にいがた 「食と農の明日」18

まちづくり

*にいがた 「食と農の明日」(18)*

<ウィズコロナ時代 「アグリパーク」の今>

―「全国唯一」、公立教育ファームに誇り―

    ―宿泊は大幅減、就農相談増加に手応え―

<農業体験利用者ほぼ半減>

「わくわく、ドキドキ!農業体験!!」を謳う新潟市の教育ファーム「アグリパーク」(南区)。売りにしてきた「宿泊」と「体験」が新型コロナウイルスの影響をもろに受け、今年度の宿泊者は前年比3分の1にまで大幅に減少。農業体験の利用者もほぼ半減した。そんな中で、コロナ感染が大都市圏中心に拡大していることを反映してか、就農相談が増加。今後、「食と農」がさらに見直されて行くことに手応えも感じている。

写真左上=牛の餌やりをする子どもたち。右上=調理・食事体験、楽しそう。下=牛舎で整列する子どもたち(今年3月アグリパークで、新飯田保育園児)

<アグリパークの成り立ち>

「アグリパークの今」を報告する前に、この施設の成り立ちと概要について紹介しておこう。旧白根市エリア(東笠巻新田)に開設されたアグリパークは、白根市が新潟市と合併する際、「合併建設計画」に盛り込んだ「国際農業研究センター構想」が基盤となっている。この構想は、新潟市が大合併し「田園型政令市」を目指すシンボル事業として白根側が打ち出したものだが、具体性に欠け、青写真が見えてこなかった。一方で、政令市となった新潟市では市教委が教職員の人事権を持ち、県教委と連携しつつも独自のカラーを打ち出していった。その一つが「大地の力、農業の力を教育に活かす」ことだった。

<市教委と農水部が全面協力>

まず2009年、地元の美味しいおコメを子どもたちが味わい、地元農業に誇りを持ってもらおうと「完全米飯給食」を開始。11年には「いくとぴあ食花」の皮切り事業として「食育花育センター」が鳥屋野潟南部に建設された。合言葉は「すべての子どもたちに食育と農業体験を」に定まった。これを受けて翌12年、市教委は市農水部の全面協力を受けて「アグリ・スタディ・プログラム」(ASP)づくりに取り掛かる。子どもたちが農業を体験して、「あぁ、楽しかった」だけで終わることなく、教育的効果を明確にしたASPをつくり上げたことが新潟市の「食農教育」の大きな土台となった。新潟市はこのタイミングで「国際農業研究センター構想」を転換し、全国初となる宿泊型の公立教育ファーム「新潟市アグリパーク」建設を決めた。同時に「農業活性化研究」「食品加工支援」と2つのセンター整備も決まり、2013年に「農業活性化研究センター」、14年に「アグリパーク」と「食品加工支援センター」がオープンしたのだった。

写真=「新潟市アグリクパーク」の外観

<ケネディー駐日大使も訪問>

アグリパークには、①牛の搾乳体験や餌やりができる「動物ふれあい体験」②インストラクターと一緒に広い農園での「収穫体験」③「調理体験」の3体験と、コテージなどの「宿泊」、「直売所」「野菜工房レストラン」が併設された。6次産業化や就農支援機能も持つスーパー複合施設だ。同じ複合型施設の「いくとぴあ食花」と共に、愛宕商事やグリーン産業などが運営グループをつくって市から指定管理を受けているが、農業と教育を融合させているだけに、スタッフには教員OBやJAグループ出身者らも加わっている。国内では例のない施設で、コロナ感染前までは全国から視察が相次ぎ、16年には米国のケネディー駐日大使(当時)も訪れている。子どもたちの利用は年間約200校、1万人以上に達した。昨年度は直売所などを含め17万人近くがアグリパークを利用していた。

<宿泊は前年比の3分の1強に>

宿泊が本業のホテル業界でも危機的な状況が続いているが、アグリパークも宿泊は厳しい。桑原隆統括館長は「コロナの影響は本当に大きい。昨年4、5月は休園状態でしたし、宿泊は団体・グループが中心だっただけに激減です。昨年度の約4800人から1700人弱にまで落ち込んでしまった」と唇をかむ。教育ファームのメイン事業、農業体験も学校関係が前年度の9千人強から5千人弱と半分近くに落ち込み、一般の体験利用者は7千人強でこちらも40%ほど減った。

一方では畜舎見学者が増加し、「施設利用・イベント体験」部門は前年を上回り善戦していた。新たな活路を見出そうと畑の1区画をビオトープに替え、メダカを市内の22校に配布した。1月の「どんど焼き」が中止となった上、大雪の影響もあってマイナスに転じたが、手応えはある。さらに、今年は丑年とあって「丑年限定!牛づくし宿泊プラン」を1月から始めた。牛の搾乳・餌やり体験と濃厚牛乳が楽しめるパックで、親子・家族連れを意識して2人以上から受け付けている。来年度は子牛を入れる予定てさらに魅力アップを狙っている。桑原館長は「第2弾として、夏には朝採り野菜収穫パックを計画しています。コロナ禍の中では団体利用が難しいので、当面は人数を絞り、できるものを考えていく」と前を向く。

<効果アップへ、ICT教育を導入>

教育ファームでも新しい動きが出てきた。ASPの効果が浸透してきたせいか、今年度は新たに特別支援学校から申し込みがきた。片桐宏之・教育ファーム園長は、「農業体験や家畜とのふれあいは、感性に響く部分が大きいので、この分野はさらに伸ばせる。今回、初めて点字の礼状をもらいましたよ」と笑みを浮かべる。アグリパークに来られなくなった子どもたちへの工夫もした。昨年4月からASPの「土づくり編」と「田植え編」を動画にしてユーチューブ配信し、アグリパークや市教委のホームページからも見ることができるようにした。さらにコロナの感染拡大で市教委がICT教育「GIGAスクール構想」を前倒しする動きを捉え、Zoomを活用してASPを事前学習する方式を取り入れた。「ASPでは、事前に勉強してきた学校は充実度が増す。今回、Zoomで事前学習すると効果が上がることも分かった。オンライン会議での事前打ち合わせと合わせ、新たな方式ができました」と片桐園長は語る。

写真=アグリパークについて語る片桐宏之教育ファーム園長

アグリパークを率いる桑原館長はJAグループに長く勤務し、片桐園長は小学校長を務めた教員OBだ。食品加工支援センターには食品企業OBらもいて、混成チームの良さを発揮している。そのメンバーがそろって誇りにしていることがある。「アグリパークは、日本で最初の公立教育ファームである」ことだ。「地域の方が地域の農業に誇りを持つようになる―これをけん引するのが公立教育ファームです。このことは、私たちの誇りであり、やりがいです。アグリパークが6年目を迎え、農業新聞が取材にきてくれました。記者が言うには、『新潟のアグリパークは日本で最初であり、今も唯一の公立教育ファーム』とのことです。単なる体験だけでなく、教育成果を考えたASPがあることが公立教育ファームの最大の特長です。日本で唯一の施設で仕事ができるのは、やっぱり私たちの誇りですね」と片桐園長は言う。

<就農相談が1・5倍に>

その誇りを裏打ちしてくれているのが、就農相談の増加や関連シンポの盛況だ。「農業を新たにやりたい、との問い合わせや相談は年々増えています。今年度はコロナのせいか、相談がこれまでの1・5倍の150人近くに増え、これまで数件だった正式相談も12件にまで増えました」と成澤孝明・就農支援センター長。1月下旬には新潟で就農した3家族4人をパネリストに「新規就農者応援シンポジウムinアグリパーク」を開催。30人ほどが3時間半、熱心に参加した。成沢さんは「新潟市は、まちなかに近く生活の利便性が高い上に農地がある珍しい都市で、可能性は大きい。今回のパネリストのように実績を挙げる人も出てきた。今後は、本当に農業をやりたい人を見極める事前レクチャーなどに力を入れ、絞り込んでいきたい」と手応えを語っていた。

写真=「新規就農応援シンポ」の様子

<青空記者の目>

「宿泊もできる教育ファーム」として、農業体験の楽しさを伝えてきた新潟市アグリパーク。看板にしてきた「宿泊と体験」は、新型コロナ禍の影響を最も受けやすい分野だけに集客面のマイナス影響は大きい。しかし、運営担当者たちは「コロナ禍で『農のある生活』、『食の豊かさ』が見直されてもいる」と捉え、奮闘していた。「農業体験教育」と「Zoomによる事前学習」の組み合わせで効果を上げていることも興味深い。新潟で「農福連携」が広がりを見せている中、特別支援学校の子どもたちがアグリパークを体験する効果についても今後が楽しみだ。

新潟市が取り組んだ「教育ファーム」は、欧州の取り組みに学んだものだ。新潟市の姉妹都市であるナント市もそうだが、フランスでは地元の食や農業の素晴らしさを体験する「教育ファーム」が、公立・私立を問わず、各地に整備されていた。「自らのアイデンティティや文化の中心に、『食と農』を据えるのは当然」との基本的考えがあり、「その食と農の素晴らしさを、子どもたちに伝えることは当然であり重要」と位置づけて、食育や農業体験が教育の場に活かされていた。教育ファームは、欧州ではどこにでもある「標準装備」だ。新潟市では幸い、完全米飯給食や、「すべての子どもたちに農業体験」との教育実践が市民から支持されてきたが、日本全国での取り組みはまだまだ遅れている。「アグリパークが今も日本で唯一の公立教育ファーム」との農業新聞記者の言葉には寂しさも感じるが、「新潟がトップランナーとして走り続ける」との気概を持ち続け、運営担当者らには頑張ってほしい。

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