にいがた 「食と農の明日」16

まちづくり

*にいがた 「食と農」の明日(16)

<ウィズコロナ時代の農業の明日・識者2人に聞く>

新型コロナウイルスの感染拡大が新潟の農業にも暗い影を落としている。特にコメに頼ってきた新潟では、コロナ禍によるインバウンドや外食の落ち込みによる業務用米など主食用米の大幅需要減の直撃を受けている。新潟県はこれを受けて今年産の主食用米について過去最大の12・7%減(前年比)とする生産目標を昨年末に発表した。「アフターコロナ時代」を睨んで、新潟の農業をどう再構築していくべきか―。新潟食料農業大学の武本俊彦教授と新潟クボタの吉田至夫社長から話を聞いた。

写真=新潟市の水田でエサを探すハクチョウたち。新潟の水田は今後、どのように姿を変えていくのだろうか(共に新潟市西区で)

◆武本 俊彦・新潟食料農業大学教授◆

―食生活切り口に「新潟スタイル」の提案を―

―「フード&アグリテックは重要」―

<「園芸には力を入れるべき」>

ー今の新潟農業をどう見ていらっしゃいますか?

新潟の農業を一言で言うと、先人が大変なご苦労をして開発したコシヒカリで大成功し、そのコシヒカリで失敗をしている、ということではないですか。ご苦労の末、育て上げたコシヒカリ。これは、今日で40年くらい経つ訳ですが、まさに隔絶したブランドと言えます。このブランドが偉大過ぎた結果、新潟は社会情勢が大きく変わっていく中で「コシヒカリ依存」からなかなか転換ができなかった。今、農業産出額を伸ばしている県は、園芸に力を入れてきたところです。新大名誉教授の伊藤忠雄先生が指摘しているように、「新潟の農業は園芸への転換をしていかないともたない」ということですね。

—新潟の農家、特に低平地の農家は園芸への「拒否反応」が強いようです

園芸では青森に続いて山形が先行し、新潟と並ぶコメ偏重県の秋田でさえも今や園芸に転換を図っています。一方で、新潟はコメ頼りから変わらなかった。これは見方を変えれば、「やっぱり新潟は豊かだ」ということでもあります。10年後は分からないが、明日、あるいは1年後は「何とかなるだろう」と考えている。でも、いま手を打たないと手遅れになります。大変になった時に「さぁ、やろう」と思っても間に合わない。だから、「園芸に力を」ということは言い続けていかなければなりません。

<土地の香りのする産業を育てる>

―新型コロナウイルスの感染拡大で新たな動きも出ています。

今回の新型コロナウイルスは、「人の行動変容をもたらす可能性がある」と言われています。今までのような東京一極集中が変わるかもしれない。それは分かりませんけど、可能性があるのなら、新潟県・新潟市の位置取りを考えるチャンスにしていきたい。今は、高度経済成長時代のように「重厚長大で世界に打って出る」というような情勢ではない。「成熟した地域」「そこに行ってみたい」と思われるような国・地域になっていくことが重要です。イメージで言うとワイン産地のフランス、あるいはイタリアというイメージでしょうか。「食と農」、もしくは酒文化も含めて、「欧州ブランド」のような土地の香りのする産業を育てていく。そんな方向でしょうか。アメリカは「規模で勝負」でしょう。それとは違う方向性ですよね、日本の場合は。土の香りのする製品をいかに出していくかがカギになると思います。

<「食と農」に先端技術を融合>

―日本でも「食と農」の時代が来ると?

これからは、まさに「食と農」の時代です。新潟は「食と農」の潜在力がある地域ですから、「何か新しいものを持ってくる」のではなく、「いま持っている良いもの」とIT・AIなどの先端技術のコラボレーションをどうやっていくか―。いま、野村アグリプランニング&アドバイザリーという会社が、新潟に「フード&アグリテック」の提案をしています。当面は、経産省のプロジェクトに手を挙げようとしている。日本の「食と農」に先端技術を入れ、さらに流通・販売のプラットフォーム化と融合させることが「フード&アグリテック」です。野村アグリの提案は、東京の大田区や羽田空港と新潟などの地方が組んで、日本の「食と農」を世界にアピールしようというものです。

<「新潟が大田区と組む理由付けを」>

―野村アグリの提案は、東京・大田区や羽田空港と新潟などの地方が組んで、日本の「食と農」を世界にアピールしようとするものです。武本さんは野村アグリと関係がありますね。

私は野村アグリの顧問でもあります。だから、このプロジェクトが経産省に選定され、成功してもらいたい、しかし、「なぜ大田区なのか?」「なんで、新潟が大田区や羽田と組むんですか?」ということを、もっと突き詰める必要があると思っています。「大田市場や羽田空港から、日本の食と農で世界に打って出る」という輸出戦略自体は良いし、これから日本の人口が減っていく中で、「地場産業を振興する点でも輸出を考えていくべき」とは思います。ただ、敢えて日本の中小企業の代表的地域である大田区をもってきて、「単に『食と農』だけでいいんでしょうか」、ということです。

<中小企業の生き残り策>

―では、どう考えていくべきなのでしょう?

例えば、こんな考え方はどうですか。日本の製造業の中心は中小企業でしょう。大田区はそのメッカです。しかし、いま日本では中小企業の数がどんどん減ってきちゃっていて、そこに集積された技術も散逸しつつある。卓越した技術を持つ経験者も高齢化や離職でいなくなってきている。

―新潟県にも燕三条という中小企業の集積地があります。

ええ。大田区と燕三条はこれまでも中小企業分野で関係があったと聞いています。「モノづくり」の共通の土台を活かし、食の面だけでなく、産業連携の面でもより強く結び付けたらどうでしょうか。燕三条と新潟市を含めた地域なので、窓口は新潟県がなればいい。「食と農」の代表的存在である新潟市と、中小企業の地方代表である燕三条が、経産省のプロジェクトで大田区と結び付く。「フード&アグリテック」という当たらしい概念を旗印にしながらね―そんなストーリーはどうでしょう。日本の製造業にとって、あるいは中小企業にとって、やっぱり金属加工は今後も重要と思います。ASEANなどに技術移転をしつつ、さらに高水準の技術を開発して日本でも生き伸びていく。その生き残る道の一つとして「食と農との連携が大きなポイントである」という考え方です。

―「食と農」は間口も広いが、奥も深い。

世界どこでもそうですが、一定の所得水準を超えると「食べ物は、おなかを満たせばよい、というものではない」ことになりますよね。「食と農」には味や雰囲気、安心安全など質の高さが求められ、満足度の競い合いになる。ここは新潟の強みです。当たり前の話ですが、素材としての農産物を輸出するよりも、欧州のような加工型にして輸出する方が付加価値も付くし、雇用の機会も増えてくる。農業の場合は、生産性を上げていくと、どんどん人がいらなくなっちゃいますよね。「食と農」に製造業を入れて「食品加工や加工農産物」の形にし、さらに流通・販売・提供分野を技術革新して付加価値を取っていく。まさに「フード&アグリテック」ですね。

<加工農産物をメインに>

―農業が強い新潟には、昔から食品産業も根付いていました。

世界では、特に欧州が顕著ですが、農業立地地域に食品加工企業が集積していきます。日本では、その典型例が新潟です。食品加工に注目していくことが、より重要になっていく。日本でも、世界でも、共稼ぎが増えてきていますよね。世帯規模が小さくなればなるほど、調理過程は外部化され、食品製造業のビジネスチャンスが出てくる。だって、素材農産物よりは保存も効く加工農産物の方が技術適性も高いですよね。例えば素材としてのコメについて、中国は「カツオブシムシなるものが日本にいる」と言って自国に入れる際に燻蒸を義務付けています。しかし、コメが「パックご飯」になれば製品です。サトウのご飯が益々レベルアップして、新潟コシなども使って世界ブランド化していってほしいですね。それと、素材としてのコメを輸出するにも炊飯器などとセットで輸出したり、あるいはクボタがやっているように玄米で輸出して現地で精米したりするとか、色んなやり方でやっていった方がいい。加工農産物をメインに考えていく方が地域の雇用につながっていきます。「それが新潟ブランドだ」という最終着地点を考えながらやっていく方向です。

ー新潟市と燕三条はどんな風にコラボしていくべきなのでしょうか?

「食と農」の新潟市が、燕三条の人にどういう協力を求めていくか―。例えば、醤油の鮮度を保つ密封ボトルは三条市の株式会社「悠心」が開発した技術です。社長さんが発明家でね。もともと燕三条が得意とする金属加工ではありませんが、プラスチックの技術を持っていた。そういう起業家・経営者が燕三条にはいらっしゃるし、そういう技術を育てる風土や発想の豊かさがある。昔で言うと「異業種交流」という言葉になるが、「フード&アグリテック」風に言うならプラットフォームですかね。そういう発想豊かな方に、「食と農」の分野にうまく入っていただく。素材は金属でなくとも良いですよね。そうすると「食と農」はぐっと少し広がりが出てきますね。産業基盤になっていく気がする。

<「新潟スタイル」の提案を>

―大田区とは、どんなコラボを?

大田区はあまりに都市化して、中小企業のモノづくりにやりにくい部分が出てきています。大田区でやれなくなった場合は、「どうぞ新潟にいらっしゃい」―これもアリですよね。新潟市がやっている「フードメッセ」にはシステムキッチンなど調理用具関連の地元企業の出展が増えている。それも新潟の強みの一つです。欧州では、ワインや酪農製品などの単品ではなく、部屋やテーブルのしつらえなど「食文化」が全部セットですよね。「欧州スタイル」あるいは「フランス・スタイル」「イタリア・スタイル」として日本に売り込んでいる。そのスタイルが魅力あるから、貿易はずっと「日本の入超」になっています。

―「新潟スタイル」の提案ですか?

新潟ブランドの構築は、「まず食生活を新潟スタイルに」という提案からです。食卓に供される食品をはじめ洋食器、花、テーブルクロスなど、すべてを「新潟スタイルに」ということ。これからは「コト」を売っていく時代。抽象的に「文化やコトを売っていきましょう」と言っても分かりませんよね。まず、地元の方に、「これらはみんな『食と農を切り口にした新潟スタイル』ですよ」ということ分かってもらうイベントを開催したらいいと思う。「フードメッセ」をもっと幅広にする方向ですかね。

<重要性増す「食の国際賞」>

ー武本さんは「食の新潟国際賞」を評価されていますね。

「新潟ブランド」「新潟スタイル」を考えていく時、「食の新潟国際賞財団」が益々重要になってくると思います。これを一層、「食全体に関わる」、「コトに関わる」という位置づけにしていくと面白い。そういう面では今回、中村哲さんを大賞表彰したことはすごく良かった。中村さんの取り組み自体が「佐野藤三郎記念」と銘打たれた佐野さんの活動に近いこともあるし、「食料分野」で一番身近、しかも知名度の高い人が選ばれた。下世話な言い方をすれば、ものすごいPR効果です。ただ、「単発で表彰式だけ」ではマスコミも取り上げにくい。新潟は今でも、食と花の色々なイベントをやっていますよね。それをサヤ寄せして「新潟ウイーク」でも「新潟旬間」でも良いんですが一定の期間、「食と花」を中心にした「新潟スタイル」をアピールすることにして、そのトリに表彰式をやると、世界から色んな人がそこを目掛けてきっと来てくれるようになります。マスコミの取り上げ方も絶対違ってくる。こんなに「食と農」のことをやっている地域は、新潟以外にありませんから。ここは新潟のアドバンテージです。

 

◆新潟クボタ・吉田至夫社長◆

―「新潟はコメを強くするしかない」―

―「園芸・畜産も今ある芽を育てる」―

<「コシに胡坐をかいていた」>

―コロナ禍で業務用米など主食用米の需要が大きく落ち込んでいます。「コメに頼ってきた新潟県の弱点が露呈している」と言う方もいますが、今の新潟県農業をどう見ていますか?

新潟の農業はやっぱり、「コシヒカリに胡坐をかいていた」ということ―ここに集約されるんじゃないでしょうか。昭和の後半に新潟県の農業粗生産額(現在の農業産出額)は約4000億円で、全国で6、7番目でした。ざっとコメが3000億円、畜産・野菜・果樹などの「その他」が1000億円でした。それが今、コメ以外の「その他」は変わらないが、コメが2200億~2300億円に落ちました。一方、青森や山形は野菜・果樹・畜産で伸びている。ここに来て秋田も園芸で伸びてきた。一方、コシヒカリで脚光を浴びた新潟は、そこに胡坐をかいたというか、しがみついているうちに衰退していった、と言わざるを得ない状況ではないでしょうか。

―新潟県と山形県は、農業でも似ている所と違う所があるように思います。

向うは「だだ茶豆」でこちらは「黒埼茶豆」、「ラ・フランス」に「ル・レクチエ」、「つや姫」に「新之助」ですね。「どちらが美味いか」ではなくて、「どちらに知名度があるか」「どちらが県外で売れているか」―この違いではないですか。農業産出額で山形に抜かれたことは象徴的ですよね。

<流通ルート確保で立ち遅れ>

―いま、新潟県も新潟市も「園芸に力を入れる」と言っています。

新潟は何といっても減反への対応がうまくできなかった。やるんであれば、その時から園芸を伸ばすべきだったのに…。今、いきなり「園芸だ」「産地をつくれ」と言っています。産地をつくるだけならできるんですが、しっかりとした市場を持っているかどうかがカギで、新潟の青果市場レベルのロットではお話になりません。この段階までくると流通ルートがない。既に先行地域に押さえられていますから。先進地域はキャベツで輸出までしています。流通ルートをしっかりと持っている。ここまできたら新潟は既存のユリなどの花卉や畜産、そしてコメの生産性を上げられる大型農家を育てることでしょう。

―やはりコメですか?

コメで強くなっていくしかありません。今後のコメ農業を考えると、コメ農家で全部が生き残れないわけですから。コメ農家で100㌶以上やれるところを育てるのが急務です。次に畑作の野菜類。そして、ユリ、チューリップなどの花。あとはブランド和牛を育てる。今ある素地を伸ばす方向です。

<「フード&アグリテック」が重要>

―コメ農家はなかなか変わってきません。日本の農政にも問題があるように思います。

今の菅政権は、「地銀や中小企業の数が多い」と言う。そっちの方はこれから統合・合併を進め規模を拡大させていくんでしょうが、農業は中小農家のことばっかり言っていますよね。施策の中心が、これまでも中小農家向けでしたが、これからはグローバルやデジタルの時代。国内は人口減少で食の需要も落ちていくんでしょうから、海外へ売り出すことを考えなければ。今より少し安ければ、コメでも世界に打って出られます。ロボットやドローンなどを活用した「スマート農業」を推進する。その省力化・効率化を進めるための支援に加え、流通・販売もノウハウ支援が必要です。「フード&アグリテック」ですかね。

<新潟にもすごいコメ農家がある>

―新潟のコメ農家で、大規模化している所は?

新潟県内にも、上越地方で300㌶のコメづくりをやっている「有限会社・穂海農耕」のようなところが出てきました。社長の丸田洋さんは工業系エンジニアから転身した人で、ここは業務用米に特化しています。ですから今はコロナ禍で外食がやられて少し苦戦しているかもしれないけど、素晴らしい経営です。これからはそんなベンチャー企業を育成して、シフトチェンジしていかないと。新潟市にも「新潟農園」や「木津みずほ生産組合」などがある。今後は、しっかりとした流通ルートを持って、500~1000㌶ぐらいやって、売り上げも5億、10憶というところをしっかりと育てていく。そんな農家を5軒、10軒と育てて、水・環境・基盤整備をしっかりと応援していくことが大事だと思います。

<米を育てた勢いで園芸・畜産>

―コメ農家を育てながら、園芸でしょうか?

コメの基盤をしっかりとさせて、その勢い・余力で園芸・畜産です。これも5億、10億取れる農家を育てる。「(株)ナカショク」、ここは養豚中心ですけど、新潟県で一番でかい。そして、西蒲には巨大なハウスがありますよね。野菜では西蒲の砂丘地に一番可能性があるのでは。花の苗とか野菜苗もやっています。コメ農家は売り上げが1億あればすごいが、西蒲はもっと大きくやっているんじゃないですか。西蒲でハウスやっている農家さんは絶対「儲かる農業」をやっている。苗で売っているんですから、自分で育てなくて良いんですもん。儲かっているせいか、あまり目立とうとしないけど、そんな力のある農家にも光を当てて、世の中に出てもらいたい。要は、新しくつくるんではなく、今あるものを強くしていくことです。

<栃木知事との対談で悔しい思い>

ー園芸に力を入れ出した花角知事が、栃木県知事と話をしていて、悔しい思いをしたと聞きました。

花角知事が栃木の福田知事と話をした時のことですね。花角さんが「新潟では1億円の産地を100育てたい」と言うと、福田知事が「栃木では1億円を超える農家を100育てたい」と言う。花角さんがちょっとムッとして、「うちは1億を超える産地が既に30ある」と言ったんですが、「栃木では、1億を超える農家が既に30ある。それを100に増やしたいんです」と返された。相手が栃木ですから「イチゴですか?」と聞いたら、「違う」と。イチゴはJAが流通ルートを握っているから、農家がでかくなれないんだそうです。「1億円を超える農家はトマトが中心で、カゴメとかデルモントと契約している農家ですよ」と教えてくれた。「イチゴ農家は小さいんだ」と。

<Gギャップを取れる農家育成を>

―新潟市の農家はどうでしょう?

新潟市ではやっぱり新潟農園の平野栄治さんとか、木津みずほ生産組合の坪谷利之さんは素晴らしい。平野さんらはISOとかグローバルギャップ(Gギャップ)とかの話が分かるんです。世界のレベルをね。だけど、ちょっとお年を取られ70歳、60歳を超えていらっしゃる。彼らの次の世代で、やる気のある農家さんが担い手になって頑張ってほしい。日本の農政は「愚民政策」みたいなところがあって、「農家は難しいこと書いても分からないから、記事を柔らかくしろ」なんて言っている。オリンピックに提供する食材もグローバルギャップでなくて「ジャパンギャップ」(Jギャップ)でいこうとかね。それでは世界に相手にされないわけですよ。平野さんは一緒になって、Gギャップを取ってくれた。「穂海」もJギャップから始めましたけど、「アジアギャップ」に進化させました。あのレベルの農家がガンガンやれるような農政が必要です。

<スマート農業担える農家づくり>

ー新潟クボタをはじめクボタグループではスマート農業に力を入れています。

はい。大規模化のカギはスマート農業と思っています。新潟県でもコメ農家が大きくなって、それで雇用を増やしていくようになってほしい。コメ農家を含め1億を超える農家が50、100とそろってくれば、その人たちがけん引して動きが変わると思う。輸出をやるにしても、そのぐらいの規模がないとね。私ら今、スマート農業を提案していますけど、昔、私が現場に出ていた頃はコンバイン1台300万円で買えたのが、今は1千万から2千万円するわけです。それで5台使っていたのが1台でよくなるかというと、そんな訳にはいかない。自動トラクターも同じ。やっぱり4、5台はいるんです。それだけ値段が高くなっても、ペイできるようにしてもらわないと。それには規模、そして安定した売り先、倉庫も必要ですしね…。農家側で需給調整ができるぐらいの規模までいかないと。

―大規模化はなかなか進みませんが、一方で耕作放棄地の問題も表面化しています。

日本の農政は、耕作放棄地があるから、やりたい人が耕作やれるかと言えば、そうはいかない。土地所有者の方が権利は強い。保護されています。今の農地法の改正とか、そういうところからやらないと…。新潟県内で農地が一番流動化していないのは旧新潟市です。農家は高齢化しても、開発などで土地が売れる。土地売却代金が入って、遠い所にまた田んぼを買う。まぁ、そういうところに私たちは農機具売りに行ってきたわけですよね。

<フランス・ドイツ型を目指せ>

ー今後、日本の農業の目指す方向は?

私は日本の農業はフランスやドイツのような方向にもっていかないとダメだと思う。アメリカは1農家で3万㌶とかやっている。新潟県の農地を4、5人でやる勘定です。そんな大規模は日本ではできない。欧州は規模がでかいところでもせいぜい3千㌶。ちょっと小さいところは300㌶くらいです。こらなら今の北海道並みです。欧州農業は、そんな規模の農家が健全にあって、欧州型の所得補償を国からもらってやっています。

ーそのぐらいになると、大型農業機械も使いこなせると?

その欧州では「コントラクター」というやり方があります。農業機械が専門化してきて、トラクターなどの汎用性が高いものは買うけれど、その規模の農家でも専門性の高い機械を全部は買えない。それで農機具メーカーが農作業の請負をやるんです。それがコントラクターです。私が視察したフランスの農機具屋は、売り上げの半分が農業機械を売ったり修理したりするサービス。残りの半分がコントラクターでした。だから、農機具屋さんには大型機械がずらりと並んでいるけれど、全部が販売用ではなくて、「こっちは請負作業用の機械だ」と言っていました。コントラクター機能がないと、フランスの農業社会は維持できなくなっていました。日本でもそうなるかもしれませんね。

<マインド的に農業は存在感ある>

ーコメ農家の大規模化と複合経営は両立しない?

今の日本のコメ農家の状況では夫婦2人で30㌶やって3千万。そこに、バイトやったりしていると十分ペイする。結構安定していますよね。「そこに野菜もやろうか」とはなかなかならない。コメ農家で頑張っているところは、一度畑作やっても、やがてやめるんですね。平野さんのところもそうでした。1農家でコメと畑作の両立が難しいなら、今後の新潟はコメで世界に打って出るような農家をつくる。その人たちが経営感覚を持ち、燕三条の中小企業のような気概を持って打って出れば、新潟の可能性は広がります。新潟県は、他県と比べてそういう打ち出し方ができます。農業産出額は他の産業に比べれば、金額的には小さいかもしれないけど、マインド的には大きい。ぜひ世界で勝負できるコメ農家に育ってもらいたいですね。

<青空記者の目>

お二人のお話しは大変に参考になった。新潟は、あまりにも偉大なブランド「コシヒカリ」を持っていたことで、園芸への転換が遅れ、「コメ偏重県」の代表になってしまった。そこからどうするか。武本さんは「園芸への転換に力を入れよう。これは言い続けないと」と言い、吉田さんは「新潟はコメを強くするしかない。園芸・畜産はその勢いを駆って、今ある芽を育てるべき」との意見だ。

また、二人ともこれからの方向として「フード&アグリテック」に注目している。武本さんが「フード&アグリテック」を切り口に「新潟スタイル」を普及させて付加価値を取ることを提案し、吉田さんは「スマート農業」の発展形として「フード&アグリテック」で付加価値を広げていく考えのように聞いた。共に世界を見詰め、新潟の「食と農」の推進力をつけるパートナーとして燕三条の機能・気風に注目していることもポイントの一つかもしれない。

お二人には国が緊急事態宣言を発令する前に話を聞いた。その後もコロナ禍の影響は大きく広がっている。今後、「アフターコロナ時代」を展望しながら、さらに新潟の「食と農」に光を当てていきたい。

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