にいがた 「食と農の明日」15

まちづくり

*にいがた 「食と農の明日」(15)*

<ウィズコロナ時代 植物工場の今>

―「大雪にも負けず、順調です」―

―内野小児童の農業体験にも協力―

<内野小、多彩な学びに注力>

奥が霞んでしまうほど広い「植物工場」に、子どもたちの歓声が響いた。今月22日、新潟市西蒲区越前浜に立つ「エンカレッジファーミング(株)」の植物工場に、西区の内野小学校「さくら学級」の子どもたち14人がやってきた。引率する中村芳郎校長が「きょうは、みんなで農業体験をやると言って、出かけてきたよね。こんな大雪の中、どこで農業体験やるのか、心配だったかな。でも、ほら、こんなに大きな屋内の施設だから、雪の心配がなく作業ができます。よかったよね」と子どもたちに話しかける。

写真=「エンカレッジファーミング」の植物工場内。作業する人の姿が小さく見える

内野小学校は(以前このブログ「ウィズコロナ時代 いま学校は?」の9回目で紹介したが)、西区における特別支援教育の推進校で、LD(学習障害)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害に関する特別支援学級が10クラスある。これは新潟市で最大だ。西区における特別支援教育の拠点として「通級指導教室」も設置され、軽度の発達障害がある子は通常学級に通いながら、発達障害のプロである専門教員から指導を受けることもできる。中村校長は学校課題の一つに「特別支援教育の充実」を挙げ、「いろんな子がいて、いろんなスタイルがある。そのことをPTAや地域の方に広く理解してもらうようにしてきました。それが内野小の特長です」と語り、以前から多彩な学びに力を入れてきた。

<ミニトマトの仮定植を体験>

今回、「植物工場」での農業体験を企画したのも、子どもたちに多様な経験をしてもらう教育の一環だ。商社マンから「公募校長」に転身した中村さんは、動きが速く、人脈づくりにも積極的だ。今回の農業体験も、内野小からほど近い越前浜に2㌶規模の植物工場ができたのを知り、エンカレッジファーミングの近藤敏雄社長と付き合いを始めたことからスタートしている。植物工場では、12月にミニトマトのタネを土に蒔き、1月には育ったトマト苗をハウスに仮定植すると聞いて、さくら学級の子どもたちの農業体験を近藤社長にお願いし、実現した。この日は、子どもたちがミニトマトの仮定植を体験する日なのだ。

<新潟県内最大の植物工場>

作業の前に近藤社長から子どもたちに植物工場の説明があった。「皆さん、雪の中、寒い中をようこそ。ここは新潟県内で一番大きいハウスで、ミニトマトを育てています。ただ大きいだけではなく、設備も最新鋭です。コンピューターでトマトの生育を管理していることが一番の特長です。きょうは、どんな風にトマトが成長するか、体験しながら学んでいってくださいね」と近藤社長が説明するのを、子どもたちは熱心に聞いていた。

近藤社長の説明の通り、この植物工場は2㌶という規模にまず驚かされるが、更にすごいのはオランダ型の世界最先端の生育管理技術が導入されていることだ。この技術は、「重厚長大企業」の代名詞のような「JFEエンジニアリング」がオランダから輸入したもので、土を使わない養液栽培でミニトマトを通年栽培する。冬の曇天や夏場の高温などの自然条件を克服するよう日射量などに合わせてハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度などを自動制御し、ミニトマトに与える養液量などもコンピューターで管理する技術を備えている。JFEエンジは10年ほど前から農業分野への関心を深め、北海道・苫小牧市の東部工業団地にオランダ型植物工場の国内第一号を建設していた。新潟市とはごみ焼却場の仕事でつながりができ、農業特区になった新潟市にも導入を提案してきた。近藤社長が新潟市からその情報を聞いて関心を示し、農水省の「産地パワーアップ事業」の助成を受けて2017年9月に完工した。総事業費は11億円。エンカレッジでは同年末からミニトマト栽培を開始し、今季で4季目に入った。

<ミニトマト苗の仮定植に挑戦>

写真=「エンカレッジファーミング」の近藤敏雄社長(右)と息子さんの史章さん

近藤社長が子どもたちに話をした後、今度は近藤さんの息子さんで、まだ20代半ばと若い史章さんが「トマトの成長」について具体的に説明をした。「12月に蒔いたタネから育った苗が、ちょうど植えるタイミングになっています。きょうは、皆さんから、その苗を植えてもらいます。と言っても、土に植えるのではなく、ハウス内に設置されている棚の上にあるビニールの穴に植えてもらいます。それと一緒にドリッパーと呼ばれる黒い棒のようなものも2本差し込んでください。このドリッパーは、トマトさんに栄養を上げる大事なものです。トマトさんがご飯をきちんと食べられるよう、しっかりと差してやってくださいね」と史章さん。仮定植されたミニトマトは、2月になると1週間で30センチも伸び、やがて黄色い花を咲かせ、4月には実が赤くなり始めるそうだ。「6月には旬を迎え、大人の木になります。そうなったら、いっぱいトマトを収穫できますよ」。史章さんが説明を終えると、子どもたちからは「4月に赤くなったトマトも、もう食べられますか?」などと質問が飛んでいた。

<農作業、終えるたびに大拍手>

いよいよ、農業体験だ。子どもたちは興味津々の様子で巨大ハウスの中に。ハウスの大きさを実感してもらえるよう、作業の場所はハウスの中間に用意されていた。子どもたちは100メートル近く歩いて、ようやく作業場に。「雪がなくて、よかった」「この中で運動会ができるね」と子どもたち。作業の場には、先生役となるエンカレッジファーミングの従業員がお出迎え。もう一度、作業のやり方を詳しく聞いた後、5人ほどのグループごとに分かれて実体験。2本のドリッパーを丁寧に差し込んだ後、ビニールの穴に苗を植え込んでいた。お友達が植え終わる度に、みんなから盛大な拍手が沸き、作業を終えた子どもは恥ずかしがりながらも嬉しそうな笑顔を浮かべていた。子どもたちの農業体験には、先生だけでなくPTAの関係者も参加。さくら学級への理解を深めていた。

写真(左)=ミニトマトの仮定植体験をする子どもたち。写真(右)=農業体験を終えて従業員さんと拍手

<目標の年産400トンに迫る>

子どもたちが歓声を挙げている脇で、4年目に入った植物工場の様子を近藤社長に聞いた。実はこの植物工場、稼働して間もなくから試練にさらされていた。2018年1月から、海に近い越前浜も大雪に見舞われ、ハウスが持つか心配された。「2月まで大変な大雪。それが終わったら、夏は猛暑でしょ。トマトがどうなることかと冷や冷やしました」と近藤社長は振り返る。ミニトマトの年間収穫量は「軌道に乗れば400トンはいける」と計算していたが、初年度の収穫は230トンにとどまった。「でも、その大変な1年を乗り切ったことで、色々な経験ができ、自信がつきました。2年目からは黒字になっていますし、この1月も大雪ですが、大丈夫です」と近藤社長。

3年目にミニトマトの収穫量は380トンとなり、当初目標の400トンが視野に入ってきた。ここのミニトマトは地元の大手スーパーに出荷すると共に、全農などを通して全国に販売されている。新型コロナウイルスの影響について尋ねると、「昨年は巣ごもり需要が好調で、お得意先のスーパーから『もっとほしい。もっと出してくれ』と言われ、供給が追い付かない時期もありました」と近藤社長。視察の要望も多く寄せられ、コロナ禍が落ち着けば、観光客を呼び寄せる核にもなる。「今回は、こういう形で子どもたちに来てもらった。いま、新潟でも農業と福祉を結び付ける『農福連携』が盛んになってきているし、子どもたちのお役に立つことは従業員の励みにもなる」と近藤社長は前向きに語っていた。

<青空記者の目>

ブログの取材で昨夏、内野小学校に足を運んだ時、中村校長から「さくら学級の子どもたちに農業体験をさせたい」との話を伺った。「場所はエンカレッジファーミングの植物工場を考えている」と聞いて、「日程が決まったら、ぜひ教えてほしい」とお願いした。県内最大の植物工場には、記者も思い入れがあったからだ。オランダ型の栽培技術を導入したJFEエンジニアリングの岸本純幸社長(当時)から、「農業特区になった新潟市にふさわしい植物工場がある」と言われ、6年ほど前、北海道出張の折に苫小牧の同社グループ植物工場を視察した。そのスケールと最新鋭技術に触れ、「まさに未来型農業のモデル。農業特区となる新潟市に、こんな施設があったら素晴らしい」と感じた。そこは大型観光バスが寄る定番ルートにもなっており、苫小牧の「食と農」をイメージアップする役割も果たしていた、

「新潟市の海岸部がこんなに雪が少ないことを知っていたら、うちの会社の植物工場第一号を新潟につくりましたよ。いくらでもアドバイスしますから、新潟に是非つくってください」と岸本さんに熱心に勧められたのを思い出す。その動きをしっかりと受け止めてくれたのが近藤敏雄社長だった。この植物工場を訪れたのは1年半ぶりだったろうか。この冬、越前浜も大雪に見舞われたが、2018年のドカ雪にも耐えていたので、施設被害の心配はしていなかった。案の定、近藤さんは「最初の年の、あの大雪にも耐えたので、この冬も大丈夫です。雪と日照時間の関係で『新潟で植物工場は難しい』というイメージが強いが、そんなことはありません。新潟でやれることを実証します」と力強く語っていた。

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