にいがた 「食と農の明日」8

まちづくり

*にiいがた「食と農の明日」*(8)

<ウィズコロナ時代 プロ農家の今①>

―「主食用米10%減は想定内」―

―「自分のコメは売れていると勘違い」―

昨年末の12月25日、「新潟県農業再生協議会」が新潟市で開かれ、県は2021年県産米の生産目標を発表した。その数字は6回目でも紹介したが、主食用米が前年比12・7%(7万5400トン)減の52万トン。作付面積では10・5%(1万1200㌶)減となる9万5500㌶だった。「過去最大の減少率」に農業者からは「大変に厳しい数字」との声が挙がる。大規模コメ農家は、この数字をどう見ているのか。新潟市で、それぞれ50㌶前後を耕作する二人のプロ・コメ農家に聞いてみた。

<「うちは3年間で5%減らしてきた」>

「作付面積10%前後のマイナスは想定内。このくらいの数字かな、と思っていました。主食用米が余る中、新潟県では主食用米を増やしてきた経緯から、10%程度は減らさなきゃダメだろうと覚悟していましたから」と語るのは、新潟市秋葉区で株式会社「新潟農園」を経営する平野栄治さんだ。と言うのも、新潟県では国による生産調整の最終年である2017年と比べ、主食用米の生産を増やしてきた地域があるからだ。「新潟農園としてはこの3年間、国の非主食用米への転換支援策などを活用して5%程度、主食用米を減らしてきました。だから、『うちとしては、2021年産は5%ぐらいのマイナスで良いかな』と考えていました。3年分を合せれば10%程度になりますからね。あくまでも2017年産の主食用米と比較することが基本ですよ」と平野さんは語る。

<主食用米からの転換に「深掘り支援」>

国は、非主食用米などへの転換に対する支援について輸出用米や加工用米などへの転換に10㌃当たり4万円の交付金をつけるなど、いわゆる「深掘り支援」に踏み込んできた。農水省は先月14日、過去最大規模となる6万7千㌶の主食用米からの作付け転換に対し、今年度第3次補正予算で290億円を確保した。新年度当初予算案でも水田活用の直接支払交付金3050億円を要求し、深掘りへの支援を拡充する。第3次補正と合わせ、3400億円レベルと過去最大規模の「水田フル活用予算」とする方針だ。これについて平野さんは「かなり手厚くしてくれた」と評価する。

深掘り支援を受ける対象単位について、平野さんらは「本来、方針作成者ごとにすべき」との立場で農水省に要望してきた。「深掘り自体は3年前からあったんですが、対象が県単位でした。『新潟県全体の主食用米生産を前年比マイナスにすると、深掘り交付金というボーナスを出しますよ』と国は言ってきました。でも、新潟県全体の主食用米は逆に伸びてきた。『これでは、新潟は永久に深掘りが当てはまらない。方針作成者ごとにボーナスを出さないと、インセンティブも働きませんよ』と、私たちは声を挙げてきました。ようやく1年前から地域の再生協議会単位となったんです。『方針作成者ごとに』との要望は、今回も受け入れられませんでしたが、キメ細かくなってきたことは『深掘りの進化』と受け止めています」と一定評価する立場だ。

写真=コメ農業の今について語る平野栄治(右)さんと坪谷利之さん(新潟市秋葉区の新潟農園事務所)

<「売れ残っていないか、検証を」>

県農業再生協のメンバーとして25日の会議に出席していた農事組合法人「木津みずほ生産組合」(新潟市江南区)の代表者、坪谷利之さんも「2017年産米を基準に考えるべき」との立場だ。「(生産調整が廃止された)2018年以降、主食用米の生産を伸ばしてきたところがある。それが今回の作付面積マイナス10・5%という大きな数字につながった。大事なのは、生産調整最終年となった2017年の主食用米の作付面積で、これが基礎となります。そこから主食用米を伸ばしてきたところは10%以上マイナスさせなきゃいけない」と坪谷さんは原則論を語り、「オレんとこは、この3年間マイナスさせてきているから、その分と合わせて10%を達成するレベルで良いハズなんです」と言い、平野さんと歩調があっている。

この原則を確認するため、坪谷さんは再生協の会議でも発言した。「県内で主食用米を増やしてきたところがある。その中でも、例えば西蒲の農協のように『売り先はサトウ食品』とはっきりしているところもあります。そこは良いから、『売り先がよく分からないのに、主食用米の生産を伸ばしたJA単協を点検してほしい。そういうところでコメが売れ残っていないかどうか、全農にいがたさんで確認してください』とお願いしています。国のコメ需要が全体として減っている中で、『生産を増やせるのは、売り先が開拓できたところだけ』―このルールをはっきりさせるためには、検証が欠かせないと思うんです」と坪谷さんは言う。

<新潟など「主産県」に厳しい目>

「全農にいがた」がどう反応するか、二人は注視している。新型コロナウイルスの感染拡大で、業務用米やインバウンド用のコメ需要が落ち込み、コメ需給がさらに大幅に緩んだことは、全国的にも大きな問題だ。特に20年産の主食用米の作況は「西低東高」と言われるように、西日本がウンカの影響で作柄が悪く、逆に本県など東日本が平年並みかそれ以上となっている。「56万トンのコメ余り状況」は、「20万トンの調整保管」が打ち出されたこともあって、主食用米からの生産転換は36万トンとなった。それでも膨大な数字だ。自民党の小野寺五典・農業基本政策検討委員長は20年産米について、「今回はコロナの問題があり、特に業務用米を中心に在庫が残っていた。さらに主産県が豊作基調でコメの需給が相当緩む」との心配を語っている。西日本からは、新潟県など「主産県」の主食用米生産について、例年以上に厳しい目が注がれているのだ。

これらの状況を踏まえて平野さんは、「全国でまだ17万トンくらいしか主食用米からの転換調整ができていないから、残り20万トン近くの調整が残っている。全農がどうするかですが、まだ反応が出ていない。2月末ぐらいにならないと分からないのではないですか」と言い、「売れる自信があるところはつくって良い、という制度になったのだから、減産しなくても文句は言えない。しかし、日本中でこれだけ主食用米が余っているのが現実。数字はもうはっきり出ているんですから」とも語る。坪谷さんは「自分のところのコメは売れると思っている.。錯覚しているところもあるんじゃないですか。だから『検証してほしい』と言っているんです」と言う。

<「深掘り、秋葉区はまだ誰もいない」>

今年の主食用米がどうなるのか…。その姿はまだ不透明だが、大きなカギを握るのは、国が踏み込んできた「深掘り」を地域農業者がどれだけ活用するかだ。平野さんは一カ月ほど前、県や新潟市の農政担当者と「個人面談」のような形で情報交換した。「秋葉区では、まだ誰も深掘りに手を挙げていません。平野さんはどうするんですか?と聞かれました。『まだ、分かりません』と答えましたが、気持ちはほぼ固まっています。今のところ、秋葉区ではJAさんも音無しですね」と平野さん。一方、坪谷さんの地域では、20年産米で130㌶ほど深掘りをした実績がある。「中央環状道路に引っ掛かったところもあって、意外なボーナスが出ました。5千万円以上きましたかね」と坪谷さん。

その話を聞きながら平野さんは、「江南区は地域の複数の田んぼが対象になったから、地域で分ければ良かった。もし秋葉区で、新潟農園だけが21年産米で深掘りとなったら、ボーナスは私のところだけでもらえるんでしょうね」と意味深な笑みを浮かべた。「深掘り」に新潟はどう対応するのだろうか。

<青空記者の目>

2017年を最後に、国による生産調整が廃止されて以来、主食用米の生産環境は大きく変わった。新潟などコメの「主産県」では、JA系で主食用米を伸ばしているところもある。「生産調整をやっていた頃はJA系列に入らない、いわゆるアウトサイダーが生産調整に協力しないで『ただ乗りしている』と批判されてきた。それが今は、JAグループが『生産調整から解き放たれて、自由になった』と思ったのか、主食用米を伸ばしている。まさに様変わりです」と言う声をあちこちで聞いた。

ここ数年、作況指数が平年作よりも下回り、結果として主食用米の需給はある程度、締まっていた。「そのため、せっかく深掘り支援など主食用米からの転換支援策を強化していたのに、それが使われずに飼料用米や加工用米への転換がなかなか進まないことを心配してきた」と農政関係者らは言う。そこに今回のコロナ禍で業務用米などの需要が急減し、一気に需給バランスが崩れてしまった。新潟県でも「深掘り」を積極的に活用する経験・ノウハウが少ないまま、21年産米への対応を迫られている地域やJAも多いようだ。次回はプロ農家二人の経営論を聞くことにする。

          

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