*「実家の茶の間・紫竹」再開4*
―「私たちの居場所が戻ってきた」―
―他の「地域の茶の間」再開へのヒント―
2020年6月3日
<再開初日から20人以上が利用>
新潟市の地域包括ケア推進モデルハウス第1号、「実家の茶の間・紫竹」が6月1日に再開された。「20人ちょっとお見えになりました。特に午後から、懐かしい顔が帰ってきてくれて…。口コミもあってちょうど良いレベルの再開初日だったかしらね」。「実家の茶の間・紫竹」運営委員会代表の河田珪子さん(76)はちょっとほっとした様子で初日を振り返った。午後からは早速、新潟県庁の高齢福祉保健課の保健師さんも視察にきて、「実家の茶の間・紫竹」の再開の様子を実地に視察していった。新潟県内各地には2800か所を超す「地域の茶の間」があるが、その再開に向けても大きな参考となったのではないか。
<新しい過ごし方を確認>
当面は午前10時から正午までと。午後1時から3時までを利用時間とすることで「実家の茶の間・紫竹」は再開のスタートを切った。初日の1日午前、利用者はご近所に暮らし、当初から実家の茶の間の世話を焼いてくれている武田實さんら、ほぼ身内の感じだったが、午後からは再開を待ちわびた方々がやってきた。新しいルールというか、これからの実家の茶の間の過ごし方を確認する役割も果たしてくれた。全員が早速用意された非接触型の体温計で検温し、新しい参加表カードに連絡先などを記入した。みんなが憩う大広間の机の配置はこれで良いのか、社会的・身体的距離は取れているかも利用者を交えて確認した。再開初日はトラブルもなく、河田さんたちはこれまでの準備に自信を深めた。
写真=「実家の茶の間」が再開され、かつての日常が戻ってきた
<昼休みは消毒の時間>
再開2日目となる6月3日。当番さんから利用者への電話での連絡が進んだせいか、午前中から十数人が顔を見せ、「実家の茶の間・紫竹」は以前と同じ雰囲気に近づいてきた。河田さんは午前中の様子について「やっぱり正午でいったん閉めるのは良いみたいね。きょうは午前からいらっしゃった全員が、お昼で皆さん機嫌よくお帰りになりました。そうすると、昼休みがちょうど良い消毒の時間にできるのね。お当番さん3人がテーブルの裏まで、きれいに消毒してくれました。これで午後の方も安心してお迎えできます」と嬉しそうに語った。
<2日目から「社会的距離」を改善>
再開2日目から社会的・身体的距離を確保する改善策も進められていた。再開初日の机・テーブルの位置をもう一度確認し、よりお互いの距離がしっかりと保たれるように工夫もされていた。それが机・テーブルごとに貼られているシールだ。「このシールの場所に座っていただくようにしました。これだと距離が近くなりすぎるのを防げます」と当番さん。この日の午後はお年寄りの女性を中心に10人ちょっとが、ゆったりとした時間を楽しんでいた。「久しぶりでしたね。何をされていました」と河田さんが問い掛けると、「3カ月ぶりだろっか。嬉しいですて、ここがまた始まって」「これまで、しゃべる相手もいねかったわね。みんなの顔がまた見れて、良かった」とおばあちゃんたち。「オセロやビー玉ゲームなどは、対面になるので取りあえずできないことにしています。すみませんね、退屈じゃない?」と河田さんが聞くと、「いや、この感じがいいて」と応えていた。「みんなで安全・衛生に気を付けて、守り合っていきましょう。それが実家の茶の間を継続させることになりますからね」と河田さんは呼び掛けていた。
<持続可能にするには?>
河田さんと会計を担当する藤間優子さんは、どうすれば「実家の茶の間・紫竹」を持続可能にできるか、利用者の数と利用料について試算を重ねてきた。家賃と光熱水費は新潟市が負担するが、それ以外はこれまで一日300円の利用料などで賄ってきた。皆が楽しみにしていた昼食も食材の寄付などで栄養たっぷりのものを300円(子どもは共に無料)で提供してきた。これまで朝10時から午後4時まで何時間いても良かったのが、当面は午前・午後2時間ずつの制限となるため、利用料は200円とした。しかも今までのような大勢の利用は避けなければならない。運営にも大きく貢献していた全国からの視察も当面は受け入れられず、財政面ではかなり厳しくなっていくことは間違いない。
「藤間さんがいろいろと計算してくれて、一日20人の利用で何とかなる風に考えてくれたんです」と河田さん。藤間さんは「そうですね。20人でかつかつ。30人なら間違いなくやれます」と応じた。当番さんを大幅に減らし、当面は一人でやっていくことにしたそうだ。「当番さんにはこれまで交通費と実家の茶の間の利用料・昼食代をお出してやってもらっていたけれど、当分はお昼づくりもありませんから、一人で大丈夫じゃないかって。みんな常連さんが手伝ってくれるしね」と河田さん。
<失敗もすべて前向きに>
この日、実家の茶の間の精神的スタンスを表すような「事故」が起きた。「午前・午後の2部制でやり始めたことを紙に書いて、玄関に貼っておきましょうか」との河田さんの呼び掛けで、貼り紙書きが始まった。筆ペンを用意しているうち、なぜかインクがたれ、畳を汚してしまった。慌ててインクを拭き取ろうと共同作業が始まる。「あら、なんかインクの染みできれいになったわね。模様みたい。そのままでもいいんじゃない」と河田さんが口を出す。「そうかもね、畳のまんまより面白いかもね」と当番さんたちが応じながら、力を合わせて、手早く染みをきれいにしていく。「みんな前向きなのね、考え方が」と笑い合っているうちに作業は終了した。「実家の茶の間・紫竹」の人々は、トラブルも笑いのうちに乗り越える術を持ち合わせているようだ。
新型コロナ禍にも、同じような精神的姿勢で対処しているのだろうか。運営が苦しくなる中で、手作りマスクを持ってきてくれる人もいる。「みんなができることをやって、この実家の茶の間を守っていく。それが『住民主体』ということじゃないでしょうか。苦しいから、すぐに行政にお願いをするんじゃなくてね」。そう河田さんは語り、苦労を楽しんでいるようにさえ見えた。
写真=「実家の茶の間・紫竹」は様々な苦労を乗り越えて活動を続けている
<青空記者の目>
「住民主体」―その言葉の意味について、「実家の茶の間・紫竹」の再開に向けて主体的に動いていく河田珪子さんチームに教えられることが多かった。衛生面を中心に「安全」について最大限の配慮を払いながら、「どうすれば、茶の間の運営を持続可能にできるのか」について考え、実践を重ねていく。それは、常設型の「うちの実家」を税金を一銭ももらわずに10年間運営した実績と、そこで培ったノウハウに裏打ちされているようだ。新潟県内に2800カ所以上ある各地の「地域の茶の間」が再開していくために、河田さんチームの再開への実践が大きな手助けになりそうだ。
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