助け合いの歩み「第5章」

新潟の助け合い

*新潟の助け合いの歩み6*
―河田珪子さんの目指す
「歩いて15分以内の助け合い」―

第5章 助け合いチケット「実家の手」

◆ちょっとした困りごと
信頼できる者同士で解決◆
<「実家の手」で助かっています>

「地域での助け合い」は、まずモデルハウスの利用者同士で始まっていた。「それを取り持つチケットがこれなんです」と河田さんは「実家の茶の間・紫竹」の「参加回数券」と書かれた一枚のシートを持ってきた。そこには「参加回数券」と並んで、「実家の手~ちょっとした手助けのお礼に使用」との文字が書かれている。

写真=ちょっとした手助けを仲介する「実家の手」
6枚綴りで1500円。茶の間の参加費が一回300円だから、回数券は一回分お得になっている。その回数券が「ちょっとした手助けのお礼」にも使えるシステムだそうだ。このチケットを使って、茶の間の利用者同士がお互いの「ちょっとした困りごと」を気兼ねなく助け合い、より安心な暮らしを築いているのだという。有料チケットの発行は、モデルハウス開設の2年後となる2016年秋。参加者同士の気心が知れてきた時期だった。開所2周年の時に「場」の様子観察をした結果、参加券に「助け合い」を加えることにした。

<困りごとを「見える化」>

実は、河田さんたちは「うちの実家」を運営した時も「ちょっとした手助け・助け合い」を参加者同士でやり合う仕組みを利用回数券でつくっていた。

写真=真ん中が「うちの実家」で使っていた手助けチケット「ほほ」
なぜ茶の間が「助け合い」を結ぶ場として有効なのだろうか。河田さんは「茶の間をやっていると、ここに来られる皆さんの困りごとが『見える化』されるから」と言う。「もちろん一般社会でも困りごとは見えますよ。例えば郊外のスーパーに行くとタクシーが待っている。見ていると、お年寄りが杖ついて買い物から帰ってくる。大根とかキャベツとかトイレットペーパーとか買ったとき、お年寄りは一人で家まで運べませんよね。で、困りごとを解決するためタクシーを待たせていた。そんな困りごとが実家の茶の間にいると、よく見えてくるんです」と河田さん。

お年寄りや障がいのある方が茶の間に来られる様子、茶の間に入って座られる時の状態、立ち上がったり、食事されたりする時の動きを見て、困りごとの状態が分かるのだという。「この方は家に帰った時、どんな風に困りごとに対処されているのだろうか。特に一人暮らしの方は困りごとの手助けが必要。でも、困っていても、知らない人や、家族のことを聞き出そうとする人には家に入ってほしくないんです。だから、この実家の茶の間で気心が知れて、『この人なら』と思う方に困りごとの手助けをお願いするようになる。そんな様子をしばらく見ていて、2年間チケットは出しませんでした。うちの実家の時と同じで、自然発生的にちょっとした助け合いが始まってきました。『これはやっぱり、手助けチケットをつくった方が良いな』と思った頃合いで、参加券に助け合いをプラスした回数券を出すことにしたんです。

<増えているチケットの利用>

「今は驚くほど多く手助けチケット『実家の手』が使われています」と河田さんは教えてくれた。とは言っても、手助けの個々の中身までは分からない。河田さんたちも、その部分には触れないようにしているので、そこは当事者同士しか知らない、まさにヒミツ。でも、茶の間を利用する回数に比べ、回数券をしょっちゅうお買い上げになる人や、回数券をあまり買わないのにいつも回数券を使う人がいることなどで、回数券が助け合いチケットとして使われていることは概ね掌握できている。その困りごとについても河田さんたちはこれまでの聞き取りや、うちの実家の経験で大半のことは把握している。「買い物や食事づくりができなくなった」ことや「掃除や洗濯ができない」などの家事、「一人での入浴が心配で、誰か家に居てほしい」「病院に一人で行けない」「飼い犬の散歩ができなくなった」などの手助けだ。これらの困りごとを抱え、今の暮らしが困難になっている人が大変に増えてきているのだ。

<85歳男性、「お役に立てて嬉しい」>

では、ここで当事者同士のヒミツである「助け合い」について、実際の手助けを教えてもらうことにしよう。「実家の茶の間・紫竹」のある紫竹地区に暮らし、開所準備段階から手助けをしてくれた武田實さん(85)も手助けをしている一人だ。「一番多いのは、お医者さんへの送り迎えかな。送るだけなら車で10分もかからないんだけど、迎えは時間が読めないから午前中がつぶれることもある。帰りに買い物に寄ったりしてね」と武田さん。常連さんは2、3人で、みんな「茶の間」で知り合った仲間たちだ。他に、地域で苗床づくりなど畑仕事をする時に頼まれることもある。「気心が知れてるから、気楽に声掛けをし合っている。まぁ、人の役に立つのは嬉しいし、こっちは独り身で時間は自由になるしね。逆に家族がいる人は、『あまり外に出ないで』と家の人に言われて、窮屈なようですよ。特に今は、コロナ騒ぎで外に出ることに、やかましいからね」と言う。

武田さんは、茶の間が開いている日はもちろん、閉まっている時も茶の間を見回り、周りの草花に水をやるなどの世話を焼いてくれる。「近所にこういう場所ができて、自分のやりたいこと、やれることをしているだけで、みんなから感謝してもらえる。生きがいができましたよ。本当に、『私の実家』という気分です」と笑みを広げる。時には、ご近所さんから大変に感謝されることもある。「洗濯機が古くなって、水漏れがし出した家があって、リフォームを相談したら『水浸しの床を替えると30万円掛かる』と言われたと言うんです。見に行ったら、洗濯機のパッキンを替えるだけでよかった。まぁ、その人は洗濯機を買い換えましたけど…。これは喜んでもらいましたよ。私は、普通は家の中に入らないで、買い物の手伝いなども玄関で物事を済ましているが、中には家の中の片づけとか、料理とかも手伝っている方もいますよ」と武田さん。

茶の間で知り合い、気心が知れ、信頼できる相手を見極めての助け合いが広がっているのだ。

<なぜ、有償の助け合い?>

これらを無償のボランティアではなく、有償の助け合いの方式を河田さんたちは取っている。なぜ有償なのだろう?「有料チケットを使うのは、手助けを受ける側が余計な気を遣わずにするためです。手助けする側は、『こんなことぐらい、いいよ。またやるよ』と思ってくれても、手助けされる側は『お礼にお菓子でも用意しようか』と気を遣ったり、『家族がいるのに何もしないのか?』と思われるのが嫌で我慢しようかと思ったりする。こんな思いをさせないために有償にしているんです。少し、遊び心も入れてね。だから、労働の対価ではありません」と、河田さんは有料チケットの意味を説明してくれた。

有料チケットは、江南区や西蒲区のモデルハウスなどでも使われ出し、事例が増えてきた。例えば、江南区の生活支援サービス「きぼうの手」では買い物代行や調理、室内片付け、清掃、洗濯など、日常生活での困りごとを各サービス一回(30分以内)500円で手助けしている。新潟市の有料の助け合いは、モデルハウスなどの「茶の間」を拠点にして輪を広げていた。しかし、みんなが「茶の間」に参加しているわけではない。日常の生活行為に困っている人はどうしているのだろう?それは、河田さんたちにとっても大きな課題として残っている。

 

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