◆実家の茶の間 点描◆
2023年9月18日
―9周年に向け、話し合い
モデルハウスの意義問い直す―
<みんなで意見交換>
9月4日(月)午後3時、新潟市の地域包括ケア推進モデルハウス「実家の茶の間・紫竹」では運営時間が終わったのに、お当番さんやサポーターの方たち十数人が車座になっていた。実家の茶の間運営委員会代表の河田珪子さんが話を始める。「今日、皆さんにお集まりいただいたのは、来月に迫った実家の茶の間9周年の集いをどうするか、その相談のためです。10周年となる来年10月には、ここがどんな役割を果たしてきたのか、その総括を協働事業者の新潟市からも求められています。きちんと10周年まで活動していくためにも、9周年は大切だと思うの。皆さんから話をお聞きし、9周年のことを決めていきたいと考えています」。そんな風に河田さんはこの日の集まりの意味を語った。
写真=河田珪子さんの進行で9周年の取り組みの話し合いが始まった
<賑やかだった過去の周年事業>
河田さんの話を聞いて、集まった方々の多くはこれまでの周年事業のことに思いを馳せていたのではないか。コロナ禍の前まで、周年事業には新潟市長やご近所さん、お世話になっている方らを招き、祝祭のような賑やかさの中でお弁当や紅白饅頭を食べ、これまでの活動について語り合うのが常だった。特に2019年の5周年の時は大広間から廊下まで百数十人の人が溢れ、〝すし詰め〟状態だった。コロナに襲われてからも2020年の6周年は黙食ながらカレー昼食をみんなで味わった。そして7周年は昼食こそ提供できなかったものの、「これまでを振り返り、これからを考える写真展」を開催。実家の茶の間の活動を「見える化」して運営の軌跡を確認するとともに今後の展望を考えるきっかけとした。
写真=実家の茶の間の広間にはモットーが貼り出されている
<8周年は「心の中を聞いてみよう」>
そして、昨年の8周年。河田さんたちは「今度は目に見えないものに光を当てていこう」と方向を決めた。各自の胸のうち、心の中を聞いてみることにしたのだ。アンケート方式ではあるが、新潟医療福祉大の学生さんにも手伝ってもらい、利用者やお当番さん、サポーターの方に丁寧な聞き取りをすることで、「実家の茶の間がそれぞれの人にとってどんな存在なのか、どんな役割を果たしているのか」を確認することにしたのだ。結果は驚くべきものとなった。利用者やお当番さん・サポーターの垣根を超えて、実家の茶の間の活動に参画されている方はすべて「自らの自己実現のため」、この場に関わっていることがアンケートから浮かび上がってきたのだ。「茶の間にはお世話をする方も、お世話をされえる方もいない。いるのは場の利用者だけ」という「実家の茶の間の目指す姿」が具現化されていたのだ。これは河田さんたちにとっても大きな喜びであり、確かな自信ともなったのだった。
<9周年をどうするのか?>
こんな流れで迎える9周年。そして翌年には「実家の茶の間・紫竹」を本格総括し、実家の茶の間の経験やノウハウを次世代に伝えていく大きな〝節目の仕事〟が待っている。進行役の河田さんは、実家の茶の間運営委員会と「協働のパートナー」である新潟市役所をつなぐ役割を果たしてきた望月迪洋・市政策調整監らに水を向け、話を引き出していった。やはり、「実家の茶の間が目指したものは何だったのか?」「そして現在の到達点はどこまで来ているのか?」「10周年のためにもここら辺を確認したい」などの気持ちがポツリ、ポツリと語られ出した。実家の茶の間を立ち上げる時の市長だった「青空記者」にも質問の矢が飛んできた。「来年の〝本格総括〟の前作業のためにも、実家の茶の間はどこを目指し、どこまで歩を進めたのか…。自分たちでここを確認しておく意味は大きいのでしょうね」などと申し上げた。
<「自己点検・自己評価」をする9周年に>
写真(左)=実家の茶の間の外観 (右)=同じく玄関。誰でもが入りやすいように開け放たれている
河田さんはこの日、自らの気持ち・思いを「方向性」として強くは打ち出さなかった。しかし、やはり実家の茶の間・紫竹が「目指したもの」と、「進んできた道のり」をみんなで確認する「自己点検・自己評価」を9周年のメインにしたいように感じた。
幸い、7周年で実家の茶の間が取り組んできたものを「見える化」し、8周年では「それぞれの胸の内」を聞くことで、なかなか評価しにくい「心の充実度」を測ることができてもいる。その延長線上に、「実家の茶の間・紫竹」が目指したものをみんなで再確認し、それぞれが考える「取り組みの到達点」を出し合うことで、10周年の展望が開けるのでは―そんな方向性が見えてきた話し合いになった。
<群を抜く「ネットワークの力」>
それ以降、実家の茶の間が運営される度、河田さんはみんなの気持ちを確認しながら9周年に向けて進んでいる。その一環として、実家の茶の間の活動を裏打ちする過去の資料を利用者に見てもらい、感想を聞き出す作業も続けている。例えば「社会性のある茶の間」を目指す実家の茶の間がどんな団体・組織と繋がっているかを示す資料がそれだ。
写真=実家の茶の間がどんな組織・団体とつながっているかを示す図
図で見るとお分かりいただけるように、実家の茶の間は驚くほど多くの団体・個人と繋がっている。「茶の間」「居場所」を名乗る施設は全国に数多くあるだろうが、これだけのネットワーク力を持つ施設は(おそらく)ないだろう。しかも「視察・研修」で実家の茶の間を訪れる方は全国に広がっている。地域包括ケアシステムが本格稼働する2025年に向けて、全国の関係者が実家の茶の間が培ってきたノウハウ・実践事例・対応力を求めているのだ。
<「青空記者」の目>
9周年に向けて、河田さんたちは「実家の茶の間・紫竹」が目指してきたものと、活動の到達点について整理しようとしている。「実家の茶の間が目標としてきたものを自らで確認し、活動の到達点を自己評価・点検することは大切と思います。その時、ありがたいのは外部の方が様々な評価を既に行っていただいていること。8周年の時のアンケートについては、さわやか福祉財団の情報誌『さぁ、言おう』で整理してくれているし、ほら、篠田さんも丁度『実家の茶の間日誌』を本にしてくれたじゃないですか。このような第三者評価を踏まえて、自己点検・自己評価ができるのは大変にありがたいことです」と河田さん。
写真(左)=新潟市の紀伊国屋書店に並べられている拙著。手書きの紹介文まで付けていただいた (右)同じく蔦屋新潟万代店に置かれている拙著
ここで出版のことについてご報告させていただく。河田さんから紹介いただいたように、拙著「『実家の茶の間』日誌(2020年2月~2022年10月)み~んなで生きてこ」(幻冬舎ルネッサンス新書・税込み990円)が9月上旬に発売となった。コロナ禍にも負けず、みんなの居場所である実家の茶の間を守り抜いた河田チームの苦闘の日々を追ったものだ。新潟市の書店にも並び始めたので、興味のある方は是非手に取っていただきたい。この出版を励みに、「実家の茶の間・紫竹」の10周年に向けての歩みに「青空記者」も伴走していきたい。
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