばタカツカ農園(秋葉区)の高塚俊郎さんは、『(農薬・肥料を9割減らす)9割減減は簡単にできる』って言ってました。そういう情報を共有できるようにすれば良い」と例を挙げた。しかし、「ハウトゥに頼っていてはダメ」とも言う。「感性と言うんでしょうか。自分で見て、感じて、自分で判断していくことで、本物になっていく」とも言う。県が園芸に力を入れていく時、「農家の心が動くような政策づくりを」と訴えるのも、農家・生産者のやる気が成果を左右すると思っているからなのだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました