いま内野小学校は?3

まちづくり

*いま内野小学校は?(3)*

<PTA活動から地域活動へ 「Smile Story」②>

―「楽しんでいると、みんなつながっていく」―

―地域と時代に支持され、広がる活動分野―

<海岸清掃にも「さくら食堂」の旗>

7月10日の午前8時、梅雨空の西区海岸に親子連れや同じ会社のグループなど70人ほどが集まってきた。この日は、内野小学校(新潟市西区)のPTA活動から地域活動へとウイングを広げる一般社団法人「Smile Story(スマイル ストーリー)」の海岸清掃「スマイルクリーン」が行われる日だ。昨年6月から始まって、今回が27回目というから、すごいピッチだ。代表理事の綱本麻利子さんは「夕日クリーンと銘打って、1週間通しでやったこともありますから」と涼しい顔で言う。この日は、西区の五十嵐1の町から上新栄町にかけての海岸で1時間かけてごみを拾った。

写真(左)=海岸清掃にも「さくら食度」の旗が (右=7月10日に海岸清掃の様子

スマイルクリーンはPTA関係者から口コミで次第に広まっていった。今は、海を愛するサーフィン仲間や、CSRの観点から協力するようになったパソナ、カルビーなど会社員の姿も見られる。普通の海岸クリーン作戦と少し違うのは、ごみを拾うトングやごみ袋が置かれたテントに、いつも「さくら食堂」の旗がはためいていることだ。この日もホットドッグやジュースなどが人数分用意されていた。「スマイルクリーンの後、一緒に軽い食事をします。そのことで、笑顔が広がり、いろんな人とのつながりができていくんです」と綱本さんが言えば、副理事の高橋智恵さんも「とにかく楽しくやっています。そうすると人が集まってくる。やっぱりご飯が出てくると、人は楽しくなりますよね」と応ずる。2人の名刺には「自然と食からはじまる少し先の未来につながる笑顔」と書かれていた。

<多彩な人とつながっていく>

「人とのつながり」を大切にしているだけに、この日も多彩な人が集まっていた。例えばごみ拾いの時に使うトングを製作した永塚製作所の能勢直征社長だ。「海は、ごみの出口なんですよね」と能勢さんは言う。「全国いろんな清掃活動をやってくれていますが、スマイルのようにいつも食堂の旗を立てているところはあまりないかな」と能勢さんらは笑顔で語っていた。サーフィン仲間の「シーサイド・カルチャー」のメンバーも「スマイル」の活動に伴走している。「地域の方々、それもお母さんたちが地元の海岸に注目してくれるのはありがたいですね」とメンバーは語り、大きなごみの運搬を手伝っていた。

写真(左)=海岸清掃に参加した親子連れ

(右)=トングの前に立つ高橋智恵さん

<コロナ禍の危機感から地域活動>

さまざまな地域活動に取り組む「スマイルストーリープロジェクト」が始まった背景には、前回述べたように商社マンから「公募校長」に転じた中村芳郎さんの学校と地域をつなぐエネルギーと、「創立150周年」を迎える内野小学校を盛り上げようとする地域の機運があった。さらに綱本さんらの背を押したのは新型コロナウイルスの感染拡大からの危機感だった。「スマイルの活動の始まりは、コロナで芽生えた危機感です。満足に人とも会えなくなって…。人と人とのつながりが切れると、どんなに切ないことになるのかがよく分かりました」と綱本さんは言う。PTA役員として内野地域での活動を始めてはいたが、「例えば、西区の海岸の現状がどうなっているかも知らなかった。中村校長やPTA会長だった徳山(啓輝)さんらと相談して、PTA仲間の女性たち数人と、人とつながる地域活動を始めることにしました」と綱本さん。

<昨年6月に一歩踏み出す>

昨年6月27日、「笑顔からはじまる海岸の清掃活動スマイルクリーン」で一歩を踏み出し、そこから一気に活動が広がった。7月末に「笑顔と食をキッチンカーでつなげる」構想を立て、8月末には「食事から笑顔につなげる『さくら食堂』」、秋には活動を「Smile Storyプロジェクト」と命名。10月下旬には移動型の「Mobileこども食堂」と立て続けに活動した。今年に入ってからも1月から3月までは月一度、土曜日に内野小体育館前で「Mobileこども食堂」を開き、子どもは無料、大人は300円でお弁当を配った。高橋さんは、「日本初の移動型こども食堂を名乗っています。モットーは『子どもたちの三食と心を守る』こと。いつでも安心して来てもらいたいし、イベントがない時は、こちらからイベントを企画して、子どもたちの笑顔を見ていきたい」と語る。

<今年6月、一般社団法人に移行>

年度明けにも「スマイル」の勢いは止まらず、4月には河川基金に事業採択されて「自然と笑顔を未来につなげるスマイルプロジェクトGreen Smile」に取り組み、7月末には内野で講演会を開く。これに先立ち、6月には一般社団法人「Smile Story」に移行した。社団法人になるハードルは相当高いと思うのだが、「手続きは行政書士さんがやってくれました」と綱本さんらは軽やかに語る。

「スマイル」は、他にも地域にある日本文理高校の「探求の時間」に協力したり、内野小の特別支援教育を支援したりしているのだ。活動には内野の飲食店をはじめ、地域の方、JA、地域の枠を超えた企業など、さまざまな人が協力している。これも「人と人をつなぐ」スマイルの活動に共感しているからなのだろう。今後は一般社団法人としての活動になる。「これまでは中村校長や徳山さんの話を聞いて参考にし、活動は寄付や助成金をいただいてやってきました。社団法人は会員を募って会費で運営していく。これからですね」と、綱本さんたちは前を向いて語るのだ。

真(左)=海岸清掃でつながった方たちと綱本さん(中央) (右)=本部の旗の前に立つ徳山さん。玉ねぎはJA全農にいがたの提供だ

<「何をやっているのか、分からないのがいいの」>

スマイルは、どこからこんな活力が出てくるのだろう。綱本さんに活力の源泉と活動の目的について、もう一度聞いてみた。「こども食堂も海岸清掃も、それをやること自体が目的ではないんです。人と人がつながるための、きっかけの一つと言うんでしょうか」と綱本さんは語り、「こども食堂だけ、海岸清掃だけ―それだとつながりが広がらないと思うんです。だから私たち、『スマイルは何をやっているのか、分からないのが良いのよね』と言い合っているんです。『それで、いろんな人がやって来てくれるんだ』ってね」。そう綱本さんは続けた。高橋さんは、その言葉にうなずきながら、「海岸清掃も清掃だけでなく、ご飯も出るから、また楽しくなるじゃないですか。楽しくやっていると、また人が集まる。そんな風に考えていますけど」とシンプルさを強調する。しかし、二人は時代の追い風を感じてもいる。コロナ禍への対応として人をつなぐことが支持されていることがその一つだが、「それとSDGsが社会に浸透してきているのも、私たちにとって追い風でしょうか」とも語るのだった。

<青空記者の目>

市長時代、新潟市の小中学校に地域と学校をつなぐ「地域教育コーディネーター」を置いた時、多くの学校で女性たち(その多くはお母さんであり、おばちゃんたちだった)がその任に当たってくれた。単に役を引き受けてくれただけでなく、期待を遥かに上回る力を発揮してくれたことに驚かされもした。よく、「大阪のおばちゃん力がすごい」と言われる。人をつなぎ、場をつなぐ、その能力は確かにすごいと思うが、新潟市教委の先生方の中には「新潟のおばちゃん力は、大阪に勝るとも劣らない。教育コーディネーターは、その力に支えられています」と言う人もいた。私もその考えに賛同した一人だ。

Smile Storyのメンバーは、「おばちゃん」と呼ぶには若すぎるが、「新潟の地域力に新たな推進役が現れた」との気持ちにさせられるほどのパワーを感じた。その推進力を生み出したものは「中村校長のエネルギ―」、「小学校の創立150周年を控えた内野地域の盛り上がり」、そして「コロナ禍」という非常事態―この3つの要素に加え、「SDGsなど時代の追い風」がSmileを大きく羽ばたかせているのだろうか。Smileの活動は、地域と時代に支持されている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました