実家の茶の間 新たな出発31

地域の茶の間

*実家の茶の間 新たな出発(31)*

2022年6月18日

<利用者アンケートから浮かぶ「茶の間像」>

―「かけがえのない場」「ずっとあったらいいな」―

―「助け合いの拠点としても重要」―

<28人にアンケート>

写真=利用者にとって「かけがえのない場」になっている「実家の茶の間・紫竹」

「実家の茶の間・紫竹」の日常を2020年春から断続的にリポートしてきた。このブログシリーズをいったん終えるに当たり、茶の間の利用者の方にアンケートをお願いした。利用者の方にとって「実家の茶の間・紫竹とはどんな存在なのか」を改めてお伺いし、「実家の茶の間」が今後どんな姿になっていけばよいのかを考える手掛かりにしてみたいと思ったからだ。5月半ばから6月初めまで20人の方に聞き取りをし、お当番さんたちにはアンケート用紙を配布して8人から応じていただいた。アンケートからは実家の茶の間が利用者の方にとって「かけがえのない場」であり、「ずっとこの活動が続いてほしい」との気持ちが強いことが鮮明に浮かんできた。

<「連れ合い亡くした」方が多数利用>

新型コロナウイルスの感染拡大で、お年を召した方たちの行く場が限定される中で、「実家の茶の間・紫竹」は利用者にとって「何物にも代えがたい貴重な場」になっていた。特に配偶者を亡くされた方にとっては切実感が強い。聞き取りをした60歳代以上の方17人のうち13人が「連れ合いを亡くした」境遇にあり、「一人暮らし」と言われた方は10人に上った。その方たちは「やっぱり人間はしゃべらないとダメ。だから実家の茶の間は超重要な場」「ボケ防止にもなる、なくてはならない場所」「実家の茶の間がない暮らしは考えられない」などと話され、「実家の茶の間」がこの方たちにとって「かけがえのない場」になっていることが確認された。

<「貴重な学びの場」の声も>

写真=オミクロン株の感染もようやく峠を越え、5月末からは研修に訪れる方の姿も見られるようになった。この日は弥彦村から2人が河田さん(中央)の話に耳を傾けていた

一方で若い方や福祉関係者からは「実家の茶の間は勉強の場」とか、「多世代の方の話を聞ける貴重な学びの機会」などの声も聞かれた。今回話を聞いた、福祉職を目指す2人の若者にとって実家の茶の間はまさに「勉強の場」だそうだ。「おばあちゃんたちの話を聞くと、とてもためになるし、疲れた時は気分転換にもなる」「勉強だけでなく、息抜きの場でもあります」と語っていた。また、お当番さんチームでは8人中3人が「勉強・学びの場」と答え、「生きがい」「自己実現」と答えた方も3人いた。「(実家の茶の間運営員会代表の)河田珪子さんをはじめ、お当番さんと会える場」「大好きな場」との答えもあった。

<6人が「助け合いに参加」>

また、実家の茶の間は「助け合いの場」にもなっている。20人中6人が「助けられたり、助けたりの輪に入っている」と答えた。その中には「何軒かの一人暮らしの方のお宅で、掃除や古紙などの片づけ、買い物などをお手伝いしています。ただ、遠い方から頼まれるとワンコイン(500円)の上に往復のバス代(420円)を頂戴するので申し訳なくてねえ…。やっぱり、近所同士で助け合いができるといいわね」(70代女性)や、「訪問介護センターに以前勤めていて、今もヘルプをお願いされます。家事や病院への付き添いなどですね」(60代女性)などと話してくれた。また、「ボランティアに来ているつもりだったけど、実はこっちが元気をもらっていました。私がボランティアされているんだ、と気づきました」と語る方もいた。助け合いに今は参加していない人の中でも「将来は助け合いをやっていきたい」「実家の茶の間の素晴らしいところの1つは、助け合いの拠点になっていること」などの声があった。

聞き取りでは多くの利用者から率直なお話が聞けたと思う。その概要については匿名の形にして河田チームにお届けした。以下、聞き取りメモの中から何人かのものを紹介したい。「実家の茶の間とはどんな存在なのか」をみんなで考えることで、今回のシリーズの締めくくりとしたい。

<利用者の方たちの思い>

・90代女性=27年前に主人を亡くして、自宅に一人です。70代から脳梗塞で3回倒れたけど、リハビリで回復しました。ここはできて2年目から来るようになりました。85歳を過ぎると足腰が弱り、転ぶのが心配。今は月曜日にデイサービス行って作業療法士さんの指導で体を動かし、水曜日には毎回ここに来て、ボケないように人と話をし、頭の回転をよくするよう心掛けています。家が近所でも杖ついて来るのがやっとなんだけど、ここは大切な場所です。お陰で、身の回りのことは今もみんな自分でやっています。

・80代女性=コロナの時代だから、あちこち行ったり、人さまの家に上がったりできなくなった。でも、家にいるとベッドで寝てばっかり。嫁さんから「寝てばっかりじゃダメでしょう」と言われる。こういう時代だからこそ、ここは貴重な場だし、安心の場。近くの方とも、遠くの方とも会えるしね。ここがずっとあったらいいな―いつも、そう思っています。

・80代女性=主人が去年の3月に亡くなって寂しくしていたら、孫の大学生がインターネットでここを調べてくれた。自分でも2、3回来てみて河田さんにも会って「ここがいい」と勧めてくれた。ここは河田さんらが「ほめ上手」で、お茶くみでも何でも自分ができることをやると、「ありがとう」を連発してくれるから、こちらもやる気が出る。サポーターの80代の男性も助け合いを頑張ってくれるし、チームワークもすごくいい。だから私もたまにお当番しています。あと、私は花が好きで家も花だらけにしているので、その花をここに代わりばんこに持ってきています。みんなが「きれいだ」と喜んでくれると、私も嬉しくなる。日本では、どうしても男性が先に逝くケースが多いから、私のような一人暮らしの者にとって、ここは「なくちゃならない場所」ですね。仮に河田さんが「もうできない」と言っても、みんなでずっと残していきたい。そんな場所ですね。

・80代男性=耳が遠くなった上、コロナが広がって、ほかの居場所に顔を出しにくくなったが、ここは特別。衛生面に気を付けてくれているし、みんなが受け入れてくれるので、気兼ねなく居ることができる。ここでダベッたり、お昼食べたりして、生活に変化がつけられる。ここに来て変化を楽しむというか、生活のリズムになっています。

・80代女性=河田さんたちがやっていた「うちの実家」では10年間、食事当番をやっていました。50代で主人を亡くし一人暮らしをしてきましたが、私は河田さんという良い人と出会ったと思っています。ここは大事な場。みんな「来れる間は来たい」と言っています。ずっと続いてほしい場ですが、河田さんは「うちの実家のように、10年で区切り」と言っていますが…。

・70代女性=去年、夫に先立たれて一人暮らしになった。体は悪いところのオンパレードで、家ではすぐ横になってしまう。だから、ここでの交流が大事なの。近所の茶の間にはあまり行かないが、ここは他所とは雰囲気が違う。気の置けない所というか、気をつかわないですむ場所ですね。ここでは助け合いもやっています。私は「まごころヘルプ」の提供会員だったので、割と自然に助け合いに参加できる。頼んだり、頼まれたり、ですね。来られる間はここに寄せてもらいたいし、ずっと続けてほしい場ですね

・70代女性=旦那が8年ほど前に亡くなって、一人暮らしになってあまりしゃべらなくなったら、声が出なくなったの。近所の人が心配して、ここを調べてくれて一緒にくるようになりました。そして、おしゃべりしていたら声の方も大丈夫になった。やっぱり人はしゃべらないとダメなんですね。あのまま家にいたらボケがひどくなったと思う。今はコロナで行くとこも限られていますが、ここは誰でも入れるし、ありがたいとこですよ。一人暮らしの人間には欠かせない場所ね。ずーっと続いてほしい―当たり前だけど、そう思っています。

・70代女性=8年前、近所に何かできたから様子を見に来たら、河田さんに「どうぞ入ってみてください」と言われ、中に入ってみました。「茶の間」と言われても何のことか分からなかったけど、今は毎回来ています。コロナの前は「いたかね」と人の家に入っていけたけど、今はそうはいかないし、遠くの友達にも会えない。ここなら、ルールさえ守っていれば言いたいことを言いたい放題言えるでしょ。自分の家ではそういう訳にはいかない。4年前に病気して動けなくなったら、ここの有難みがよく分かった。ここは、大事な場所なんですよ。

・60代女性=ここには最初から来ていたんですけど、3年前に夫を亡くしてから月1回は必ず来るようになりました。家は一人で、話せる相手がいない。ここは皆さんが守秘義務をしっかりと守っているから、安心しておしゃべりができる。違う世代と話せるし、いろんな経験談を聞けて勉強できるうえに、ゆっくりしていられる。心が安らぐ場所ですね。コロナになってからはご無沙汰していたけれど、先月来て復活しました。やっぱり、みんながしっかりルールを守っているから、安心して通える場所だなー改めて、そう感じています。

・20代男性=社会福祉士に挑戦するつもりで勉強している大学4年生です。実習でここを知り、2、3か月に1回きています。ここで助け合いの話を聞いて、将来は生活支援コーディネーターになって、助け合いにかかわりたいと思うようになりました。ここで、おばあちゃんたちの話を聞くと、とてもためになるし、勉強で疲れた時とかは気分転換にもなります。勉強と息抜きの場です。

<青空記者の目>

「実家の茶の間・紫竹」が2022年春先、オミクロン株の感染拡大により「静かな危機」に見舞われていた頃、記者ももどかしい思いを抱えていた。今年から平日出勤の職場に復帰したこともあって以前のように実家の茶の間に顔を出せなくなり、ブログ「実家の茶の間 新たな出発」シリーズもいったん着地する必要があった。「どう着地していこうか」と考えているうちに一つのアイデアが浮かんだ。「今はオミクロン株の感染で実家の茶の間本来の活動ができにくい面はあるが、地域包括ケアが求める『地域共生社会』に最も近い位置に実家の茶の間があることは間違いない。利用者にとって『実家の茶の間・紫竹とはどんな存在なのか』を改めて聞いてみることで『着地』とするのはどうだろう」との考えだった。実家の茶の間運営委員会代表の河田珪子さんに利用者アンケートについて相談すると、「私も利用者の方がどう思われているのか、きちんと聞いてみたい」と話してくれた。

これに意を強くして、5月の半ばから6月初めまで20人の方に聞き取りをし、お当番さんたちにはアンケート用紙を配布して8人から応じていただいた。アンケートの概要は紹介した通りだが、実家の茶の間が特に一人暮らしの女性たちにとって何にも代えがたい「大切な場」であり、「欠かせない場」であることが確認できた。

2020年春から新型コロナウイルスの感染に苦しみながら活動を続ける「実家の茶の間・紫竹」にお伺いし、茶の間のことについて断続的にリポートさせていただいた。今回でこのブログシリーズはいったん終えることにするが、年内には本としてまとめ、「記録」を残していきたい。

ご愛読、ありがとうございました

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