*実家の茶の間 新たな出発(24)*
<来年に向けての動きが始まっている①>
―「子どもたちも、視察も戻ってきた」―
―利用者も交流が励み 「学び合い」の場にも―
<神戸からチームで視察>
師走に入り、新潟市の「実家の茶の間・紫竹」は、以前と同じ「日常」がさらに戻ってきた。そして、いつもは落ち着いた雰囲気の茶の間が賑やかになる日も増えた。主役は視察組と子どもたちだ。
写真=来訪者の予定などを利用者に知らせる掲示板の前で、今後の予定を確認する河田珪子さん
12月1日、神戸市から3人チームが視察に来た。実家茶の間運営委員会代表の河田珪子さんとはすでに知り合いの認定NPO法人「コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)」で総務を担当する中本宏さんと山村弘美さん。そして、兵庫県立大学の野津隆志教授の3人だった。3人はコミュニティに詳しく、地域の居場所の重要性も熟知しているせいか、視察も熱心で精力的だった。
<「ここは、利用者イコール運営者ですね」>
まず、河田さんやお当番さんチームから運営の要点を要領よく聞いて、次いで3人が別々に参加者の聞き取りに入る。お年寄りたちから話を聞き出していた山村さんは、すぐに実家の茶の間が他の居場所とは違うことに気づいた。「私が最初に話を聞いた80代半ばの男性は、『学校の子どもたち、小さい子がくると私が面倒を見てやるんだ』と嬉しそうに言うんです。それ以外の方も、利用者さんがみんな自分の役割を果たしていらっしゃる。これは、すごいこと。『ここは、利用者イコール運営者なのね』と気づきました」と山村さん。「こういう場所は初めてです。一番大事なことが、それも自然とやられている。こんな居場所は見たことがありません」と、驚きを隠さなかった。
写真=利用者から聞き取りをする山村弘美さん」
中本さんたちも聞き取りをして、利用者が主体的に動いていることに驚かされたという。80代後半の男性は、「私は、この茶の間がなかったら、今ごろあの世に行っているわね。ここで役割があるから、今も元気に生きていられる」と笑って話していたし、お昼ごはんの前後には皆が自分のテーブルを除菌する。「誰に言われるでもなく、自然にやっていらっしゃる。自律的、と言うんでしょうか」と、神戸からの視察トリオは実家の茶の間のすごさを感じ取った。また、聞き取りを受ける参加者にとっても視察は楽しみになっている。みんな我がこととばかり、茶の間の楽しさや運営上の約束事などについて語り、「茶の間自慢」を展開するので、視察組はいつも時間が足りなくなるのだ。
写真=神戸からの視察者の聞き取りに快く応じる利用者たち
<「茶の間の数にも驚きました」>
神戸からの3人は、その後も「実家の茶の間」が新潟市の地域包括ケア推進モデルハウスになった経緯などを市政策調整官の望月迪洋さんらから聞き出し、熱心にノートを取っていた。さらに午後4時前には実家の茶の間を後にし、新潟市役所へ。ここでは担当の地域包括ケア推進課から「地域の茶の間」の全体像などを聞いたという。山村さんは「全国の茶の間のモデルともいうべき実家の茶の間のレベルの高さにも驚きましたが、コロナ前は新潟市だけで500ほどの地域の茶の間があった、という数にもびっくりしました。来年はCS神戸も頑張って、少しでも居場所を増やし、良いものにしていきたい。本当に新潟に行って良かったです」と山村さんは新潟の印象を基に語った。
<江南小の4年生がやってきた>
写真(左)=江南小の4年生が到着すると手の消毒だけで準備OK (右)=子どもたちは慣れているせいか、茶の間にすぐに溶け込んでいた
12月に入って実家の茶の間をさらに賑やかにしてくれたのが、子どもたちの来訪だ。以前から近くの小学校の2年生と4年生が学校の授業として実家の茶の間を訪れていたのだが、これも復活した。15日(水)と20日(月)には江南小学校の4年生が総合学習の授業で各30人以上、茶の間を訪問した。訪問を再開する前には学校と実家の茶の間が入念に打ち合わせをした。一番は衛生面だ。実家の茶の間には、外から来て手洗いをする場所が1カ所しかないため、学校を出る前に手洗いを済ませ、時間のかかる検温も終えることにした。実家の茶の間では手指のアルコール消毒をするだけ。これで、ふれあいの時間がたっぷり取れる。
写真(左)=子どもたちにはセーフティスタッフ「子ども見守り隊」も付き添っていた (右)=すぐに子どもたちから利用者への聞き取りが始まった
20日11時前、引率の先生や地域教育コーディネーターらと一緒に子どもたちがやってきた。ほとんどの子が2年生の時に実家の茶の間に来ているので戸惑いはない。子どもたちはグループに分かれ、参加者たちに昔話を聞いたり、いま困っていることを聞き取ったりしていた。お年寄りたちは、自分の孫かひ孫のような小学生から盛んに質問を受け、精一杯昔の記憶を甦らせたり、自分の暮らしぶりを振り返ったりしながら丁寧に答えていた。
写真=利用者の武田實さんに聞き取りをする子どもたち。「目が不自由で困ることは?」の質問に、「88歳になっても大丈夫」との答えに皆びっくり
<青空記者の目>
今回、実家の茶の間に視察にきた3人のうち2人が所属するCS神戸は「あなたと社会がつながる一歩を応援します」を合言葉に、「自立と共生」を理念とした地域社会を目指し、自ら活動する人々を応援するNPO法人だ。社会に役立つ地域のさまざまな活動に関わっており、「居場所」を「生きがい活動ステーション」と位置づけ、「居場所サポーター養成講座」なども開催している専門家集団だが、そのメンバーも実家の茶の間には衝撃を受けたようだ。
神戸からの視察組が実家の茶の間を訪れてから20日ほど後、CS神戸の山村弘美さんに電話で視察の感想を改めて聞いた。「実家の茶の間、ホントすごかったです」と語る山村さんの言葉は今も弾んでいた。「利用者イコール運営者になることは、ある意味、理想。それが実家の茶の間では、ごく自然に実現していました。そして穏やかな雰囲気。あの空気感は初めて味わいました」と山村さん。視察は、大きなインパクトを与えたようだ。
もっとも実家の茶の間の河田珪子さんは、CS神戸の中村順子理事長とも旧知の仲らしく、「CS神戸の取り組みは幅広く、阪神淡路大震災からの復興に携わったノウハウの積み重ねがあります。互いの学び合いですよね」とサラリと語る。新型コロナが収まっている今、実家の茶の間にも「コロナ前に近い日常」が戻ってきた。「後は、障がい者の方がなかなか茶の間に顔を出せない状況が続いています。以前は目の不自由な方とか、よく来てくれていましたよね。子どもたちも今回のように大勢で来てくれるようになったけど、以前は放課後に小人数で来てくれていた。赤ちゃんや幼児もそうですね。来年に向け、課題はありますね」と、さらなる先を見ていた。
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