文化が明日を拓く5

まちづくり

*文化が明日を拓く?!(5)*

<ウィズコロナ時代 ノイズムの今①>

―「最高でした、子どもたちとの競演」―

  ―「洋舞踊協会」の合同公演を指導―

<8つの小品、すべて新作>

10月4日、新潟市「りゅーとぴあ」の劇場に大きな拍手が響いた。「第68回新潟市芸能まつり」の一環で「新潟市洋舞踊協会・第9回記念合同公演」が昼、夜と開かれ、市内12のバレエ・スクールに集う子どもたちが日ごろ鍛えたバレエの技術を披露し合った。今回の合同公演で最も注目されたのが昼の部・夜の部とも締めに演じられた合同作品「畔道にて~8つの小品」だった。りゅーとぴあの専属ダンスカンパニー「ノイズム」を率いる金森穣さんが構成・選曲・振り付けなどすべてを総合演出したもので、8つの小品はいずれも新作だった。関係者や観客が見守る中、子どもたちはノイズムのメンバーと共にステージで躍動し、「ノイズムの世界」をみんなで創り出した。演技が終わると、一段と大きな拍手が贈られ、カーテンコールに金森さんが登場すると劇場の興奮は最高潮に達した。新型コロナの感染前なら「ブラボー!」の歓声が響き渡ったのだろうが、観客たちは精一杯の拍手を送り続けた。

カーテンコールも収まり、明るくなった劇場から観客席の皆さんが退席し始めた。「ノイズムって初めて見ましたけど、良かったですね」「また、うちの子を金森さんが指導してくれないかしら」―今日の主役だった子どもたちのご家族なのだろう、劇場を去る間際まで、興奮された様子でステージの印象を語り合う姿があちこちで見られた。その頃、大役を果たした子どもたちは、ステージ上で金森さんらノイズムメンバーと記念写真に収まりながら、高揚感に浸っていた。笑顔を弾けさせる子どもたちを見ながら、金森さんも満足そうな笑顔を浮かべた。

写真=洋舞踊協会との合同公演を終え、子どもたちと記念撮影する金森穣さんと井関佐和子さんらノイズムのメンバー(りゅーとぴあ劇場、ノイズム提供)

<「金森さんにお願いしよう」>

市洋舞踊協会の合同公演は5年に1回開かれる大規模な催しで、関係者は1年以上前から準備に取り掛かっていた。同協会の会長で「内堀照子舞踊研究所」を主宰する内堀照子さんは、「合同公演の指導をどなたにお願いしようか、みんなで考えていた時期に、ちょうどノイズムの契約更新が決まりました。『金森さんが新潟にいてくれるなら、ぜひお願いしよう』と話が決まり、金森さんに頼むことにしました」と語る。新潟市はクラシックバレエのスタジオは多いが、ノイズムのようなコンテンポラリーダンスと接する機会は多くない。クラシックが盛んなだけに、かえってコンテンポラリーとの距離感を意識する関係者もなくはなかった。「これまで、あまり接点がなかったけれど、『いろんな表現に触れることは子どもたちにとって良いことでは』と関係者がまとまりました。コロナ禍で大変な時に、金森さんたちノイズムには情熱的に指導に当たってもらいました。まさに手取り足取りで。子どもたちは最初戸惑いもあったようですけど、すごく楽しんだようです。良い機会になりました」と内堀さんは評価する。

<井関佐和子さん、「最初は心配」>

金森さんらノイズムにとっても、子どもたちとの競演や指導は大きな意味があったたようだが、その道のりは簡単ではなかった。金森さんのパートナーでノイズムのトップダンサーでもある井関佐和子さんは、洋舞踊協会からの話があった時、最初は心配だったという。「私、こういう話がくるといつも、まず『穣さん、大丈夫かしら?』って思うんですよ。『子どもたちと向き合うのは大変だろうな』って。作品は良いものになる、と分かっていても、その裏の苦労も知っているから。金森穣は一定のレベルに達するまで妥協しない人。『やるなら、ちゃんとやれ』っていうのが口癖なんですから」と井関さんは言う。「子どもたちが、そのレベルまでいけるかどうか心配したの。でも、最終的にはいけたんで、それがすごく嬉しかった。私も」と井関さん。

もっとも金森さんは「ノイズムでもバレエ的なことはやっているし、クラシック音楽での振り付けは毎度のこと。昔、札幌でバレエ教室に作品を振り付けたこともあるので、日本の地方都市のバレエ教室の子どもたちのレベルも大体分かっていました」と軽く応じ、「それよりも、子どもたちが『ノイズムともっとやりたい』『もっと上達したい』と思えるかどうか。そしてスクールの先生方が、金森の振り付けを応援してくれるかがちょっと不安でした」と振り返る。そして、思いもよらなかったのが新型コロナウイルスの感染拡大だった。今年3月頃からレッスンをスタートさせることにしていたが、最初は集まることもできない。練習が軌道に乗ったのは8月になってからだった。毎週末、各教室から40人程度が選抜され、合同練習が始まった。

写真=子どもたちを指導する金森穣さん(りゅーとぴあで)

<ダンサーたちも指導役に>

金森さんは初めから、「この合同作品は、ノイズムと子どもたちとのコラボレーションなので、単に金森穣が振り付けたレベルではなく、地域の子どもたちとノイズムが向き合うつくりにしたかった。ですから、うちの舞踊家も一緒に踊った方が良いですよね。バレエでは普通、女の子が男性と踊る機会は絶対的に少ない。うちの男性メンバーと踊るのは貴重な機会になります。そして、メンバーたちにもパートを割り振って子どもたちの指導にも当たってもらった。みんな真剣度が違いました」と言う。

一方、バレエ・スクールの先生方も最初は緊張していたようだ。合同練習の度に、先生たちも顔を出し、ノイズムとのコラボを見守った。「自分のとこの子どもが気になって仕方がなかったみたい。こっちが指導した後、教室でも練習させていたんじゃないかな。『あれ、これちょっと違うんだけどな』って思う時もありました。でも、子どもたちがどんどん変わってくるのが分かる。作品の全貌が見えて、子どもたちも良くなってくると、先生たちも安心して、喜んでくれるようになった」と金森さん。

<「舞台で涙が出そうになった」>

子どもたちとのコラボは、井関さんにとっても大きな刺激になった。「佐和子には、絶対に普段ありえない状況で踊ってもらった。お相手は、おチビちゃん一人。これは小さい子にも刺激になると思ったけど、佐和子にもいいかな、って」と金森さん。その効果は金森さんが思っていた以上に大きかったようだ。井関さんは言う。「小学校低学年の小さい子と踊る。目の前に、あまりにも素直な存在がいて…。私、踊っている時、『自分に正直でありたい』と思っているんですけど、この素直な存在の前には、『私、ウソっぽい』って感じてしまう。子どもが私に合わせて踊るハズなんですけど、私がその子のマネしてるみたいになってきて。穣さんから『佐和子、動きが遅い』ってダメ出しされました」

写真=笑顔で合同公演を振り返る金森穣さんと井関佐和子さん(りゅーとぴあで)

苦笑する井関さんを見ながら、金森さんも「子どもたちは最初、不安だから佐和子に合わせているんですけど、段々と自信がついてくる。だって、教室の先生がメッチャ練習させてるみたいで、来る度に上手になってくる。それは嬉しいんだけど、今度は佐和子が動く前に、もう自分で先に動き始めてしまっていてね」と笑いながら振り返る。本番のステージの時、井関さんは不思議な感覚に襲われた。「最後の夜の部、『(相手役の)由佳理ちゃんのために踊るからね』って励まして舞台に出た。すると、彼女に何かが生まれている感じがして。何か、『この宇宙空間に、私たち二人しかいない』みたいな気持ちになってしまって…。私が先に舞台からハケル時、『彼女を一人残していく。寂しい…』との感情が込み上げて、私の方が涙出そうになったんです」と井関さん。「通し稽古を入れて一日で4ステージやったわけですから、もう全員ヘトヘト。私たち二人も興奮状態で、まさにスペシャルなステージでした」と金森さんは充実した笑顔を浮かべた。

<青空記者の目>

新潟市洋舞踊協会とノイズムのコラボレーションは、大きな成果を生んだ。協会長の内堀照子さんも「すごく良い機会だったと思っています。子どもたちも協会メンバーも大変に喜び、かつ満足しています。お母さんたちがノイズムを知る良い機会にもなった。合同公演は5年に1回ですけど、次の機会を見つけて是非またやりたい」と語る。ノイズムにとっても刺激は大きかったようだ。合同作品の時は昼・夜の2回公演とも、メンバー全員が緊張状態。出演の時はもちろん、舞台の袖で見守る時も「自分が指導を担当したパートの子どもたちは大丈夫か」と固唾を呑む雰囲気だったという。「みんなが『他人事じゃない』って感じ。まさに全員参加でしたね」と金森さん。コロナ禍の下で、合同練習をやり遂げ、舞台をつくり上げたという達成感が、子どもたちの心も、ノイズムメンバーたちの気持ちも一層ハイにしたのだろうか。

子どもたちとのこのような合同作業は初めてだが、ノイズムの活動は子どもたちにこれまでも大きな刺激を与えてきた。例えば、新潟市内の高校ダンス部は大変にレベルが高く、神戸市で毎年開かれている「全日本高校・大学ダンスフェスティバル」でワン・ツーフィニッシュを決めたこともあり、毎回のように上位入賞を果たしている。新潟中央高校ダンス部を率い、全国第1位に導いたこともある指導者・外山陽子さんは「新潟の高校生のレベルが高いのはノイズムのお陰。小さい時からノイズムの舞台を見たり、ワークショップに参加したりして、体の動かし方などを知っている。だから、新潟の高校ダンス指導者は助かっているの」と語っていた。そんな存在であるノイズムだが、今回の合同公演はバレエ関係者の認知度アップにもつながったようだ。

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