いま内野小学校は?8

まちづくり

*いま内野小学校は(8)*

<1年間のミニトマト学習の仕上げ>

―「私たちのトマトがジャムになったよ」―

―地域のシェフが先生、みんなで手づくり―

<「さくら学級」の20人が参加>

特別支援教育に力を入れている新潟市の内野小学校で17日、子どもたちが地域の料理人の指導を受けてミニトマトを材料にしたジャムづくりに取り組んだ。これは同校のPTAから生まれた地域づくりグループ「一般社団法人Smile Story(スマイルストーリー)」がプロデュースしたもので、特別支援学級「さくら学級」の子どもたち約20人が目を輝かせながらミニトマトからジャムをつくっていった。

<苗植えから収穫、販売、そして調理>

内野小では今年、さくら学級の子どもたちに農業を体験してもらうことにし、隣接する西蒲区にある「エンカレッジファーミング」の植物工場(2㌶規模でオランダ型の最新鋭設備を持つ)でミニトマトづくりを体験した。1月末にはミニトマトの苗植えをし、5月の連休明けには自分たちが植えたミニトマトを収穫した。商社マンから転じた中村芳郎校長の発案によるもので、エンカレッジの近藤敏雄社長をはじめスタッフの全面協力を受けた。

7月には、その延長線上として内野地域の市(いち)で子どもたちがエンカレッジのミニトマトを「さくらトマト」と銘打って販売に挑戦した。これもスマイルが企画したもので、地域の方たちから温かく見守られ、エンカレッジから仕入れた70袋(ミニトマト約20個入り)はあっという間に売り切れた。売り上げの中からエンカレッジに仕入れ値を支払い、商売の仕組みも学んだ。その際「今度はミニトマトを使って、子どもたちを料理作りに挑戦させたい」との声が挙がり、スマイルが引き続き企画を担当。内野駅前の「旬菜バルkansichi」の店主シェフ・正木大介さんに協力を依頼した。正木さんの快諾を受け、ミニトマトを使ったジャムづくりが実現した。ミニトマト4キロはエンカレッジが提供した。今回の調理実習は一連の「トマト学習」のいわば仕上げといえる。

<スマイルが調理実習の下支え>

スマイルの代表理事・綱本麻利子さんらメンバーは入念に準備をし、この日に臨んだようだ。学校の調理実習室の壁には「じゅんびするもの」とのタイトルでミニトマトやレモンのほか調理器具の写真が飾られたポスター紙が用意され、「名前 いくつわかるかな?」との質問が書かれている。もう一枚のポスター紙には「つくりかたは?」とのタイトルで調理の手順が書き出されていた。①ミニトマトを切る②砂糖を入れる③ミニトマトを煮詰める④レモンをしぼる⑤レモン汁を入れる⑥ジャムを詰めるビンの消毒(先生が担当)⑦ビンに詰める⑧シールをはる―が今日の作業だ。

写真=調理実習室にはさくらトマトからジャムづくりで準備するもの(左)や、つくり方などが壁に貼られていた

子どもたちが実習室にやってきた。みんな自分たちが育てた体験のあるミニトマトを使ってのジャムづくりに張り切っているのか、いつも以上に活発な様子だ。指導役の正木さんは48歳。広島生まれだが、奥様のふるさとの内野に7年前に越してきたそうで、「子どもたちのお役にたてるなら」とこちらも張り切っている。挨拶と紹介が終わると、早速4つのグループに分かれて作業開始。まず正木さんがミニトマトを軽やかに切って手本を示す。次いで、子どもたちが包丁を手にする。最初はぎこちなかったが、中にはすぐに慣れて手際よくミニトマトを切っていく子どももいる。「上手だよ」「自分の手を切らないように、ゆっくりでいいよ」などの声が飛ぶ。先生たちのほかに、スマイルのメンバーが作業を下支えするのがいつもの内野小のやり方だ。

写真(左)=さくらトマトからジャムをつくる企画をプロデュースしたスマイル代表の綱本麻利子さん(右)と指導役の正木大介さん。(右)は子どもたちにジャムづくりについて説明する正木さん

<先生役のシェフに次々と質問>

ミニトマトを切り終えると、鍋に移して砂糖を入れ、加熱する。「さぁ、火をかけますよ。火の調節は真ん中ぐらい。中火でね」と正木さん。次に子どもたちはレモン絞りに取り掛かる。正木さんは4グループを見回り、的確にアドバイスするが、子どもたちは正木さんがくると「先生、なんでレモンを入れるんですか」などと質問。「レモンを入れるとトマトの色がきれいに出るし、ただ甘いよりもレモンの酸味が甘みを引き出すんだよ」と正木さんが答えていく。

写真=ミニトマトを交替でカットする子どもたち

「レモン、絞り終えましたか?トマトも良い具合に煮えてきたね。よし、グツグツ煮えているトマトにレモン汁を全部入れるよ!」との正木さんの指示に子どもたちが即、反応する。レモン汁をトマトに合わせ、かき混ぜだすと、実習室には甘酸っぱい、美味しそうな匂いが漂い出す。「もう、このまま食べられそうだよ」「レモン入れたら、トマトがきれいになった」と、子どもたちの興奮はさらに高まる。「後は煮詰めていくだけだよ。交替でかき混ぜてね」と正木さん。

写真=カットしたミニトマトを加熱する子どもたち

<テレビクルーも大きな役割>

内野小「さくら学級」のトマトづくりから子どもたちの姿を追ってくれているBSNのテレビクルーが、この日も取材にきてくれていた。テレビの取材も子どもたちには大いに励みになっているようだ。「家でも料理やってる?」とマイクを向けられると、「ラーメン茹でたことある」「チャーハンやオムライスもつくった」などと次々と料理体験を披露。「包丁は使ったことあったの?」との問いには、「危ないからとママが使わせてくれなかった」「だけど、ちゃんと使えたよ」などと先を争うように答える。中にはクルーのマイクを取り上げ、しっかりと自分で握りながら答える子もいる。ほとんどの子が驚くほど積極的だ。これも調理実習の効果なのだろうか。

写真=テレビクルーは子どもたちを育てる役割も果たしている

<ヨーグルトでジャムの試食>

ジャムづくりはこうして終盤戦に。スマイルのメンバーが消毒してくれたビンにジャム詰めが始まる。「自分たちのトマトがこんな風になると思っていた?」とテレビクルーが聞くと、「考えられない。キムチみたいになってきた」とか、「まるでミートソースみたい。今日、スパゲッティ食べたくなった」などと活発に答えていた。ジャムづくりは、ジャムをビンに詰めて、ビンに「さくらトマト」のシールを貼って終了だ。「これが僕の作ったジャムだよ」とビンをテレビクルーに示す子もいた。

写真=ヨーグルトに手づくりジャムをかけて試食する子どもたちと、ビンに貼る「さくらトマト」のシール

その後にお楽しみが待っていた。用意したヨーグルトに、つくったばかりのジャムを掛けての「試食会」だ。子どもたちは「やったあ!」と歓声を挙げながらスプーンを手にする。この日初めてマスクを取り、自分たちと深い縁で結ばれたミニトマトからつくったジャムの味を確かめていた。

<青空記者の目>

この日、内野小の調理実習室には思わぬ助っ人が待機していた。お笑い集団ナマラに所属する芸人トリオ「アスペルガーゼット」の一員、「ナミナミ」だった。12日に開かれたナマラのステージを見た中村校長が、「アスペルガーを自認してステージで活動する彼らと、内野小の子どもたちを出合わせたい」と考え、ジャムづくりのアシストをお願いしたのだ。ナミナミはこの日、いつも頭に着けているチューリップの飾りをトマトバージョンに替えて登場。子どもたちが実習室に入ってくるのをオーバーアクション出迎えた。このサプライズに子どもたちは大興奮し、ナミナミに駆け寄っていった。

調理が始まるとナミナミは4つのグループを回って、料理の様子を実況しながら子どもたちを励まし続けた。ミニトマトが煮え出すと、「おっ、水分が出てきましたよ。砂糖もだいぶ溶けてきた。はい、フライパンを持ちあげて!」、「よし、もっとかき混ぜようか。交替でマゼマゼお願いします」、「そうだ。上手、上手!はい、拍手」などと声援を送り、調理実習を盛り上げていた。

写真(左)=ジャムを手づくりする子どもたちを応援するナミナミ。テレビクルーとの競演となった。 (右)=スマイルの綱本さんとコラボするナミナミ。この日のためにトマトのかぶりものをつくってきた

中村校長は、教職員以外の方を学校に入れる効果を常に考えているように思う。来年の創立150周年の記念事業はもとより、普段の授業にも外部人材の活用を積極的に図っている。「来年からは新潟市の学校はみんな、コミュニティースクールになります。だから、地域の力を活用するのは当たり前になる。今から、事あるごとにやっていかないと」と中村校長は言う。「みんなの力で子どもたちを育てようと」と地域力を活用する学校は新潟市に多いが、内野小は先日、ナイジェリア大使の訪問を実現したように、そのウイングがひと際広いように思う。その意味でもコミュニティ―スクールの一つのモデルだ。

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