実家の茶の間 新たな出発20

地域の茶の間

*実家の茶の間 新たな出発(20)*

<7周年展を終え 次の展開が始まった①>

―コロナ禍が下火に、「日常が戻ってきたよ!」―

―視察受け入れ、楽しみのお昼も8日復活―

<広がる満足感と達成感>

「不思議なことに、写真展の準備に追われていたら、コロナが収まってきましたね」「ホント、この1カ月で様変わりですよね」―10月下旬、新潟市の地域包括ケア推進モデルハウス「実家の茶の間・紫竹」では、利用者とお当番さんとの間でこんな会話が交わされていた。18日(月)から3日間、実家の茶の間の活動7周年を記念する写真展には160人ほどが訪れ、盛況裡に終わった。最終日の20日午後、実家の茶の間には大きなイベントを終えて、ホッとした雰囲気が漂っていた。写真展を終えた満足感・達成感が茶の間に溢れ、当番さんたちはほぼ全員、なぜか2人ずつでゆったりと話し合う姿が見られた。

写真=写真展の最終日、10月20日午後の実家の茶の間の様子。お当番さんたちが寛いだ表情で語り合っていた

<SCさんの相談の場にも>

河田さんは、西蒲区の1層の「生活支援コーディネーター」(SC)、塩澤敏男さんと話し込んでいた。話題は、各区にある地域包括ケア推進のモデルハウスを「これからどう機能させていくか」、そして一番重要な地域包括ケアシステムを2025年に向けて「どう構築していくか」だった。ベテランのSCで、責任感の人一倍強い塩澤さんは、コロナ禍で停滞している取り組みに焦りを感じ、「行政を含め、それぞれがもっと使命感を持ってやっていかないと、地域に責任が持てなくなるのでは…」などの疑問を河田さんにぶつけていた。この日、河田さんは聞き役に回り、塩澤さんの話にじっくり耳を傾けていた。

写真=地域包括ケアの今後を話し合う河田珪子さん(左)と塩澤敏男さん

「生活支援コーディネーター」(SC)とは地域包括ケアの推進役で、新潟市では1層のSCが区全体を担当し、2層のSCがより細分化された地域を担当している。コロナ前はSCの皆さんがよく実家の茶の間に顔を出し、「地域の困りごとにはどんなことがあるのか」「介護保険の対象外となる、身近な困りごとにはどう対応すれば良いのか」などを実地に学んできていた。それがコロナ禍で足が遠のくSCもいたり、新しく交替したSCの中には実家の茶の間に馴染のない人もいたりして、SCの研修の場づくりが一つの課題となっていた。そんな状況の中、今回の写真展の2日目には1層のSCがほぼ全員顔を出してくれた。これは、河田チームにとっても大きな喜びだった。河田さんは、コロナ禍が収まりつつある状況も踏まえて、「できることから、一つ一つやっていきましょう」と塩澤さんに穏やかに語りかけた。塩澤さんも久しぶりにじっくり話ができたためか、気持ちが落ち着いたようだった。

<1日からは午後4時までOK>

翌週、実家の茶の間に顔を出してみると、新しい方針がいくつも決まっていた。一つは、利用者が心待ちにしていた「お昼」の復活だ。11月8日から「お昼」を再開することにし、初日の献立は一番人気のカレーライスに決まっていた。これに先立ち、11月1日からは茶の間を開けて置く時間を現在の午後3時までから、従前のように午後4時までとすることも決まった。これまで県外からの視察は原則受けないことにしてきたが、「視察受け入れの本格再開」との方針も決まった。「コロナ禍も収まってきたし、まるでコロナ前の日常が戻ってくるようね」「それでも安心はまだまだできない。衛生面は今後も十分に注意をしていきましょう」―そんな会話も弾んで聞こえた。

写真=写真展を終えた実家の茶の間には、新たな展開を知らせる案内が。「1日から16時まで茶の間が延長され、8日からはお昼が始まる。初日の8日は人気のカレーだよ」

<視察再開第一陣は岡山から>

そして、迎えた27日(水)。再開された視察の第1陣がやってきた。岡山・浅口市で空き家を活用した地域づくりに取り組む「くにとう(国頭)の御船を守る会」のメンバー8人だ。人口流出と空き家増加が地域の大きな課題で、この克服に向けて昭和31年生まれの同級生を中心に会が立ち上がり、「空き家活用まちづくりプロジェクト」などに取り組んでいる。「御船」とは地域の祭りの主役の「山車」のようなもので、地域のシンボルだそうだ。この日は代表の笠原宏之さんをはじめ同会のメンバーや市職員、そして市に4人配置されているという市地域支援員2人らが10時間かけて車でやってきた。視察のきっかけは、以前にメンバーが河田さんの講演を聞いて関心を持ったことで、実家の茶の間が「空き家」を活用した活動であることも知って視察を希望していた。今年に入り何回かコロナ禍で延期を繰り返した後、ようやく今回の訪問が実現した。

<「空き家活用の理想の形」>

写真=岡山・浅口市からの視察団は、実家の茶の間の朝のミーティングから参加した

メンバーは朝9時半間には茶の間に到着。まず、実家の茶の間恒例の朝のミーティングから参加した。当番さんが毎回繰り返している「衛生面の注意」や「活動の基本」を興味深けに聞いていた。その後、互いの自己紹介が始まり、笠原代表が今回の視察・訪問の狙いを説明。「空き家活用の中でも、『実家の茶の間のような活用ができれば、理想的な形になるのでは』と考えて、やってきました」と語った。国頭地域では長く地域づくりの活動が続いてきたそうだが、「これまで頑張ってくれた方たちが70代に入り、いつまでも頼ってばかりではいられない」との気持ちから、昭和31年生まれの同級生が核となって「守る会」を組織したそうだ。

メンバーの1人、佐藤巌さんも同年代の65歳だが、「国頭の生まれではなくて、家内が皆さんの同級生だった縁で、隣の倉敷市から移ってきた」という。みんな気心が知れているのが強みで、今回の視察もコロナの状況を見ながら河田さんらと連絡を取り、「視察OK」のシグナルに即、反応した。浅口市から7人、国頭生まれで今は東京に住む1人が新潟で合流した。地域では民生委員や土木員らを兼ねて、地域の「安心な暮らし」に関わっているという。

<県外からの訪問、利用者も歓迎>

浅口市側の自己紹介が終わると、実家の茶の間側もお当番さんたち自己紹介。その後、グループに分かれての話し合いが始まった。この頃になると、利用者の方々も姿を見せ始めた。浅口側の地域支援員の2人は早速、利用者の方から茶の間の過ごし方などについて話を聞き始め、利用者の方も、久しぶりとなる県外からの視察者の質問に嬉しそうに答えていた。

浅口グループの視察は午後まで続いた。翌日は新潟市役所の地域包括ケア推進課の担当者からも話を聞くという。この日の視察を終えた参加者は一様に「茶の間の取り組みは、大変に参考になった」と語っていた。その中の1人、佐藤巌さんは「衛生面の配慮が行き届いていて、まず、そのことに驚きました。福祉施設に勤務した経験者など、専門性を持った方々がチームになっていることも素晴らしい。私たちは空き家対策から入り、田舎に住みたい方に『お試し体験』の形で住んでもらう「お試し住宅」も準備しました。色々と枝葉を広げてきましたが、地域に暮らす住民にとっては、このような居場所が重要なことが良く分かりました」と語っていた

写真(左)=実家の茶の間の視察を終えた浅口市のグループ。実家の茶の間を後にする前に河田チームと記念撮影(写真右)

<青空記者の目>

 活動7周年を記念する写真展の準備に追われていた実家の茶の間は、写真展が終わると次の活動に向けて動き出していた。コロナ禍が下火になったタイミングも重なり、実家の茶の間は新たなステージに進んでいた。これは河田チームが、コロナ禍の中でできることに力を注ぎながら、常に次の展開を考えていたからこその動きの速さなのだろう。県外からの視察も再開された。コロナが広がる前は全国からの視察が絶えず、それがお当番さんや利用者の方にとっても大きな張り合いと刺激になっていた。「いろんなとこから人が来て、いろんな話が聞ける。ずっと茶の間にいても、あちこち旅行している気分になれるし、学びにもなります」―利用者の方は以前、笑顔でこう話していたが、その日常も帰ってきたようだ。

写真=浅口市の視察団と一緒に写真展示を見て回る小岩徹郎・新潟県知事政策局長(手前)。写真展示は、しばらくそのままにするそうだ

実はこの日、新潟県庁からも視察が来ていた。知事政策局長の小岩徹郎さんで、小岩さんの「本籍」は財務省。本省時代は厚生労働省などを担当し、「地域包括ケア推進モデルハウス」の名を持つ実家の茶の間に関心を持っていた。こちらもコロナで延び延びになっていた視察がちょうどこの日、ようやく実現したのだ。小岩局長は興味津々の様子で、浅口グループとお当番さんとの意見交換に耳を傾けたり、茶の間の内部を見て回ったりしていた。小岩さんは当初の視察時間を1時間以上も延長し、帰り際にこう語った。「河田さんたちの活動には感銘を受けました。今度は県庁が休みの祝日の日にぜひ寄せてもらい、お昼の様子なども見てみたい。こういう現場を知ることが、私たちにとっては大変にありがたい体験になります」と。実家の茶の間の取り組みは、バリバリの財務官僚にも強い印象を与えたようだ

<メモ>瀬戸内海に面する岡山県浅口市国東地区(人口約430人)は、浅口市の中でも高齢化が進む地域で、市の高齢化率約36%(2018年段階)より8ポイントほど上回っている。また市内外への人口流出が止まらず、約200軒のうち、空き家は40軒ほどを数えている。このため、6年ほど前から空き家を活かした地域づくりの議論を始め、4年前には「空き家活用まちづくりプロジェクト」を始動。地域の大学生の知恵も借りて3軒の空き家を活用したイベント(ミニコンサート、地域の名産のカキを使ったピザづくり、海鮮汁の販売)に取り組んだ。昭和31年生まれの同級生が中心となって「守る会」を組織。さまざまな活動に取り組んでいる。国頭の「空き家活用」は、新潟市にとっても大いに参考になる。

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