*ウィズ・コロナ時代 いま学校は?*
<新潟市の小学校に見る②>
―「人とのかかわりを大切に」―
―コミュニティ・スクールは先取り―
前回は、新潟市の教育政策監を務めた伊藤充・新潟青陵大特任教授から、新潟市のすべての学校が2022年に移行するコミュニティ・スクール(CS)の話を聞いた。「新潟は、地域との協働の実態づくりを優先し、積み上げてきた。形としてのCSに移行することに不安はないだろう」と伊藤さんは語ったが、この方向性はかなりの校長先生が共有しているようだ。
<「CSになっても変わらない」>
新潟市教委で学校支援課長を3年務め、上所小学校(中央区・児童数679人)に移って3年目を迎える大井隆校長も「新潟は教育ビジョンに基づいて『学・社・民の融合』に力を入れてきました。先行してCSに移行した全国の市町村以上に、地域との協働の土台ができている」と自負を語る。上所小は、地域の女池小・鳥屋野中と共に今年度からCSのモデル校に指定されているが、大井校長に気負いはない。「不安と言えば、『CSになっても、以前と変わらないじゃないか』と言われることですかね」と冗談交じりに語る。
写真=上所小学校の校長室で語る大井隆校長
同じく市教委で教職員課長(後に学校人事課長と課名変更)を3年やって、大井校長と同じ時期に新潟小学校(中央区・児童数525人)に異動した吉田隆校長も「新潟は地域協働を推進してきました。これは、いわばボトムアップ型でCS化を進めてきたこと。国のCS移行はトップダウン型で、やや強引なところもあった」と言い、「うちはCSのモデル校にはなりませんでしたが、事実上、CSになったつもりでやっています。現在の学校評議員会は5人以内でやってきているのですが、CSの学校運営協議会のメンバーは15人以内となっています。うちは市教委にお願いして、今年度から評議員会の人数を増やして、12人でやらせてもらっています」と語った。
写真=新潟小学校の校長室で資料を手に笑みを広げる吉田隆校長
<ウィズ・コロナの苦しみ>
新潟市が2022年度からCSへ全面移行する理由について、市教委が作成したQ&Aでは「本市では地域と学校パートナーシップ事業の推進により、大きな成果を挙げてきました。一方で、恒例化した活動が散見されているという声が届くようになってきました」と、一部マンネリ化を指摘し、「これまでの連携・協働を深化・進展させることが求められています」とし、前回に紹介した自転車論(前輪=学校運営協議会、後輪=地域学校協働活動)を示している。他の地域では、CS化には相当なエネルギーを必要とするが、新潟市の学校はそれほどのことではなくCSに備えていけそうだ。
「全国では、コロナ禍の影響で授業時間がかなり減り、それを取り戻しつつ、CS化を推進するのは大変。それに比べれば、新潟は授業の遅れもほぼ取り戻せている」と、新潟が比較優位にコロナ禍に対応できていることを評価する声も教育界にある。それでも学校長は気が休まる時がない。上所小の大井校長は「一般的にいえば、コロナの影響で色んな機会が子どもたちから失われ、やはり閉塞感のようなものがある」と言う。これまで学校では、朝、元気よくあいさつし、授業はみんなで頑張り、休み時間はたむろして仲良くする―これが当たり前だった。「それがみんな変わってしまいました。運動会では『目いっぱい応援』ができなくなり、修学旅行も延期されてきました。子どもたちの大事な発達段階で、生活リズムが大きく狂ってしまった。多くの小学校で、子どもが落ち着かなくなり、転入生が学校に慣れるのに時間が掛かっています。不登校の増加も心配です」と大井校長は言う。
<大切な運動会や修学旅行>
「コロナ禍の中で、どうやったら本来の子どもらしい姿にもっていけるのか」―学校現場では苦闘が続いている。そんな中で重要な行事が運動会や修学旅行だ。まちなかの新潟小ではグラウンドが狭く、普通の年でも保護者に窮屈な思いをさせてきた。春の運動会はコロナの影響で延期となっていたが、新潟小では10月1日に市の陸上競技場を借りて運動会を開くことを決めた。「あそこなら、保護者の方だけで1000人は大丈夫」と吉田校長は笑みを広げる。上所小も10月3日に同じ陸上競技場でやることが決まっている。「例年のように、肩組んで応援というわけにはいきませんが、トラックを使って応援合戦はできる。保護者の方も『密』を避けてスタンドから見ていただけます」と大井校長。
6月に予定されていた修学旅行も9月に実施されることが両校とも決まっている。行く先は共に会津若松だ。「こういう時の修学旅行だからこそ、人とかかわることを大切にしたい。子どもたちは小グループに分け、アイパッドを持って行ってもらう。会津の人と出会わせ、素晴らしい出会いを記録してもらいたい」と上所小の大井校長。新潟小では会津若松市の七日町商店街と事前にオンライン学習をやった。「3クラスの6年生を一堂に集められず、3教室と会津を結んで合同授業にしたのですが、何の問題もなかった。オンラインの活用法はまだまだ広げられます」と吉田校長は語った。
<青空記者の目>
コロナ禍に苦しみながらも、子どもたちの成長を支える取り組みが新潟の小学校で続いている。普通の地域なら、コミュニティ・スクール(CS)に移行するだけで大騒ぎになるところだが、ありがたいことに新潟市はほとんどの学校で「地域との協働」が積み上げられ、CSへの移行が大きな負担とはなっていないようだ。そんな中で、「なぜCSへの移行が必要なのか」との疑問もあるが、ここ数年、文科省は全国でのCS移行に力を入れてきていた。これまで新潟市の学校が毎年複数表彰されてきた「地域と学校の関係優秀事例」などでも、「CS以外の学校は表彰対象から外す」などの声が陰に陽に聞こえてきていた。「国がますます本気モードになってきた。これ以上、CS化を避けるのは得策ではない」との雰囲気が新潟市教委にも広がり、CS移行につながったのでは、と推測している。CSの先進事例である千葉・習志野市秋津小を活動拠点として「まち育て」を実践してこられた秋津コミュニティ顧問の岸裕司さんは、「新潟市は教育ビジョンの中で、地域との関係性を重視する方向を明確に打ち出した。地域教育コーディネーターをいち早く配置したことでも全国のモデルの一つ」と語っている。自信を持ってCSに踏み込んでほしい。
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