*実家の茶の間 新たな出発(10)*
<コロナ感染拡大 再度の活動休止②>
―「お休みでも、できるだけのことをやろう」―
―様々な相談事に「これも良い体験ね」―
新潟市の「実家の茶の間・紫竹」は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて18日(水)から9月上旬まで「お休み」することとなった。しかし、運営日の月曜・水曜は運営委員会代表の河田珪子さんをはじめ、お当番さんが茶の間に詰め、「お休み」を知らずに茶の間を訪れる方へ応対し、電話などでの相談事にも当たることにした。「お休み中」の看板は掛けても、できるだけ茶の間の機能を活かし、お年寄りら参加者のニーズに応えようとしているのだ。どんな雰囲気になっているのだろうか、お休み初日の18日昼過ぎ、実家の茶の間を訪ねてみた。
<みんなの表情には余裕が―>
写真=「お休み初日」となった18日の実家の茶の間。「お休み」でも、お当番さんたちがそれぞれの役割を果たしていた。
実家の茶の間の玄関に入ると、いつも通りお当番さんが出迎えてくれた。検温の後、名前・連絡先などを書き、利用料を払おうとすると、いつもの300円から100円に「値下げ」されていた。中に入ると河田さんらが笑顔で迎えてくれた。この日のお当番さんのほか、実家の茶の間の運営を支えているメンバー数人も顔をそろえている。昨年(2020年)2月末からの「活動休止」の時は、「これから、茶の間はどうなるんだろう?」との緊張感があったが、今回はみんなの表情に余裕がある。
朝のミーティングでは「茶の間がお休みになったのを知らずにいらっしゃった方は、中に入ってお茶を飲んでいってもらう」ことや、茶の間にいてもらう時間は「とりあえず30分程度としていましたが、いらっしゃった方のご都合もあるので柔軟に対応する」ことなどを確認したそうだ。案の定、午前中には「お休み」を知らずに訪れる方がいらっしゃった。特に久しぶりに顔を出した外国人の親子連れは、お弁当も持参されていたので、「黙食」を徹底の上、お昼も食べていただいた。
<「助け合い」に十分な配慮>
河田さんは言う。「前回、活動を休止した時はコロナの正体もまったく分からず、先が見えませんでした。悩みながら、『道なき道を行く』みたいな感じでね。でも、みんなの力で歩みを続けることができました。それに比べると、今回はみんな心の準備ができているというか、柔軟に対応できます」と笑みを浮かべて語った。午前中には、実家の茶の間を媒介にした「助け合い」を担う地域のサポーターたちも何人か顔を出したそうだ。
実家の茶の間がいったんお休みになっても「助け合い活動」は続けられるよう、河田さんたちはいくつかの準備をしていた。一つは、茶の間に来ることができなくとも買い物などの手助けができるような配慮だ。これまでは、実家の茶の間で顔を合わせる者同士で買い物や通院などを助け合ってきたが、しばらくは茶の間に来られない人も出てくるし、コロナの広がりで逆に手助けが必要になるケースも考えられる。そこで河田さんたちはお年寄りたちに、「心配な方は、自分の家の場所を住宅地図でマークしておきますか」と呼び掛けておいたのだ。何人もがこれに応じ、マーク済みの住宅地図はお当番さんが管理することにした。「こうしておけば、安心できる方が何人もいらっしゃる。買い物支援の依頼が来た時に備えて、建替えるおカネも準備してくれましたよね」と、河田さんは会計担当の藤間優子さんに声を掛けた。藤間さんは「はい。ン万円を準備してあります。お休みの期間、参加料が100円になっても十分茶の間を運営できる備えもあります」と藤間さんは答える。いつも頼もしい存在だ。
<利用回数チケットが80枚も>
写真=「実家の茶の間・紫竹」の利用回数チケット。「実家の手」として、助け合いにも使われる、その通し番号は「84」となっている
さらにもう一つ、茶の間が休止中でも「助け合い」が継続できるよう、「ワンコイン替わり」に使われている茶の間の利用回数チケット(6枚で1500円)も回収しないことにした。チケットはお昼が復活した7月初めから再発行したものだが、1カ月半で80枚以上も購入されていた。これも回数チケットが茶の間の利用時だけでなく、「実家の手」としてさまざまな助け合いを気兼ねなく頼めるよう活用されている「証拠」のように思われるのだ。河田さんたちは、実家の茶の間が「お休み中」でもチケットを媒介にした助け合いを続けることで、「地域での助け合い」の重要性を多くの人に気がついてほしいと思っている。来月に入ったら、「助け合い」の支え役の一人、サポーターの武田實さんらに、茶の間が「お休み中」の助け合い状況についてお尋ねする必要があるようだ。
<それぞれの役割を遂行>
実家の茶の間は「お休み中」を掲げていても、お当番さんたちはそれぞれの役割を果たしていた。きれいな字を書く高見久美子さんは、「密」を避けるため「ここは2人用」などとテーブルに置かれた「誘導案内」が汚れてきたので、その書き換えに余念がない。「お休み中」に少しでも茶の間の環境をよくしておこうとの気遣いだ。地域のことを担当している片山ミキエさんは、各種情報を張り出してある「案内板」を見ながら、「日曜日にここで予定されている地域の集会は、そのまま実施で良いですね」と確認を取っていた。実家の茶の間は、運営日以外は地域の集会などに使われることも多く、その窓口は片山さんが担っているのだ。
写真=実家の茶の間の案内掲示板。「お休み」でも、予定が追加されていた
長島美智子さんや渡部明美さんは、茶の間の常連さんや協力者に「18日から当分の間、お休み」の電話連絡を続けている。「こういう機会にご連絡を差し上げると、喜んでもらったり、逆に色んな情報をいただけたりしますから」と長島さんらは言う。「ここへいらっしゃるのが生きがい、張り合いと言ってくれる方もいるので、そういう方には『散歩がてら、お茶飲みにお出でください』とお伝えしています。お休みと言っても『閉鎖』ではありません。みんな、ここに詰めているんですから」と河田さんも笑顔で語った。
<増えている茶の間への訪問依頼>
写真=実家の茶の間で電話に出る河田珪子さん。さまざまな問い合わせやお願いが届いていた
電話掛けの様子をしばし見守っていると、逆にかなりの電話が掛かってくることにも気づいた。その多くが実家の茶の間への訪問依頼だ。「18日からお休みなんですよ、と言っても、『その方がゆっくりお話を聞けるからいい』と言う方もいらっしゃる」そうだ。案内板に貼り出される茶の間の「訪問」や「利用」情報は、お休みになっても逆に増えている。まさに実家の茶の間は「閉鎖」ではなく、お休み中も「機能は生きている」のだった。
<青空記者の目>
新型コロナの感染拡大が新潟でも止まらない以上、実家の茶の間が「お休み」を打ち出したことはやむを得ない。ただ、よく耳にする「不要不急のものは取り止めを」とのフレーズに重ね合わせると、少なからぬ違和感も覚える。実家の茶の間が「介護予防」や「生活支援」の拠点になっていることを考える時、茶の間を誰が「不要不急」の存在と呼べるのだろうか。おそらく、この「違和感」は青空記者などより、河田さんたちが強く感じていることだろう。それでも、「茶の間を利用される方やご家族、すべての方を大事にしたい」との思いで、実家の茶の間は「いったんお休み」の方向を打ち出した。
そして「お休み」は閉鎖ではなく、「できる限りの機能・役割の継続」でもある。「これからもコロナの収束までは何回か波がある。今回は良い経験と思いたい」と実家の茶の間チームは相変わらず前を向いている。
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