◆ブログ「青空リポート」・地方私大の役割③◆
―「公立化」では県人学生率が低下―
―地元就職でも私大は貢献度が大きいー
<国公立大は地元学生率が低い>
国公立の支援が手厚いとの話を展開してくると、「それなら新潟県内の私大も、もう少し公立化を進めたらどうか」「その時には何校かまとまって、規模を大きくすれば良い」―などの声が挙がりそうです。しかし、県内の多くの私大と国公立大とでは〝中身〟に大きな差があるのです。それは地元出身の学生の割合です。国公立大の県内出身者率を2020年以降で見てみましょう。新潟大(入学定員2250人)は40%前後(38~42%)、長岡技科大(80人)は43~56%、上越教育大(160人)は18~35%となっています。公立大では新潟県立大(370人)が56~66%、県立看護大(95人)は今年度86%台を記録しましたが、5年のうち2年間は70%台でした。私立から長岡市立に転じた長岡造形大(230人)は、入学金で長岡市出身者を優遇しているものの県人比率は10%台が大半で、1年だけ21%を超えています。2021年に開学した三条市立大(80人)は42~52%台となっています。
<国公立大は地元就職率も低い>
では、国公立大で学んだ学生はどこに就職しているのでしょうか。教育関係者は「県内就職する割合は、ほぼ県人学生比率と対応している」と言います。地方の国立大の地元就職率は40%程度のところが多いそうです。シリーズの1回目でも確認しましたが新潟大学の地元就職率も37%程度。長岡技科大は県人率より県内就職率が低く20%程度。上越教育大も40%程度(教員での県内就職数)です。
公立大で県内就職率が高いのは県立看護大で63%程度。新潟県立大は50%。長岡造形大では公立化の後は「20%程度ではないか」と長岡市関係者は言います。私大当時は70%程度ですから、その差は大きなものがあります。これが公立化の大きな問題点です。新設の三条市立大は今年度、初の卒業生を送り出すことになります。
<「なぜ地元自体が負担?」の声も>
他県を見ると、概ね偏差値の高い公立大は県人学生率が低く、地元就職率も低くなっています。例えば英語授業で知られる秋田県立国際教養大は「THE世界大学ランキング日本版」でも上位にランクインしていますが、県出身者率は15%程度で、就職先も海外を含めた県外一流企業がほとんどです。これまでも秋田県議会では「そのような国際教養大に、なぜ秋田県ばかりが運営費を負担しなければならないのか?」などと質問されてきました。
運営費交付金を国が出している国立大はともかく、地元自治体が多額な支援をしている公立大は、「地域の人材を育成し、地域に供給している」と言えるのでしょうか?少子化が急速に加速し、また、労働力不足が顕在化してきている今、公立大のあり方についても大いに議論が必要と思います。
<青陵大は入学者も就職先も地元中心>
写真=新潟青陵大学・短期大学部のキャンパス風景。今は春休みですが、季節の良い時はキッチンカーも来て賑わいます
一方の県内私大はどうでしょうか。概ね3つのパターンに分類されます。まずは新潟青陵大(入学定員230人)から紹介します。青陵大の県内出身者比率は2020年度から91・4%、87・5%、87・3%、86・5%と推移し、今年度は83・7%となっています。青陵大学短期大学部を入れると、毎年90%前後が県内出身者です。
また、2022年度卒業生の就職先をみても、「看護学部」は2022年度が91人中66人が県内に就職(地元就職率72・5%)しており、看護師、助産師、養護教諭、保健師などとして看護・保健分野を支えています。「福祉心理子ども学部」では介護職・生活支援員・保育士などを育成する「社会福祉学科」の地元就職率が85%(46人)、臨床心理士や福祉・医療職を育てる「臨床心理学科」では66%(27人)が県内に就職しています。新たな学科となった「子ども発達学科」では保育士・福祉医療職などを中心に79%(30人)が県内就職です。
青陵大学短期大学部(330人)を見ると金融・医療事務・サービス職など幅広い人材を育てる「人間総合学科」で88%(129人)が県内に就職、地元企業から喜んでもらっています。保育教諭・保育士らを育成する「幼児教育学科」の地元就職率は85%(93人)。大学と短期大学部を合わせて毎年400人近くの人材を地元にお返ししているのです。
<エッセンシャル人材を地元に>
青陵大・短期大学部では学部・学科の構成上、地域の暮らしを支える〝エッセンシャル人材〟の割合が高くなっています。看護・保健・子育て・介護などの医療福祉分野は、いずれも地域の暮らしの質を左右する重要な土台です。青陵学園の建学の精神は暮らしを支える「実学の教授」です。実学を基に地域の方たちの「生きるを支え、みんなの笑顔をつくる」ことをモットーにしています。青陵学園は「地元の若者を中心に入学してもらい、立派な人材に育てて地元にお返しする役割を果たしている」と自負しています。
<国際情報大も地元中心>
県内私大では青陵のように「入学者も就職先も地元中心」のタイプが多くなっています。その代表例は新潟国際情報大(入学定員250人)で、今年度の入学者県人率が96%となっています。同大は、青陵大学と同様、県内就職率も高く概ね80%台です。国際学部と経営情報学部の2学部を有する同大では地元企業を中心に人材を供給して、地域の活力・暮らしの活性を支えています。県内15大学のうち同大と青陵大が定員を超過しており、地元の若者の学びと県内への人材供給の役割を着実に果たしています。しかし、このまま「ハンディキャップ・レース」を続けさせられては、いつか息切れを起こさないとも限りません。
<地元中心の主な私大>
2024年度で入学者の県人比率が最も高いのは看護職を養成する長岡崇徳大(入学定員80人)、全員が県人でした。他年度でも95%前後となっています。次いで県内企業が資金を拠出して開学し、地元企業向けの技術者育成に当たる新潟工科大(200人)が91%、新潟薬科大(435人)87%、新潟リハビリテーション大(75人)83%、長岡大学(125人)80%、開志専門職大学(240人)74%、敬和学園大学(180人)69%、新潟経営大学(170人)69%となっています。県内15私大のうち10大学がこのタイプとなっており、概ね県内就職率も県人比率に対応して高くなっています。
<県人比率50%前後のタイプ>
一方で県外からの学生も集め、県人比率と拮抗しているタイプもあります。例えば県内私大で唯一、入学定員が1000人を超える新潟医療福祉大(1262人)の県内学生比率は50%台半ばで推移しています。同大は日本トップの専門学校群NSGカレッジリーグを運営する「新潟総合学園(NSG)」グループの中核的存在で、リハビリテーション、健康科学、心理・福祉、医療技術、看護、医療経営管理の6学部を備えています。NSGグループ傘下には高校バスケで全国優勝した開志国際高校などもあり、医療福祉大も大学スポーツ界で注目される存在です。そのこともあって、全国から学生を集められる力があると言えます。県内の私大に全国から若者が集まってくることは素晴らしく、県内就職率も県人学生率と同程度と見られ、県内の国公立大よりは高くなっています。このタイプには県人比率47%の新潟産業大学(140人)が含まれます。
<県外勢が優位な私大>
もう一つのタイプとして県外勢がかなり多くの割合を占めている私大もあります。例えば今年度開学した北里大(160人)は県人比率が29%。また、同じNSGグループでも開志専門職大は県人比率が高いタイプに属していたのに対し、新潟食料農業大学(180人)は県人比率が31%と低くなっています。同大は過去に22%弱だった年度もあり、全国から学生を集めるタイプと言えます。このタイプには県人比率31%の日本歯科大新潟生命歯学部(80人)があります。
<県内私大は小粒だが…>
確かに新潟県内の私立大学は〝小粒〟です。シリーズ①で掲載した表でもう一度確認しておきましょう。
◆2021年の入学定員と入学者数
・国立大(3校)入学定員2467人 入学者2536人(充足率103%)
・公立大(4校) 入学定員763人 入学者825人(充足率108%)
・私立大(14校)入学定員3417人 入学者3226人(充足率94%)
・私立短大(5校)入学定員690人 入学者576人(充足率85・9%)
◆2024年度の入学定員と入学者数
・国立大(3校)入学定員2480人 入学者2545人(充足率103%)
・公立大(4校)入学定員763人 入学者816人(充足率107%)
・私立大(15校)入学定員3807人 入学者3242人(充足率85%)
・私立短大(5校)入学定員665人 入学者577人(充足率86・8%)
2024年度では3年前に比べて私立大は1校増えたものの定員割れ幅が大きくなった影響で入学生の数は3242人とあまり増えず、国公立大の3357人を下回っています(これに県内短大5校=すべて私立=の入学者577人を加えると3822人となり、国公立大を上回ることにはなるのですが…)。私立大1校平均の入学者数は217人弱で、国公立大480人弱の半分にも及びません。規模面で比較すると新潟県内の私立大は甲信越エリアの260人弱も下回っており、1回目で示したように〝体力不足〟は明らかです。
<県人学生数では私大が圧倒>
しかし、「小粒な県内私大」を県人学生率・人数で見ると、また、違う姿が浮かび上がってくることもこのシリーズで確認済みです。もう一度2024年度の数字で比較してみましょう。
◆2024年度の県内大学の県人学生率と県人の数
・国立大(3校) 県人学生率=41% 県人学生数=1041人
・公立大(4校) 県人学生率=50% 県人学生数=410人
・国公立大(7校)県人学生率=43・2% 県人学生数=1451人
・私大(15校) 県人学生率=67・5% 県人学生数=2192人
・私立短大(5校)県人学生率=77% 県人学生数=445人
2200人近い県人が地元の私立大学で学んでいるわけで、これに短大の学生数を加えると2640人ほどとなります。国公立大の県人数1450人に大差をつけていることがお分かりいただけます。この傾向は遡ってみても大きな差はないことを確認しましょう。
◆2021年度の県内大学の県人学生率と県人学生数
・国公立大(7校)県人学生率=40・5% 県人学生数=1371人
・私大(14校) 県人学生率=65・3% 県人学生数=2245人
・私立短大(5校)県人学生率=88・7%% 県人学生数=511人
◆2022年度の県内大学の県人学生率と県人学生数
・国公立大(7校)県人学生率=40・3% 県人学生数=1351人
・私大(14校) 県人学生率=66・6% 県人学生数=2332人
・私立短大(5校)県人学生率=89% 県人学生数=508人
県内の私大1校ずつは小粒でも、短大を含めて地元の若者が高等教育を受ける上で大きな役割を果たしているのです。18歳人口の県外流出を食い止めると共に、新潟県の大学進学率向上にも寄与してきました。(注)=私立短大で2021、22年度と比較して24年度の県人学生比率が低くなっているのは、コロナ禍が収まり、以前から留学生入学の実績のあった短大が留学生を再び多く入学させた影響とみられます。
<地元就職率も私大が断然優位>
次に地元就職率を見ていきましょう。地元就職率は公表していない大学もあり、正確な比較が難しい面もありますが、教育関係者は「国公私立を問わず、多くの大学で県人率と県内就職率は相関しており、大きな差異のある大学はほとんどない」との見方はシリーズで紹介した通りです。例えば県人率が90%台を維持している新潟国際情報大では「地元就職率も80%台をずっとキープしている。地元の若者を地元で育て、地元に人材としてお返ししていくのが我が大学の役割」と言っています。
ここ数年の学生県人比率が90%前半から80%台半ばの新潟青陵大学では、看護学部の県内就職率は70%台半ばで推移しています。毎年60人程度の看護師が県内で奉職していることになります。子育て・福祉面などの人材を育てる福祉心理(現・福祉心理子ども)学部の地元就職率は80%台で推移しており、この分野でも毎年100人程度の人材を地元にお返ししています
新潟では地元就職の面でも国公立大に比べて私大が大きな役割を果たしていることは間違いないのです。
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