*実家の茶の間 新たな出発(15)*
<「活動7周年」 歩みを振り返る節目②>
―ご近所の支援 みんなでリストアップ―
―「今後へつなごう」 モットーも整理―
<コロナにブレーキ、準備に拍車>
9月後半に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大に目に見えてブレーキが掛かり始めた。「実家の茶の間・紫竹」では、これにも勢いを得たのか、「活動7周年」の記念展への準備に拍車が掛かってきた。メインとなる「写真展」に飾られる写真が集まってきた。テーマごとに分類する作業には、お当番さんだけでなく茶の間の参加者も活躍する。「まずは、時系列で並べるコーナーがいりますよね」、「実家の茶の間を開設する準備段階の写真はどのくらいありますか?2014年の8月から10月までのものですね」、「毎回の周年事業の写真は、市役所から出してもらったらどうでしょう」、「プロの広報の方が撮っていてくれたからね」―などと、話に花を咲かせながら作業が進む。もっとも、すべてマスク越しの会話にはなるのだが……。
写真(左)=実家の茶の間では、お当番も利用者も一緒になって「7周年展」の準備が進む。日程も10月18日から20日までの3日間に決まり、白板に書き出された(右)
<地域からの利用もテーマに>
9月末になると、さらにテーマ分類が進んできた。「参加者の皆さんがどのように茶の間で過ごしていらっしゃるか、分かりやすく構成しましょう」、「日常の様子をさりげなくね」と、茶の間のゆったりとした雰囲気を伝えるコーナーの中身が次第に決まっていく。すると、「実家の茶の間はお年寄りだけでなく、子どもたちが来てくれるところが魅力。それを集めましょう」、「子どもたちと言っても、みたけこども園と江南小、沼垂小が来てくれているし、折り鶴の関係で松浜中との縁も紹介したいね」と続く。「江南小学校は4年生がお昼カレー、2年生は『まち探検』で立ち寄ってくれていました」「みたけこども園は交流会が楽しい」などの情報も集まった。さらに実家の茶の間を視察・研修・研究で訪れる方たちの姿や、参加者に好評な保健師・作業療法士さんの相談・指導風景もそれぞれ1つの展示テーマにしていくことが確認された。
そして大事な要素が一つ。運営委員会代表の河田珪子さんは、それを「地域の方からの利用」と言う。実家の茶の間は、運営日以外の日にも地域の方から色々と利用されている。これも片山さんを中心にまとめると、「自治会・老人クラブ・農家組合の会議・会合」「踊りの会・お嫁さんの会・子ども会などのお楽しみ会・食事会」「防災訓練」などに活用されていた。「これは、それぞれの会から撮りおきの写真を提供してもらいましょう」と、河田チームは方向を決めた。
<ご近所さんとの「関係図」を>
さらに記念展には、先日の話し合いから重要な要素が加わっていた。それは「ご近所の力」だった。さまざまな場面で実家の茶の間の運営を下支えしてくれている「ご近所さんの支援」―その中には、「茶の間に入って、お茶一杯飲んでいったことのない方もいらっしゃる」(河田さん)のだ。従って、その方たちの支援は写真に残ってもいないが、実家の茶の間はそんな身近な方たちから支えられて丸7年を迎えることができたのだ。
写真に写っていないものをどう表現するか?お当番さんたちは意見を出し合い、実際にこれまでいただいた支援をリストアップすることにした。幸い、お向かいの家の片山ミキエさんはお当番さんチームの中心人物の一人で、地域の自治会や老人クラブ・学校などとの関係づくりの窓口となっている。「地域との関係図」をまとめる情報はたっぷりあるし、地域のサポーターたちも協力してくれるだろう。お当番チームは「地域からのご支援」を書き出す作業に取り掛かり、参加者の皆さんも協力した。
写真=みんなで「ご近所からの具体的支援」をメモにして貼り出し(右)、それを基に「関係図」の原案をつくった(左)。実家の茶の間が多様な関係を構築していることが一目で理解できる
<多彩な支援を貼り出してみた>
ご近所からいただいてきたご支援の情報は、あっという間に集まった。それぞれがメモしたものをワークショップ形式で貼り出すと、「木の剪定、花の水やり、ごみ捨て、お茶出し」「足の不自由な人への買い物の手助け」「買い物への車運転」「自家製野菜の提供・販売」「バザーへの手づくりバッグ・衣服の寄付」「バザーの品提供(食器・衣類)」「茶の間に掛ける時計の寄付」「企業からのエアコン・ガスストーブ・冷蔵庫・ガス台の寄付」「ビデオ作成、写真提供」「定期的な寄付金」「花苗の寄付、花植えの協力」「外周りの草取り・清掃」「駐車スペースの無料提供」「雪のけ」「昼食に使う自家製味噌の仕込み」「トイレットペーパーの提供」―などが挙がってきた。中には「自分のアパートの駐車場を、『昼間いない時は、使っていいです』と、わざわざ車を止めて言ってくれた」「オープン当時は、ご近所に気がねして小声でおしゃべりしていた感じが、年月を重ねてなごやかになった」―などの情景・感想を交えて書いてくれた方もいた。
みんなでまとめた「ご近所からの支援リスト」を見て、お当番さんたちはいかに多くの方から広範な支援を受けてきたかに改めて気づいた。河田さんは「これまでの実家の茶の間がいただいてきたすべてのつながりは、地域の方の長年積み重ねられた『関係性』の基で成り立っているんですね。地域が築いてこられたものを分けていただいて、茶の間の今があると思うんです。以前にやっていた『うちの実家』でもそうでした」と語った。
<「振り返るだけで良いのか」>
写真展をメインにした7周年展の準備が進むと、また新たな疑問が出てきた。それは「振り返るだけで良いのか?」ということだった。河田さんは「7周年写真展と言うと、どんなイメージが湧きますか?」と、お当番さんたちに聞いて回った。ほとんどの人から「7年間を写真で振り返る、ってことでしょう」「写真展と言えば、回顧のイメージですよね」との言葉が返ってきた。そこで、河田さんは「振り返るだけの7周年でいいんでしょうかね?」と、二の矢を放った。「何を、どんな気持ちでやってきたのか?活動の基本と言うか、精神の確認も必要ですね」「茶の間に掲示している標語・モットーも記念展の中に入れ、みんなに見てもらった方がいいんでは…」などの意見がお当番さんからも出てきた。
写真=「実家の茶の間・紫竹」が大切にしてきたモットー・精神を7周年展に向けて改めてまとめ(左)、それを台紙に貼っていく作業も始まった。河田さんが地域のサポーターと意見交換しながら作業を進めている(右)
「それなら、実家の茶の間が大切にしているフレーズなどをまとめて、一つのコーナーにしていきましょう」との方向が新たにまとまり、その準備も始まった。「実家の茶の間7周年」には、まだまだ新たな要素が加わるようだ。
<青空記者の目>
「写真には映っていらっしゃらない方たち―ご近所の方からいただいたご支援をどう取り上げましょうか?」との河田珪子さんからのさりげない問題提起は、なかなかに意味深いものがあると感じた。河田さんに改め て「ご近所さん」にスポットを当てる意義について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。「実家の茶の間は『住民主体』を目指して活動してきました。住民主体を広げ、面にしていく上で、ご近所との関係が一番の肝というか、大切な土台ですよね。地味で小さなことの積み重ね。でも、本当に深いもの。ここは、あまりにも日常になりすぎて、これまで講演でも話してこなかったたし、本にも書かれてなかった。この大切な部分に触れてこなかったことに、7周年のお陰で今回気づきました」
7周年事業は、これまでやってきた周年事業とはまったく違う形にならざるをえない。コロナの感染拡大の「お陰」で、今まで見落とされてきた「ご近所の大切さ・ありがたさ」を見える化し、そこに光が当たる「7年間の総括」になるのかもしれない。また、「単なる振り返りでいいんでしょうか?」との提起にも重いものがある。「単なる回顧から、活動の原点の確認へ」と記念展の意義を深めようとしている河田チーム。コロナ禍の中の「7周年展」からは、実家の茶の間の「次の展開を考えるステップ」にもつながっていきそうな気配が漂ってきた。
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