いま学校は?3

まちづくり

*ウィズ・コロナ時代 いま学校は?*

<新潟市内野小学校に見る③>

―ICT教育の可能性を引き出す―

―「闇サイト」から子ども守ることが課題―

新潟市は、来年1月初めまでにすべての小中学生にタブレットを配布するという。新潟市のICT教育への取り組みは、全国的に見ても展開が早く、今後の教員研修やICT支援員などサポート体制の構築にも意欲的だ。新潟市教委が各校と連携して、ICT教育の可能性を短期間でどこまで引き出せるか、全国の教育関係者からも注目されている。一方では、子どもたちをインターネット悪用の「害毒」から守る取り組みも欠かせない。内野小学校の中村芳郎校長に加えて、新潟市の元教育政策監、伊藤充さんからも話を聞いた。

<元教育政策監の見方>

「GIGAスクール構想」を加速する動きについて、新潟市の教員OBはどう見ているのだろうか。新潟小学校の校長や教育政策監などを歴任し、「新潟県 県民性の歴史」(新潟日報事業社)などの著書のある伊藤充・新潟青陵大特任教授は、「新潟市はタブレットの配布などを前倒しで進め、先進的にICT教育に取り組んでいこうとしている」と評価した上で、こう語る。「今回のコロナ禍で、日本全体の教育環境が必ずしも世界のトップ水準ではなかったことが明らかになりました。SARSなどの感染で厳しい体験をした韓国やシンガポールなどと比べて、ICT教育の分野も立ち遅れていた。日本の教育は、教室に子どもたちが集まって、対話をしながらつくっていく方式です。教室の構造を見ても、換気はあまり考えていなかったし、ソーシャルディスタンスを取ることは不可能なつくりになっています。新型コロナ対応には向いていないというか、基本的に対応できないですよね」と、全体の問題を指摘する。

<「新型コロナ対応に変えよう」>

「それだったら、新型コロナに対応できるように変えていく必要がある。『新型コロナがあったから、日本の教育は短期間でこれだけ変わった』と言われるぐらいにしたいですね」と伊藤さんは語る。新潟市の学校の現状について、「各学校もホームページを活用し、『ドリルやプリントをダウンロードして、家庭でも学習しましょう』というレベルまで行っている所は多いが、『子どもたちが理解するには、ここが難しいから、こう学んだ方が良い』というポイントを動画で見せられると分かりやすくなります。そのため、市の総合教育センターが動画をつくって、深夜ですがテレビ放映もしました」と、新潟市教委の頑張りについて説明してくれた。

<「悪用を防ぐルールは?」>
写真=内野小学校の令和2年度「学校要覧」。ICT教育への移行後も子どもたちの笑顔が広がっていてほしい

インターネットには大きな可能性があると同時に、「放っておけば、子どもたちが何でも見てしまう」怖さもある。伊藤さんは「ネットをどう安心・安全に使っていくか、日本ではあまり考えてこなかった。アナログの時代には、映画館や図書に『18歳未満禁止』の決まりがあったじゃないですか。危険な情報や悪意ある誘い、闇サイトなどから子どもたちをどう守っていくか。学校はもとより、家庭も『ここからは入れないよ』という決まりをつくり、守らせることが必要です」と言う。「でも、子どものネット能力はすごいから…。ここはなかなか難しい。インターネットは道具でしかありません。ナイフは料理に欠かせない道具だが、悪用すれば凶器にもなる」とも語る。日本社会ではこれまで、インターネットを使うルールが不完全で、ICT教育を普及させるには学校や家庭での「決まり事」を明確化する作業もこれから欠かせない。

<「安心・安全」にも大きな課題>

内野小の中村芳郎校長もインターネットの危険性については神経を遣っている。学校のコンピュータールームを使いやすくし、子どもたちに開放した時にも「闇サイトにアクセスできないようにすることが最低の条件づくりだった」と振り返る。「これからすべての子どもたちにタブレットが配布され、家庭での学習でもタブレットを使うようになる。万が一、コロナで再び休校になった時、どの程度、家庭での学習をできるようにするのか?例えば、学校とのやり取りの通信費を誰が負担するのか?それらの議論もこれからになります」と中村校長。子どもたちの安心・安全を学校と家庭がどう役割分担して守っていくのか?これも大きな課題になることは間違いない。

写真=ICT教育について語る内野小の中村芳郎校長。内野小はいま、大規模改修中で、臨時の校長室で対応してくれた

<「国際交流など可能性広がる」>

オンライン教育の可能性について話を戻そう。新潟市は極東だけでもハバロフスクなどロシア3都市と姉妹都市で、中国ハルビンとは友好都市、韓国ウルサンとの交流実績もある。これまでも子ども同士の交流に実績のある都市だったが、交互訪問する児童は限られていた。新潟市の前田秀子教育長が今年6月市議会の答弁で、「海外の学校や遠隔地の専門家とオンラインでの交流を行うなど、授業の可能性が広がります」と述べていたように、新潟と地方、新潟と首都圏、さらに新潟と世界とをつなぐ可能性が無限に広がる。中村校長は「姉妹・友好都市が多い新潟市は、可能性が大きい。国際交流の切り口も、是非つけていきたい」と意欲を見せる。「時差がない地域の方が入りやすいかもしれませんが、『世界にはこれだけ時差があるんだ』、ということを子どもたちに実感させるのも良いですよね。いろんな分野で世界の専門家とも結びつけるわけだから、『こんな大人になりたい』というキャリア教育も無限に広がる」と夢を広げるのだった。

<青空記者の目>

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の学校教育に大きな影響を与えているが、一方では、国際的に後れを取ってきた日本のICT教育を一気に前進させる可能性も持っている。「ウィズ・コロナ時代への対応と、ポスト・コロナ時代の準備を待ったなしでやるのだから、その苦労は並大抵のものではない」と前述したが、それだけに当然のことながら学校側の準備は十分ではない。同時に、家庭側にもこの激しい変化は及んでいく。小学生にスマホを持たせるべきか、その時のルールは?―という方向性も定まっていない中で、子どもたち全員にタブレットが配布されるわけだから、混乱はない方がおかしい。インターネットには危ない世界もあり、悪意での誘導も仕掛けられる。国がICT教育の中で大きな方針と規制の方向を示し、その土台の上で学校サイドと家庭サイド双方から「子どもたちが安心安全にネットを使える環境」をつくりあげることも急務となっている。

 

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