助け合いの歩み「第1章」

まちづくり

*新潟の助け合いの歩み2*
―河田珪子さんの目指す
「歩いて15分以内の助け合い」―

第1章 居心地の良い「実家の茶の間・紫竹」

◆何をしてもいい
何をしなくてもいい◆

<ここにいるのは「場」の利用者だけ>

新潟市の玄関口、JR新潟駅から東南へ約2キロメートル。古くからの住宅地である東区紫竹にあった一軒の空き家を借り受けて、2014年10月、「実家の茶の間・紫竹」はオープンした。ここは新潟市が8区9か所で展開する「地域包括ケア推進モデルハウス」の第一号で、全国から視察・研修に多くの人が訪れている。「ここにはサービスの利用者はいない。いるのは『場』の利用者だけ」だという。超高齢社会が進行する中で「今、暮らしているこの土地で、いつまでも安心に暮らしたい」と願う人たちの「希望の星」となっている、という。どんな場所なのだろうか。

<一人ひとりが自由に楽しむ>

「実家の茶の間・紫竹」を訪れた日は、座敷を三つつないだ大広間にお年寄りを中心に30人ほどが憩っていた。特にまとまって行動するわけではなく、一人ひとりが自由にその場を楽しんでいる。お喋りに花を咲かせる人、織り物をする人、ボードゲームに熱中する人、それぞれが思い思いに過ごしている。目の不自由な人が来ると、連れの方と共にさりげなく居場所が用意され、お喋りの輪が広がる。幼児を連れたお母さんが加わり、夕方には学校を終えた小学生が遊びに来て、慣れた様子で備え付けの玩具を出し、一人遊びを始めた。集団で行動するのはお昼ご飯の時と、2時からの体操だけ。その体操も座ったままでやる人もいれば、お喋りを優先している人もいる。行動を強制されることはなく、自由に過ごしている。「何をしてもいい」「何もしなくてもいい」のが、この場の特徴だそうだ。温かく、くつろいだ空気はまさしく実家に帰省した気分だ。

写真=「実家の茶の間・紫竹」の、ある日の風景。みんな、実家で寛いでいるように楽しそうだ

<雰囲気を守る「決まり事」>

しかし、決まりがない訳ではない。壁には手書きの文字で「どなたがいらしても『あの人だれ?』という目つきをしない」「プライバシーを聞きださない」「その場にいない人の話をしない」などのルールが書かれた紙が貼り出されている。お陰で見慣れない私たちにも、ぶしつけな視線が飛んでくることはなかった。最初から感じた居心地の良さは、こんなルールに支えられているのかもしれない。

お喋りの輪に加わると、「ここがあるから、ホントに助かっている」「ここに来るのが生き甲斐なの」などの言葉が私たちに向けられた。お菓子を勧めながら「ここは、オレの実家なんだ」と嬉しそうに語る人もいた。みんな親切だけれど、押し付けがましいところがなく、不思議なやすらぎ空間が形成されていた。これは一朝一夕にできる居場所ではない。全国から視察が絶えないというが、やはり「只者」ではないようだ。

 

写真=「実家の茶の間・紫竹」には、近くの小学校や保育園から子どもたちもやってくる。お年寄りの笑顔がいっそう輝く

<衛生面にも万全の配慮>

お昼には「自発的に手を挙げる」お当番さんがつくってくれる昼食を楽しむ。具沢山のお汁がメインで、その日使われる20品目以上の食材がいつも書き出されている。栄養に配慮しているのだ。一番人気はカレー。その日を楽しみにしている人も多い。ここでも「見えない決まり」があった。それぞれができることを手伝いながら、ご飯、おかずを並べるが、厨房ゾーンに入る時はみんな手洗いをし、マスクをして食の安全を確保する。箸がテーブルに配られると、はじめて食品に掛けられたラップが取られ、「いただきます」となる。食べ終わっても勝手に片づけはしない。食事の遅い人が急かされたり、後から食事に加わるお当番さんに気を遣わせたりしないためだ。調理の時、厨房ではエプロンをしていたお当番さんは、みんなの前に出る時はエプロンを外している。サービスする人、受ける人、の関係をつくらないためだという。全員の食事が終わると、はじめて「ご馳走さま」となり、後片付けが始まる。雰囲気は温かいが、食の安全には万全の配慮をしている。そう言えば、お茶を飲む紙コップも、それぞれが名前を書いて自分のコップしか使わないようにしている。これも衛生のためだ。

<市と市民有志の協働事業>

安全に配慮しながら、温かい雰囲気が漂い、みんなに居心地の良さを感じさせる。その上、隅々にまで「利用者を一方的に受け身にしない」との方針を貫く配慮が行き届いているのだ。こんな「場」の運営ができるのは、やはり「只者」ではない。どういう経緯で「実家の茶の間・紫竹」は誕生したのだろう。そこを探る前に、もう少し「地域包括ケア推進モデルハウス」第一号である「実家の茶の間・紫竹」のプロフィールを説明しておこう。空き家だったこの場は、新潟市が月々の家賃と光熱・水道費を負担し、実際の運営は任意団体「実家の茶の間運営委員会」が担っている。行政と市民有志の協働事業だ。祝日も含めて毎週月曜と水曜の朝10時から午後4時まで開かれ、参加費は誰でも一律300円。さらに300円支払えば、栄養バランスが良くておいしい昼食まで楽しめる(子どもは共に無料)。運営費にはそれ以外に「実家の茶の間」のある紫竹地区以外の方からの賛助会員費2千円(年間)があり、70人以上が会員となっている。これは4台分確保してある駐車場費に充てられる。それと、年に1回寄付によるバザーが開かれ、その収入で賄われている。もっともバザー用商品は常時置かれていて、いつでも買い上げが可能だという。

 

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