文化が明日を拓く7

まちづくり

*文化が明日を拓く?!(7)*

<ウィズコロナ時代 ノイズムの今③>

―「結果出さねば」 のし掛かる重圧―

  ―「尖っていた昔、変化を楽しんでいる今」―

<江口歩さんとの公開対話>

10月11日、りゅーとぴあの能楽堂で「柳都会vol-22江口歩×金森穣~新潟は文化不毛の地って本当?」が開催された。「柳都会」は、金森穣さんがホスト役になり、多様な領域で活躍する専門家を招いて対話することで、現代社会について考える公開講座だ。江口さんとの対話は当初5月中旬に予定されていたが、これも新型コロナの感染拡大により延期され、今回ようやく開催に漕ぎつけたものだった。金森さんがホストなので、基本的には江口さんの話を聞きだす役回りだったが、対話の中で何回か、金森さんが現在の心情を吐露する場面があった。印象的な部分を切り出して紹介しよう。

<「今なら古町芸妓とコラボできる」>

江口歩さん 以前なら「絶対無理」と思われたものが、コロナの影響もあって「今ならできる」というものが出てきました。金森さん、今ならノイズムと古町芸妓のコラボもできるでしょう?

金森穣さん 昔は無理。でも、今はできます。大人になりましたもん。昔は尖っていたんでしょうね。

写真=江口歩さんと対談する金森穣さん(りゅーとぴあ・能楽堂)

江口さん そういう印象でしたよ。

<「ずっと否定され、苛立っていた」>

金森さん だって、この国では「舞踊家である」ということがまったく認められていなかった。踊りのプロフェッショナルなんて存在していない。「お前の居場所なんてないよ」って。ずっと否定されていて、すごく苛立っていました。

(略)

金森さん (例えば行政と向き合っても)行政に行政の専門知識はあっても、文化の専門家はいないでしょう。向うの要求がこっちには分からないし、こっちの要求が向うには分からないんですよ。

江口さん 僕が市長になったら、全部の課を回ってみんなに言うね。「上司に言ってもダメだろうから、みんなオレに言え」って。僕が観光系の課長で金森さんと組んだら、北方文化博物館を舞台にコラボレーションする。そしたら両方、付加価値が付くじゃないですか。

(略)

<「嫌々やっているんじゃない」>

江口さん 「できるだけウソをつかない」というのがナマラの社訓なんだけど、ある時、「談志の田んぼ」を岩室でやっていた(立川)談志さんに「ナマラは世界平和を目指そうと思う」って言ったら、「いいじゃない」とかわされた。「肯定漫才」ですよね。「すげえ、いいじゃん」と。そうなると、次のところに行かなきゃ、と思う。

軽妙なトークで観客を楽しませた金森穣さんと江口歩さん

金森さん 世の中が落ち込んでくると、肯定漫才になっていく。逆張りですよね。ノイズムも次のところへ行けるか、変わっていけるか、を考えています。「世界と勝負できる芸術をつくる」がノイズムの目指してきたもの。「じゃあ、世界とは何なのか」まで考えると、私も、ノイズムのメンバーも変わっていかなければ…。(ノイズについての議論やコロナ禍もあるが)これは数年前から、そう考えるようになってきました。これまでだったらありえないことを、今やっています。それは変化の中で嫌々やっているんじゃない、と言うか、「嫌々やっているんだろう」と思われるのがすごく嫌なんです。だって、(前回紹介した)目の不自由な方たちとのワークショップもすごく充実していた。

<動き出した矢先にコロナ禍>

金森さんはノイズムの変化を「数年前から」と語ったが、やはりこの1年余、そして新型コロナ禍の下で、その変化は加速したのでないだろうか。ノイズムは、「世界で評価される」ために実力をつけてきた歳月があり、活動15年目に「存続の是非」も含めて大きな議論が巻き起こった。「地域への貢献活動の重視」を柱とした改善が有識者からなる検討委員会で求められ、目の不自由な方とのワークショップなど、地域に向けて動き出した矢先のコロナ禍だった。「昨年からいろんな依頼が来るようになり、実際に引き受けると良い波及効果が出てきた。年明けから市民向けのワークショップなどを充実させ、年度明けからは毎週末にワークショップもやろうとしていた。その時にコロナですから…。やろうとしていたことが全部ダメになってしまった」と金森さん。

検討委ではノイズムの1年間の活動について評価を出すことにしている。「自己採点として、りゅーとぴあ側からも提出することにしています。そりゃあ、(コロナで)できていない方が圧倒的に多い訳ですよね。ノイズムの公演をやって、それでクラスター発生なんてなったら、目も当てられない。それでも『集客は何人?』『ワークショップの回数は?』って数字で測られ、Aだ、Bだ、Cだ、って評価されることを覚悟しなければならない」。さすがに金森さんの表情が険しくなった。

<東京都交響楽団と共演>

そんな中で、ぎりぎりの判断が迫られたのが9月5日、6日の両日、東京芸術劇場・池袋エリアで開かれた東京都交響楽団の「サラダ音楽祭メインコンサート」への出演だった。「東京行きをどうするか?もし東京に行ったことでノイズムメンバーからコロナ感染者が出たら、すごいマイナスイメージが広がりますよね。ホント、ぎりぎり止めようか、って思いました。すごく悩んだ」と金森さんは振り返る。結局、金森さんはノイズムが東京へ行くことを決断する。その結果は大成功だった。当初予定した「春の祭典」は準備不足で踊れなかったものの、6日のメインコンサートでノイズムは「FratresⅢ」と「Adagio Assai」の2演目を披露し、大きな拍手を受けた。「指揮者の大野和士さんからも、交響楽団の方からも大変に喜んでいただきました」と金森さん。元文化庁長官の近藤誠一さんは都響の理事をやっている関係もあってコンサートに来場、旧知の金森さんを楽屋まで訪ねてきた。「ノイズムの公演をすごく喜んでくださり、励ましてくれました。都響からは『来年以降も定期的にやりたい』と話がきているし、結果的には行ってよかった。メンバーは新潟に戻ってから2週間、外に出ませんでしたが幸い誰も何ともありませんでしたから」と、今では笑顔で語れるようになった。

<年内は愛知・豊橋で公演>

今後の活動も、当面は厳しい。りゅーとぴあの劇場公演では、ノイズムが総力を挙げている「春の祭典」のステージは来年7月になりそうだ。「それでも来年の6月にロシアであるチェーホフ演劇祭にまた呼ばれていますし、今年の12月には愛知・豊橋市に行きます。年明けの1月~2月には、ノイズム0とゲスト振付家の森優貴さんによるノイズム1の新作2本立ての公演をりゅーとぴあのスタジオで上演します」とノイズムのマネージャー、上杉晴香さんが今後の予定を教えてくれた。「豊橋は来年行く予定だったんですが、豊橋の劇場から『コロナにより、どこも創作がままならない状況になり、大きな作品をつくれるところが全国にもほとんどないので、是非きてほしい。コロナ禍からの復旧公演として、豊橋のお客さんにも是非ノイズムの作品を届けたい』とオファーがきました。豊橋とは来年以降の公演も見越して継続的に相談しています」と上杉さんは言う。

<「市民向け活動にも本腰」>

写真=市洋舞踊協会とのステージを終えてメンバーと記念撮影(りゅーとぴあの劇場、ノイズム提供)

コロナ禍で今後の予定が立てにくい時期ではあるが、金森さんに契約更新までの1年間の抱負を聞いた。「9月下旬に新メンバーで今季がスタートしました。昨シーズンから『ノイズム0』も動いているし、名称も『ノイズム・カンパニー・ニイガタ』として、新潟の名を前面に出しました。世界に向けての発信は変わらずにやっていく一方、地元・市民向けの活動を本腰入れて充実させていきたい」と金森さんは改めて決意を語った。コロナ禍の下で「本腰を入れた活動」の先陣を切ったものが、このブログでも紹介した新潟市洋舞踊協会とのコラボレーションだった。ノイズムにとって、勝負の一年が始まった。

<青空記者の目>

このところ、毎週末のように「りゅーとぴあ」通いを楽しんでいる。17日は坂口安吾生誕祭実行委員会の主催で「いくつになっても不良少年―安吾的反骨精神のススメ」と題したトークセッションがコンサートホールで開かれ、作家の藤沢周さんと編集者の石原正康さん(共に新潟市内野町出身)らが話し合った。「新潟の人間は肩書で判断しない」というような文脈から、藤沢さんが語った言葉が印象に残った。「うちのじいちゃんは、『美空ひばりのステージに行って、出来が悪かったから拍手しなかった』と言っていた。『じいちゃん、ウソらろ。美空ひばりに拍手しないなんてこと、ないろ』と聞き返しても、『いや、ホントら。拍手しなかった』と言っていました」という内容だった。私も似たような話を聞いたことがある。「美空ひばりの新潟公演で美空さんの体調があまり良くなく、気の入らないステージをやっていたら、拍手が出なくなった。美空さんは『新潟の人は分かるんですね。怖い』と言って、気合を入れ直した」というような話だった。

 この日の入場者は300人弱という。広いコンサートホールでは、大変まばらな感じだったが内容は濃いものだった。コロナ禍の中での催しをどう評価するのか。人数だけでは測れないものがあるだろう。この日は実行委に入っている新潟市から副市長が参加していたが、催しの真の評価は参加した者でなければ分からない。金森穣さんはノイズムの活動の評価について、回数や参加者などの数字で測られ「Aだ、Bだ、Cだ、って評価されることを覚悟しなければならない」と語っていた。今後、検討委が判断していくのなら実際にステージやワークショップを見たり、参加したりした上で評価してほしい。「良い物や本物を見分ける目が新潟にある」ことを信じたい。

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