にいがた 「食と農の明日]14

まちづくり

 

 *にいがた 「食と農の明日」(14)*

<「フード&アグリテック」の今後・「青空記者」の中間まとめ>

 ―農業特区下での企業との協働が「土台」―

  ―「5分野」いずれにも実績、高い優位性―

<「世界の人口爆発に備える」>

「古泉育英財団」を主宰する古泉肇さんが、「この本に触発されて、新潟がもう一度『食と農』で日本や世界に貢献していくことを考え、実践する気になった。世界の人口爆発やSDGsへの対応など、これからの方向が明確に示されていた」と評価する本が「2030年のフード&アグリテック~農と食の未来を変える世界の先進ビジネス70」(同文館出版)だった。この本の著述を踏まえて、新潟と「フード&アグリテック」の今後を整理してみたい。「農業戦略特区」になった新潟市は、企業との協働や連携が進み、日本の中でも「フード&アグリテック」をけん引していく土台がある程度築かれていると思うからだ。

写真=「古泉育英財団」を主宰する古泉肇さんと、野村アグリプランニング&アドバイザリー編集の「フード&アグリテック」の本

この本では「フード&アグリテック」を5つの「セクター」に分類し、さらに「サブセクター」として9つの中項目を挙げている。それを以下に列記してみよう。①次世代ファーム(サブセクター2分野=植物工場、陸上先端養殖)②農業ロボット(サブセクター3分野=ドローン、収穫ロボット、ロボットトラクター)③生産プラットフォーム④流通プラットフォーム⑤アグリバイオ(サブセクター2分野=代替たんぱく、ゲノム編集)―となる。

<「農業特区」新潟市の到達点>

この「フード&アグリテック」の分野ごとに、「農業戦略特区」となった新潟市の実績・到達点を当て、表のような形で見ることにしよう。

◆新潟市の「農業戦略特区」の到達点

(フード&アグリテックの5分野・9中項目に当てて考える)

(1)次世代ファーム

①植物工場=西蒲区に以前から1㌶規模の植物工場や巨大ハウが存在。それに加えて「エンカレッジファーミング」が2㌶のトマト栽培工場を新設(JFEエンジニアリングがオランダ型先端技術を導入したもの)

=日揮の植物工場(露ハバロフスク)建設を新潟市が支援

②陸上・先端養殖=第4回食の新潟国際賞・佐野藤三郎賞に稚エビの培養で成果を挙げたマーシー・ニコル・ワイルダー氏表彰

=新潟市の「カサイ」が阿賀野市でトラウトサーモン養殖

(2)農業ロボット

①ドローン=この分野の第一人者、千葉大の野波健蔵・名誉教授の「自動制御シ

ステム研究所」と連携してNTTドコモとベジタリア(東大発のベンチャー企業)が稲の生産管理。ドコモとベジタリアは「エアロセンサス」と組んで新潟の松林をドローンで管理するプロジェクトを開始

②収穫ロボット=クボタグループの推進役・新潟クボタが安倍首相(当時)の前でデモンストレーション

③ロボットトラクター=G7、APEC農業大臣会合で新潟クボタなどがデモ

(3)生産プラットフォーム

①企業が特例農業法人=ローソン、セブン&アイ、新潟クボタ、JR東、ひらせいHCなどが実績

②ICT農業の展開=ベジタリアが新潟の「ウォーターセル」をグループ会社として農産物栽培管理技術をまとめた「アグリノート」を商品化

=ベジタリアがウォーターセルと共に水田センサで水管理

=新潟クボタ、井関農機新潟工場がICTコンバイン・トラクターを実用化

③畜産分野=新潟市では限定的(フジタファームの取り組み→農家レストラン)

④水産分野=限定的(「カサイ」が阿賀野市安田温泉やすらぎで陸上養殖)

(その他=農福連携の進化)

(4)流通プラットフォーム=ICTの活用度合は不透明

①直売所の進化=JA新潟市、JAみらいなどが相次いで参入、一部オンライン化

②新潟市の農業活性化センター・食品加工支援センターへのICT販路支援提案

③「ぐるなび」などとの連携

(5)アグリバイオ

①ゲノメディア(東大発のベンチャー企業)と電通が組んだ枝豆の食味改善プロジェクト

<中原市長がいち早く注目>

これらの事例を見れば、他地域と比べて新潟市の到達点は高く、優位性は明らかである。中原市長は新潟の「食と農」を伸ばす手段としていち早く「フード&アグリテック」に着目している。

新潟市は、国が「国家戦略特区」を募集した際、新潟経済同友会と共同で「農業特区」などの提案を行い、これが国から評価される一因となった。今回も「古泉育英財団」が「フード&アグリテック」も柱として「食と農」に関する研究拠点の設置と、この分野での若手研究者の研究助成を打ち出しており、官民一体となった取り組みが期待できる。これも新潟の優位性と言える。

<野村アグリの提案に注目>

さらに、「2020年のフード&アグリテック」の編者である「野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社」は今後、国の「産学融合創出事業」に「フード&アグリテック」を柱とする提案を準備中で、ここでも新潟との連携を想定している。「食と農」の分野で経済界と連携した取り組みが新年度以降、期待される。

【参考メモ】「フード&アグリテック」=前回ブログの繰り返しとなるが、「フード&アグリテック」とは、「フード」(食品)と「アグリ」(農業)に、ICTやAI、ロボットなどの「テクノロジー」(先端技術)を掛け合わせた造語。「スマート農業」が農作業分野のテクノロジー化を図るのに比べ、さらに食品・流通を含めた幅広い「食と農」分野に先端技術を導入し、より大きな効果・付加価値を取ろうというもの。

1900年代前半のエンジン式トラクターの開発・普及を「第一次農業革命」、1960年代の「品種改良」「化学肥料」「灌漑」の3つの農業技術の開発・普及を「第二次農業革命」(あるいは「緑の革命」)と呼ぶのに対応し、2020年代の「フード&アグリテック」開発・普及を「第三次農業革命」と位置付ける人もいる。この技術革新は、「世界の人口増加に対する食料供給」と「持続可能な農と食のエコシステムの構築」に資することが期待されている。

【参考:「新潟政令市」の「食と農のこれまでの歩み】

2005年=レスター・ブラウン氏を招き「食と花の世界フォーラム」プレ開催

2006年=「食と花の世界フォーラム」開催=「田園型政令市」を標榜

2007年=政令市樹立。フードメッセ本格開催。「佐野藤三郎記念・食の新潟国際賞」制定決定。「食と花の銘産品」事業開始

2008年=「頑張る農家支援事業」新設。映画「降りてゆく生き方」制作が決定し「奇跡のリンゴ」の木村秋則氏との縁深まる→自然栽培の普及へ

2009年=完全米飯給食実施。「地産地消推進の店」認定制度開始

2009年以降=自然栽培が新潟市で普及

2012年=「ニューフードバレー構想」作成。旧白根市の合併建設事業「国際農業研究センター整備」を、宿泊型教育ファーム「アグリパーク」「農業活性化研究センター」「食品加工支援センター」に変更して整備へ。鳥屋野潟南部に「食育花育センター」「こども創造センター」「動物ふれあいセンター」「食と花の交流センター」の複合施設「いくとぴあ食花」整備へ

2013年=新潟市農業活性化研究センター・食育花育センターなどが完成

2014年=アグリパーク・いくとぴあ食花がグランドオープン。「6次化大賞」実施。国家戦略特区の「大規模農業変革拠点」に指定

2015年=「農業戦略特区」の事業スタート、農業委員会と新たな役割分担

2016年=農業特区の2次事業開始、農家レストランなど開業。「ガストロノミー・ツーリズム構想」作成。レストランバスが全国初運行

2017年=「新潟の農業と今後の課題」を伊藤忠雄・新大名誉教授が提言。「くろさき茶豆」がGI取得(2017年)

2018年=「元気な農業応援事業」に制度改革。安倍首相がスマート農業視察

2020年=中原八一市長が「フード&アグリテック」の推進提唱

コメント

タイトルとURLをコピーしました