*ウィズ・コロナ時代 いま学校は?*
<新潟市内野小学校に見る⑨>
―いろんな子がいて、いろんなスタイルがある―
―「特別支援教育に力 それがうちの特長」―
<「さくら学級」が10クラス>
「やさしさあふれる『さくら学校』」を掲げる新潟市の内野小学校(西区)の特長の一つに、「特別支援教育の充実」がある。新潟市では、LD(学習障害)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害に関する特別支援の学級が平成18(2006)年に鏡淵小(現在の中央区)に初めて設置された。その後、翌19年に万代長嶺小(中央区)と内野小にも開設され、内野小はそれ以来、西区における特別支援教育の拠点となっている。現在も内野小には、西区を対象とした「通級指導教室」が置かれると共に、特別支援の「さくら学級」が10クラスあり、50人以上の子どもたちが通っている。保護者の中には「特別支援教育が充実している」ことから、内野小を選ぶ方もいるそうだ。
内野小の中村芳郎校長は「内野小は特別支援教育の推進校であり、特別支援の学級が10クラスあるのは新潟市最大です。私は、2年半前にこの学校の校長になった時から、特別支援教育に力を入れるべきと思い、学校課題には『いじめ・不登校の未然防止・解消』と並んで、『特別支援教育の充実』を挙げています」と語る。その話を聞いて思い出したことがあった。発達障害は私が市長になった後の平成10年代後半から全国で急速に問題が表面化。子どもが小さい時に的確な対応を取ることが特に重要と聞いた。新潟市では、教職員の人事権を持つ政令市に平成19年に移行することが決定した時点から、重点的に取り組むことを市教委に指示していた。その役割を内野小などが果たしてきてくれたのだ。
<「通級指導教室は、うちの財産」>
特別支援教育の推進校である内野小には、西区全体を対象とした「通級指導教室」が置かれているが、中村校長は「それは、うちの学校の財産」と言い、こう続けた。「通級指導教室が内野小にあるのは、大変にありがたい。ここには通級指導の専門教員が加配で配置されています。彼は発達障害の分野のプロで、発達障がいや特別支援教育のことについて、教職員や保護者、見守り隊のなど地域の方に、きちんと、分かりやすく話してくれる人。お陰で、地域では特別支援教育への理解が極めて進んでいます」。
<特別支援教育の草分け>
そのプロである門野慎一さんは、60歳を迎えて再任用の教員として勤務されている。通常の学級を10年以上指導した後、23年前、教員としては全国で4番目に臨床心理士の資格を取り、特別支援教育に力を注いでいる先生だ。臨床心理士の資格を取った動機について尋ねると、「大学でカウンセリングを専門に学んだこともあって、子どもの心を大切にしつつ、子どもの全体像を育てる教育に関心がありました」と言う。学校現場のほか、市の教育相談センターにも勤務されてきた。
写真=通級指導教室で勤務する門野慎一先生。特別支援教育の草分けだ
ADHDなどへの対応には「早期発見」が大切なのだが、以前は保護者が「うちの子は違う」と言って、特別支援の教室に入ることを拒む例も少なくなかった。新潟市では「早期発見―早期対応」の流れが脈々と受け継がれ、幼稚園・保育園との連携も進んできた。
<後継者をどう育成するか>
内野小校区では地域ぐるみの理解が進み、特別支援教育のクラスが増えてきた。「通常学級を担当する先生の中にも、『特別支援教育の道に進みたい』と言う先生や、『通級指導教室がある内野小に勤務しているのだから、特別支援教育をもう少し学んでみたい』と言う方が増えている」と門野先生は言う。その方たちの希望に応える形で開かれているのが「門野講座」だ。教職員の自主研修講座で、通常は午後5時半前から1時間、コロナ禍のいまは午後4時ごろから開かれ、30人ほどが講座を受ける時もあるという。講座は10月頃まで続く予定だ。
中村校長は「特別支援教育のニーズは高まる一方だが、専門家である先生がまだまだ足りない。この分野の教員養成機能を充実させることも、新潟市教育の課題でしょうか」と言い、「うちの学校では、新採用5年以内の若い先生に意識してやってもらっています。若いうちに特別支援教育のノウハウを身に着けることは大事だし、いろんな子どもがいて、いろんな学びのスタイルがあることを知ってもらうと、先生としての引き出しが豊富になりますよね」と語った。
<10クラスで多様な学び方>
現在、内野小学校は大規模改修中だが、今週から一部の校舎が改修を終わり、学校側に引き渡された。特別支援教室も新しくなったと聞いて、新しい教室での学びを拝見した。1クラス平均5人ほどの少人数で、それぞれのスタイルで子どもたちが学んでいた。ボードにはそれぞれの子どもの日程表が書かれており、教科によっては通常教室に行き、みんなと一緒に学んだり、遊んだりする。
写真=少人数で学ぶ内野小学校「さくら学級」の様子。ホワイトボードには、各人のこの日の日程が書かれている
「いろんな子がいて、いろんな学びがあって、それが当たり前」との考え方が、「学校を通して、地域にも広がっている」と聞き、伸びやかな気持ちにさせられた。中村校長は、西蒲区の大規模農家と組んで、特別支援の子どもたちが農業に親しむ「農福連携」にもこの秋から取り組む予定という。その収穫が楽しみだ。
<青空記者の目>
特別支援教育のことについて、久しぶりに学ぶことができた。私が新潟市長になった2002年ごろは、「発達障害」という言葉自体があまり知られていなかった。それが教育分野で広がり始めた2005年、中野山小学校の当時校長だった大森修先生が東北大の小児科医師を招き「発達障害」をテーマに研修会を開いたら、全国から数百人の教師が集まった。このことに私は衝撃を受け、新潟市として「発達障害」に取り組むきっかけになった。それ以降も特別支援教育の重要性は高まり続けている。
「ウィズ・コロナ時代」に対応して考えてみよう。小児科医で車いす利用者でもある熊谷晋一郎・東大准教授のインタビューを毎日新聞で読んだ。熊谷准教授は、「コロナ禍によって、国民は総障害者化した」と言う。コロナ禍によって、すべての人が外出など行動を制限され、多くの人が「社会環境との摩擦」を感じている。誰しもが不自由さを感じることで「互いを思いやる連帯の社会」に向かうのか、人々の心に余裕がなくなり「自分よりも深刻な状況にある人を蹴落とす選別の風潮が増すのか」、いまが分岐点だと指摘する。新潟市は「連帯の社会」を目指したいし、少なくとも内野はその方向に進んでいることを確信した。
<メモ>
通級指導教室=通常の学級に在籍している軽度の障がいのある児童に対して、各教科の指導を通常の学級で行いながら、障がいに応じた特別の指導を行う指導形態のことで、その指導の場が「通級指導教室」となる。
新潟市の特別支援教育推進校=各地区の発達障害通級指導教室が設置されている小中学校を推進校と位置づけ、内野小学校の他、万代長嶺小や鏡淵小など9小学校と、中学校では白新中が指定されている。
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