ブログ「青空リポート」地方私大の役割①

教育

◆ブログ「青空リポート」・地方私大の役割①◆

―看護、子育てなどエッセンシャル人材を地元に―

―地方から私立大が消えると、地域は間違いなく衰退する―

 

いま、新潟県内の私立大学の定員割れがマスコミで話題になっています。新潟青陵大学は幸い定員をオーバーしていますが、短期大学部は2023年から定員割れとなりました。県内の私立大学・短大がさらなる苦境に陥っていくと、地域にどんな影響が出るのか―このことを皆さんと一緒にブログ「青空リポート」で何回かに分けて考えてみたいと思います。

写真=新潟青陵大学・短期大学部の1号館。間もなくこのような桜の季節が訪れます

<県内の私大の8割強が定員割れ>

昨年9月24日、新潟の県紙である新潟日報に県内私立大学の定員割れの状況が報道されました。「学生確保競争激化」「地方私大は『冬の時代』?」「新潟県内私立大『8割定員割れ』、関係者に募る危機感」とのカット見出しが躍っていました。

「2024年度は、新潟県内に15ある私立大学の8割強に当たる13大学が定員割れとなった。今年度開学した私立大1校も定員割れしており、定員割れの県内私立大は前年より3校増加。また、定員充足率は85・2%と過去10年で最低となった。この数字は全国の定員充足率98・1%に比べ13ポイント近く下回っており、県内の私大関係者は強い危機感を募らせている」との趣旨の記事が続いていました。

<「2040年問題」も提起>

地元の情報誌「財界にいがた」がこれに続きます。今年1月号の特集「大学2040年問題―少子化で勝ち組、負け組の仕分けが始まった私立大学」では、大学進学者が激減していく「2040年問題」に焦点を当てていました。以下、その要旨を2段落にまとめて紹介します。

―中教審大学分科会「高等教育の在り方に関する特別部会」では、昨年12月にまとめた答申案の中で「現在約63万人いる大学進学者数は。2040年には約17万人減の約46万人となり、現在の定員規模の約73%へと大幅に減少すると予測される。

―また、同分科会・特別部会では「2040年頃になると、大学進学者数は1年間で約2万4千人ずつ減る。これは中規模大学・短大(入学定員270人程度)が毎年90校程度、減少していく規模」との一文をまとめ、大学関係者に改めて衝撃を与えた。

同誌の記事は、今年度中に答申をまとめる中教審大学分科会・特別部会の審議報告を基にしており、その内容に間違いはありません。

<大学の〝淘汰〟は地方から始まる>

さらに同誌では別項を立て、「『大学の2040年問題』を乗り越える 県内私大の『あるやなしや』」と踏み込んでいました。その中で「2040年生き残りに必要な3つの優位性」として①立地エリア=大都市圏②規模=定員が多い③受験難度=難度が高い―との説を紹介し、新潟県内の私大は「生き残りに必要な『3つの優位性』に乏しい」と論を進め、「県内私大に2040年問題を乗り越える力があるか」を探っています。「3つの優位性」についても大きな異論はありません、大学関係者では通説となっている指摘です。

<大学と短大の違いは…>

これらの指摘に加えて、大学と短大の定員割れ状況の違いについて補足しておきます。短大の定員割れは大学より早く始まり、今や全国の短大の91・5%までが定員割れとなっています。短大の定員割れは、大都市圏・地方都市を問わずに広がっているのに対し、大学は「地方にある中小規模の大学(入学定員が300人程度以下)から淘汰が始まり、18歳人口の進学者数の〝崖〟が出現する2035年ごろには影響が一気に拡大し、大きな対策を取らなければ地方から中小の私大が消えていく」ことも教育関係者では通説といって良いでしょう。地方の私大にとっては、「2030年代問題」と言い換えたくなるほど待ったなしで大変な問題なのです。

<地方私大の衰弱は地方の衰退に直結>

現在、多くのマスコミの指摘は、「大学、特に地方私大の問題」とのレベルで止まっています。地方私大の運営に当たる私たちは、「地方私大の衰弱から何が始まるか」を広く世の中に知っていただきたいのですが、こちらの力不足でそのことを伝えきれていません。この稿では「地方私大の衰弱から、何が始まるのか」―について、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。

結論から申し上げます。地方私大の衰弱は、地方衰退を加速させるスイッチになります。

少子化により、18歳の大学入学者が減少していくことは止められません。日本の大学がその減少スピードに合わせて均衡縮小していくなら、日本全体が人口減少の推移に合わせて形を変えていけるし、それはやむを得ないことでしょう。しかし、大学は均衡縮小ではなく、「地方私大の衰弱」が先行し、それはやがて「地方私大の大規模な淘汰」となっていきます。その時、何が起きるのでしょうか―。これまで地方の若者を地方で育ててきた高等教育機関(その大半が私大)がなくなっていけば、まず若者が地方で学ぶ機会が大幅に減ることになります。

<地方の暮らしは地方私大が担っている>

地方の国公立大学は当面残るでしょうが、(後述するように)地方の国公立大の地元学生率は地方私大に比べてかなり低いのです。よそから来た若者が新潟で学ぶことは大いに結構ですが、問題は定着率です。(これも後で数字をお示ししますが、)地方の国公立大の県内就職率は地方私大に比べてこちらもかなり低いのです。

地域の暮らしにとって欠かせない子育て・看護・介護・福祉分野などのエッセンシャル人材や、地元中小企業が求めるビジネス人材・技能者の多くを育て、地方に定着させている役割は、地方の中小私大が担っています―このことを強く訴えていきたいですし、地方の国公立大ではこの機能の代替はとてもできないこともデータでお示ししたいと思います。

<有名私大では「代替不可能」>

「地方私大がなくなっても、有名私大は残るのだから…」とお考えの方も多いでしょう。しかし、現在でもお分かりの通り、大都市圏の私大で学んだ大学生のUターン率は20~25%。5人のうち4人は出身地に帰ってくることはなく、それが「東京一極集中」の一因となってきました。今後、国・地方が一体となって「総合的、かつ大きな政策」を打たなければ、看板と体力のある有名私大が生き残り、大学は「若者を大都市圏に吸い上げる装置」としての機能をさらに大きくしていくことになります。

<出生率は東京が最低>

いま、石破政権は改めて「地方創生」の旗を振り、コロナ禍が収まった後に復活してきた〝首都圏一極集中〟の流れを変えようとしています。省庁・企業の地方移転も大いにやるべきですが、一番の問題となっている「地方からの若者の流出」を止めるには、私大など地方の高等教育機関を維持する政策が最優先ではないでしょうか。地方から若者を吸い上げながら出生率が低い東京圏を〝ブラックホール〟と称する見方があります。人口減・少子化の中でブラックホールを大きくしてはいけません。

2023年の合計特殊出生率が全国平均1・20なのに対し、東京都は0・99で全国最低。ちなみに新潟県は1・23です。東京に若者が集まることは日本全体の少子化・人口減をさらに加速する大きな要因となります。私大など地方の大学は、地域の人口流出に歯止めをかけ、地方の人口減少を抑える上で大きな役割を果たしているのです。

<「大きな政策」が不可欠>

そのことを指摘した上で「総合的、かつ大きな政策(以下、大きな政策)」をいくつか考えてみました。1つは文部科学省の私立大学等経常補助金予算を増額し、国公立大と私立大の大きなハンディキャップである国公立大学の運営費交付金と私立大学の経常費補助金の格差を縮小することです。さらに地元就職などで地域に貢献している私立大に「地方創生交付金」を活用することなども考えられます。2点目は、地域ごとに国公立大と私大の均衡縮小を図る政策です。これは中教審でも設置を指摘している「地域プラットフォーム」(地域の国公立大と私大、自治体関係者らが話し合う場)の活用が早道でしょう。3点目が、大都市圏と地方の私大の均衡縮小を図る政策となります。2018年から10年間、東京23区では原則、大学の学部・学科の定員を増やせないようにする「定員抑制」が掛けられていますが、さらに強化して少子化時代に対応することが必要です。4点目は「大学が地方創生の核となる」ように自らを磨き、地域と徹底連携していくことです。大きな改革を国・地域に呼び掛ける際、大学側の自助努力が必須の前提条件となります。

<大学が「地方創生の核に」>

いま、中教審大学分科会「高等教育の在り方に関する特別部会」では今年度末にまとめる答申案づくりの詰めに入っています。ここで新たに「重視すべき観点」として登場したのが「高等教育機関を核とした地方創生の推進」との表現です。石破政権が進める「地方創生」に地方の大学がどれだけ貢献していけるかーそれが地方私大の生き残りのカギとなるでしょう。「大きな政策」の前提は、「それぞれの大学の自助努力」と述べました。ちなみに新潟青陵学園では新年度、地域課題の解決に挑む「ソーシャルイノベーション」に本格的に取り組むことにし、「青陵ソーシャルイノベーション推進機構」を設置します。これも「地域にとって私大が必要」、「地域にとって青陵の存在が不可欠」と少しでも多くの地域の方から思っていただける取り組みです。(これについては別項で詳述します)

少子化の流れは速く、勢いを増しています。国と地方の官民が力を合わせ「大きな政策」を打っていかなければ、地方私大は2030年代に一気に衰弱していくでしょう。そうなれば、「地方創生」どころではなく、「地方衰亡」となってしまいます。今が「剣が峰」なのです。

<いかに「自分ごと」と捉えてもらえるか>

問題は、「2030年代問題」が大学の問題に矮小化され、地方にとって「自分ごと」になっていないことです。「急速に進む少子化」→「地方私大の窮乏」→「地方の衰退を加速する引き金」→「地方衰亡」―との構図は自治体や地域経済界にさえ伝わっていません。その一義的責任は十分に情報を発信していない大学側(特に地方私大)にあります。「2030年代問題」の深刻さを、もっと地域に発信して、これまで「他人ごと(大学の問題)」と捉えられてきたものを、「自分ごと(地域の問題)」として捉えていただけるよう、私たち、私大側の努力・発信が必要なのです。これまで、地方の私大は目の前の「定員割れ対策」に追われ、スクラムを組んで声を大きくする余裕もありませんでした。また、先ほどの「地域プラットフォーム」はできていても、形だけで本当の議論や検討の場となっている地域は極めて少ないのが現状です。しかし、いま声を挙げなければ手遅れとなってしまいます。

<国公立大と私大の比較>

どうすれば「自分ごと」と思っていただけるか―。これを考えていただくデータの一つとして、県内の国公立大と私大の学生数を比較してみました。確かに新潟県内の私立大学は〝小粒〟です。以下の表をご覧ください。

◆2021年の入学定員と入学者数

・国立大(3校)入学定員2467人 入学者2536人(充足率103%)

・公立大(4校) 入学定員763人  入学者825人(充足率108%)

・私立大(14校)入学定員3417人 入学者3226人(充足率94%)

・私立短大(5校)入学定員690人 入学者593人(充足率85・9%)

◆2024年度の入学定員と入学者数

・国立大(3校)入学定員=2480人 入学者=2545人(充足率103%)

・公立大(4校)入学定員=763人 入学者=816人(充足率107%)

・私立大(15校)入学定員3807人 入学者=3242人(充足率85%)

・私立短大(5校)入学定員665人 入学者577人(充足率86・8%)

<規模の小さい県内私大>

2021年では私立大の入学者総数は3226人で国公立大の3361人を135人程度下回っています。2024年度では私立大は1校増えたものの入学者は3242人で、国公立大の3361人をやはり下回りました(これに県内短大5校=すべて私立=の入学者577人を加えると3819人となり、国公立大を460人ほど上回ることにはなりますが…)。私立大1校平均の入学者数は217人弱で、国公立大480人弱の半分にも及びません。規模面で比較すると新潟県内の私立大は甲信越エリアの260人弱も下回っており、〝体力不足〟は明らかです。

<県人学生数では私大が圧倒>

しかし、「小粒な県内私大」を県人学生率・人数で見ると、また、違う姿が浮かび上がってきます。まず、2024年度の数字で比較してみましょう。

◆2024年度の県内大学の県人学生率と県人の数

・国公立大(7校)県人学生率=43・8% 県人学生数=1473人

・私大(15校) 県人学生率=67・6% 県人学生数=2192人

参考=私立短大(5校)県人学生率=77% 県人学生数=445人

2200人近い県人が地元の私立大学で学んでおり、これに短大の学生数を加えると2640人ほどとなります。国公立大の県人数1470人に大差をつけています。この傾向は遡ってみても大きな違いはありません。

<若者の県外流出を食い止める地方私大>

県内の私大1校ずつは小粒でも、短大を含めて地元の若者が高等教育を受ける上で大きな役割を果たし、18歳人口の県外流出を食い止めてきたことがお分かりいただけたでしょうか。そのことで新潟県の大学進学率向上にも寄与してきたのです。

近年、新潟県の人口は毎年2万5千人程度減少を続けています。中でも問題は社会減で2023年は前年に比べ約4200人減少しました。仮に県内私大で学ぶ2600人以上(短大を含む)の18歳人口が県外に流出したらどうなるでしょうかー。想像したくもない事態となるでしょう。また、(定着率が低いとはいえ)県外から学びに来てくれている学生を入れると3800人以上の18歳人口が県内の私大・短大で学んでいる価値は極めて大きいと言えるでしょう。

<国公立大は地元就職も低め>

次に地元就職率を見ていきましょう。地方の国立大の地元就職率は地元学生率と連動しているのか、40%程度のところが多いそうです。新潟大学の地元就職率も37%程度。長岡技科大は県人率より県内就職率が低く20%程度。上越教育大は教員の県内就職数からみると40%程度です。

公立大で県内就職率が高いのは県立看護大で63%程度。新潟県立大は50%。長岡造形大では公立化が響きかなり低いようです。長岡市関係者の話では「20%台前半ではないか」とのこと。私大当時の70%程度と比べかなりダウンしています。三条市立大は今年度、初の卒業生を送り出すことになります。

<地方私大は地元就職率も高い>

一方、私大の地元就職率は公表していない大学もあり、正確な比較は難しいですが、教育関係者の見方では「国公私立を問わず、多くの大学で県人率と県内就職率は相関しており、大きな差異のある大学はほとんどない」そうで、大状況は県人比率と大差なさそうです。例えば県人率が90%台を維持している新潟国際情報大では、地元就職率も80%程度をキープしているそうです。

新潟青陵大学は、ここ数年の学生県人比率が90%前半から80%台半ばで、県内就職率を見ると看護学部(定員90人)では70%台半ばで推移してきました。毎年60人以上が県内で看護師などとして働き始めるわけで、県民の安心・安全面で相当の役割を果たしていると自負しています。子育て・福祉面などの人材を育てる福祉心理子ども学部(定員140人)の地元就職率は80%台で推移しており、この分野でも毎年110人程度の人材を地元にお返ししているのです。

県内では地元就職の面でも国公立大に比べて私大が大きな役割を果たしていることは間違いありません。

<県のデータから見た地元貢献度>

手元にあるデータで若干補強します。例えば県内の看護師の就業状況に関する新潟県データでは2023年度に県内の看護師養成校を卒業し看護師として就職した人数は1109人。うち約65%の725人が県内就職です。看護分野の国公立の入学定員は新潟大看護学専攻が80人、県立看護大が95人であり、両大学の地元学生率から類推すると県内就職の割合は50%台と見られ100人弱ではないでしょうか。県内に就職する看護師の大半を私立が担っていることになります。ちなみに本学園は2023年度の地元就職率は72・5%で、県内に看護師・助産師・保健師・養護教諭合わせて66人を送り込んでいます。

同じデータで保育士・保育教諭を見ると、県内では1万人以上が働いており、国の離職率データ(毎年約10%)を当てると年1000人程度の新規雇用ニーズがあるとみられます。県内の指定保育養成施設の入学定員は765人で、全員が地元就職しても足りない状況です。うち国公立は新潟県立大子ども学科(定員50人)があるほか、上越教育大から毎年数人が保育士になる程度で、ほとんど私立が担っています。本学園で言うと大学・短大合わせて100人以上の保育士・保育教諭が県内に就職。地元就職率は80%を超えています。

<人財確保へスクラムを>

しかし、別項で後述するように大都市圏の自治体が住宅手当などを手厚くし、地方から保育士を勧誘する動きを強めており、その中でいかに地元就職率を維持するかが大きな課題となっています。ここでも地元関係団体とスクラムを組んでいく必要性が高まっており、いま、新潟市・市私立保育協会・青陵学園などが連携協定締結の準備を進めていることの意義は大きいと思っています。

介護福祉士の県データを見ても、県内の養成機関卒業者228人のうち186人が県内に就職、福祉現場を担っています。ここも私立の役割が大きい分野ですが、近年は「介護職は3K」との誤ったイメージが過剰に発信され、日本人学生が集まりにくい状況にあります。介護現場の状況について正しく情報発信すると共に、国のより適切な待遇支援が不可欠と思います。

<暮らしの質を高める地方私大>

地方の私大は、暮らしの質を高める看護・子育て・介護・福祉の分野でエッセンシャル人材を地域に送り込んでいるのです。これらの人材育成機能が失われたら、地域の暮らしの質は著しく低下し、やがて地域の暮らしそのものが成り立たなくなっていくことをお分かりいただけたでしょうか。

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ここまでお読みいただいて、ありがとうございました。今後、「青空リポート」では地方の私大の置かれている状況や果たしている役割などについて、何回かに分けてお知らせしていきます。「地方私大の明日」は、「地域の明日」に直結していることを知ってもらいたいからです。今後もよろしくお願いします。

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