「茶の間」再開1
*「実家の茶の間・紫竹」再開に向けて*
―取り組みを日記風にリポート―
2020年5月26日
<2月25日から自主的に休止>
新型コロナウイルスの禍は、広く市民生活に及んでいます。地域のお年寄りたちが楽しみにしていた、みんなの居場所「地域の茶の間」も、その多くが活動中止に追い込まれています。新潟市の地域包括ケア推進モデルハウス第一号の「実家の茶の間・紫竹」は、市と実家の茶の間運営委員会が協働で運営する居場所ですが、ここも2月24日を最後に活動を自主的に休止してきました。40畳ほどの大広間に、多い時には50人以上の人が憩う実家の茶の間は、「三密そのもの」のような状況でしたので、休止はやむを得ない措置でした。しかし、運営委員会代表の河田珪子さん(76)たちは「コロナでみんなが不安の時こそ、茶の間のような心の拠り所が求められている」と考え、再開に向けての条件づくりを模索してきました。再開の道を探って苦闘する河田さんたちの取り組みを、5月下旬から日記風にリポートします。全国各地で「居場所」を運営する方たちの参考になると思うからです。
ー再開に向けて、戦略会議が開かれたー
2020年5月25日
<再開に向けてメモづくり>
国が緊急事態宣言を全国すべての地域で解除することとなる5月25日(月曜日)、河田さんは何枚かのペーパーを持って「実家の茶の間・紫竹」に姿を現した。月・水曜日は実家の茶の間の開業日で、活動を休止してからも河田さんや運営委員会の中心メンバーはその日に実家の茶の間で顔を合わせ、再開をにらんでの準備に取り組んでいた。河田さんがつくったペーパーには、再開に向けてさまざまなことがメモしてあった。「紙コップ○、大皿取り廻し×、使った食器消毒(熱湯)、お菓子△、アメ○」などと書かれたペーパーもあった。再開に向けてクリアすべきハードルを自己点検したものだ。別のペーパーには「実家の茶の間・紫竹」とは何なのか、とのタイトルが書かれ、コロナ禍で休止しているこの時に、地域の茶の間の役割について本質的な問いかけをしていた。「赤ちゃんからお年寄り、障害の有無、外国人(誰でも)」という言葉や、「人と人とのつながり、人と社会のつながり(の場)」などのメモが書かれている。「感染症と共存社会」の項には「孤独・孤食、人に会いたい、行くところがほしい」などの考えるヒントが書き込まれていた。
写真=「実家の茶の間・紫竹」再開に向けて思いをめぐらす河田珪子さん(中央)
<「地域の茶の間」の名付け親>
「ポスト・コロナ社会に向けて、私は『実家の茶の間・紫竹』の役割や存在感が高まっていると思う。地域の茶の間などの居場所をこれからどうすればいいのか、どうすれば再開できるのか、全国みんな基本的方向や具体的なハードルが見えていない。その方向性を明示し、具体的なハードルを設定して、どうすれば乗り越えられるのかを示す。それができるのは、ここだと思う。新潟市で助け合い活動を30年やってきた者の目で具体的な道筋を考え、お示ししていきたい」と河田さん。この日は午後から新潟市の担当者と包括ケアの戦略会議が開かれるため、河田さんは戦略会議に臨むにあたり自らの考えをまとめるためにメモをつくっていたのだ。「『地域の茶の間』というネーミングについても、改めて考えてみました。これは1997年に山二ツの自治会館を活用した時、取材に来た地元紙の記者さんがつけてくれた名前で、私たちは『茶の間』と呼ぼうと思っていました。でも、『地域の』と加えてくれたことで『社会性がある茶の間』という意味合いが明確になりました。それが今、このコロナ禍の中で茶の間を再開する意味を表しているようで、いい名前をつけてもらったと思っています」と河田さんは自分に言い聞かせるように語った。
<答えられない、再開への道筋>
河田さんがメモについて語り出した時、新潟市江南区の一層の「支え合いのしくみづくり推進員」である佐藤連さんがやってきた。「支え合いのしくみづくり推進員」は、地域で医療や介護が受けられる「地域包括ケアシステム」を構築するため、国が自治体に配置を求めた要員で、国は「生活支援コーディネーター」と名付けている。新潟市では地域包括ケアの構築には「支え合いが重要」と考え、このネーミングにしている。広いエリアを担当する一層と、日常生活圏を担当する二層の二つがあり、政令指定都市である新潟市では一層を8つの行政区、二層を複数の中学校区単位に定めている。佐藤さんは新潟市の一層の推進員の中では最も若く、河田さんたちの取り組みに学ぶため、実家の茶の間・紫竹をよく訪れている。佐藤さんと河田さんの二人は、すぐに地域の茶の間の今後について語り合い出した。「いま、江南区で地域の茶の間を運営している方たちの雰囲気ですか?大半が『当分、再開は無理だよね』とか、『ここで無理して再開して、感染でも起こしたら大変』という感じでしょうかね。私たちも『この地域の茶の間はどうすれば再開できるか?』と聞かれても、答える物差しを持ち合わせていないんです。それは二層の推進員も同じこと。だから、ここに来て、河田さんたちの取り組みを聞かせてもらっています。ここで再開への道筋を示してもらえれば、それを参考に個々の地域の茶の間についても考えていけます」と佐藤さん。河田さんはそんな言葉にうなずきながら、「推進員の方は実際に地域の茶の間を立ち上げた経験がなく、運営の具体ノウハウも知らないわけだから、再開のジャッジを求められても困ってしまう。ここは助け合いのプロである私たちの出番というか、役割だと思う。ここを相談場所にして、江南区でも施設それぞれの特性を踏まえた再開へのハードルやスケジュールができていけばよいですよね」と佐藤さんに語りかけた。
<情報共有と意見交換の場>
「実家の茶の間・紫竹」では、2月下旬から一般利用を休止した後も利用者らからの問い合わせに応じたり、今後のことを相談したりするため、開業日の月・水曜日には河田さんや当番さんがここに詰めていた。また、「実家の茶の間・紫竹」には新しい助け合いの仕組みとなる「助け合い お互いさま・新潟」の事務局も置かれており、ここには大型連休前までは平日は毎日、「支え合いのしくみづくり推進員」ら3人チームが交替で当番を務め、市民らの困りごと相談に対応していた。それは河田さんら「実家の茶の間・紫竹」運営委員会のメンバーと「支え合いのしくみづくり推進員」の情報共有・意見交換の貴重な機会ともなっていた。
写真=新潟市「りゅーとぴあ」脇のサクラが満開になった頃、「実家の茶の間・紫竹」再開のメドは立たなかった
大型連休からは「お互いさま・新潟」の事務局も休止したが、月・水曜日には河田さんらが実家の茶の間に顔を出し、再開に向けてのハードルを考えたり、利用者らの問い合わせに応じたりしていた。この中で河田さんたちは、実家の茶の間の利用回数券チケットをいったん回収し、チケット代を払い戻すことを決めた。それをチケット利用者に連絡することで、実家の茶の間の信頼を高めると共に、利用者の近況を確かめることにつなげていた。大型連休明けからは、今後が心配で実家の茶の間を訪ねてくる方への対応を含め、マスク着用・手洗いなどを厳守のうえ、「30分を限度」に利用者を実家の茶の間に入ってもらうことにした。5月中旬からは利用回数券の回収も始まり、4万円近い回数券が換金された。
<市の包括ケア戦略会議に向けて>
一方、市地域包括ケア推進課では、国が緊急事態宣言を一部地域で解除することを本格検討した大型連休明けから、市の新型コロナ感染対策チェックリストを参考にしながら、市内8区9か所に設置してある地域包括ケア推進モデルハウスや市内に500か所以上ある「地域の茶の間」を再開するチェックポイントづくりに入っていた。5月13日には市地域包括ケア推進課から河田さんのもとに、「自粛解除に向け、国が示している新しい生活様式と、イベント開催基準に照らし、茶の間を開催する遵守事項」をまとめた案を送って意見を交換。25日の戦略会議が設定された。
<戦略会議で再開を確認>
25日午後、新潟市の地域包括ケア戦略会議が実家の茶の間・紫竹で開かれた。市側からは担当の福祉部長や地域包括ケア推進課長らが参加。河田さんは新潟市の「支え合いのしくみづくりアドバイザー」でもある立場から会議に臨み、河田さんと中原八一市長ら市幹部をつなぐ市政策調整官の望月迪洋さんも加わった。会議では、河田さんから「地域の茶の間」再開に向けての強い覚悟が示され、市側からは新型コロナウイルス感染症対策での基本的なチェックリストと、それを基にした地域の茶の間再開に向けてのチェックポイントなどが提示された。市が作成したチェックポイントには「実家の茶の間・紫竹」のこれまでの運営ノウハウと、今回の新型コロナウイルス対策を踏まえた再開へのチェックポイントを踏まえたものが大半だったが、市側では再開に当たって「利用申し込みを当日午前9時までに予約」することと、「利用は午前10時から正午と午後1時から3時まで」とすることが書き加えられていた。戦略会議では、河田さんの「茶の間は、新型コロナで高齢者らが不安の時にこそ必要」との意見を重視し、「万全の準備をしながらそれぞれの茶の間の特性を踏まえて、再開へのチェックポイントをガイドラインとしてクリアできるようにしていく」方向でまとめられた。再開の日は近いのだろうか。
<青空記者の目>
私が「地域の茶の間」に着目しているのは、「地域包括ケアシステム」を構築する上で、「居場所」が大きな意味を持っていると思うからです。国は、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年度までに、自宅や地域で医療・介護が受けられる地域包括ケアシステムを構築することにしています。包括的な安心を地域で築いていくには医療・介護資源だけでなく、「助け合いの土台」が地域にあることが重要です。その中で「地域の茶の間」のような居場所は大切な役割を果たすでしょう。その「茶の間」が新型コロナの感染が収まらない中で活動を再開できるのかーこれは「包括ケア時代」を日本でつくり上げられるかを見る大きなポイントとなると思います。「居場所」のない地域包括ケアは考えられないからです。
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