文化が明日を拓く14

まちづくり

*文化が明日を拓く?!(14)*

<ウィズコロナ時代 「まちごと美術館」の今>

―「こういう時だから、元気の出る絵がいい」―

  ―可能性広がる「障がい者アート」―

<「ライオン」から感謝状>

新潟市で障がい者アートを貸し出す「まちごと美術館cotocoto」を運営する肥田野正明さんのもとに、先月、大きな感謝状が届いた。贈り主は、ライオン明石工場の文化体育会明石支部一同だった。9月の1カ月間、肥田野さんチームの協力を得て同支部が「まちごと美術館」を同社の社員食堂で開催し、好評を得たお礼の感謝状だった。文面の一部を紹介しよう。

<ライオン明石工場では9月1日から30日までの1カ月間、「まちごと美術館cotocoto」を開催しました。(略)展示品はどれも心に響く個性豊かな作品であり、従業員一同「ほっこり」するとともに、当社が目指すサステナビリティについて考える良い機会となりました。ありがとう!>

写真=事務所で障がい者アートの資料を探す肥田野正明さんと、「ライオン」からの感謝状

感謝状の写真をご覧になると、ライオン明石工場の皆さんの充実感と満足感が伝わってくるようだ。コロナ禍で、さまざまなマイナス影響が発生する中で、障がい者アートの持つ力や与えるインパクトの大きさを肥田野さんたちは改めて実感した。

<レンタルの契約解除はゼロ>

 「この春、コロナ禍以降で経済活動が縮小する中、障がい者アートの貸し出し契約が相当解除されるのではないか、と恐れていました。でも契約解除はゼロ。逆に『コロナでみんな元気がないから、作品貸してほしい』ってオファーが沢山来た。ライオンさんもその一つ」と肥田野さんが言えば、担当の高橋亜紀さんも「貸出先の事務所に、体温を測りながらおっかなびっくり出入りしていると、『次はどんな作品かな?』とか、『次も楽しみにしていますよ』って声を掛けられる。障がい者アートって、こんなに求められているんだ、と改めて実感しました」と応ずる。

まちごと美術館が始めた障がい者アートの貸し出しでは今年度、モスバーガーが東京などの30店舗に展示する予定だったが、これはコロナ禍の広がりで店舗に飾ることはできなくなったが、モスバーガー本社に飾ることで注目度はむしろ上がったという。それ以外では工事現場事務所からのオファーが目立っているという。ただでさえ殺風景な?現場事務所が多い中で、コロナ感染に注意しながらの仕事の士気を高めるため、障がい者アートが求められているようだ。その工事現場事務所の仕事が終わると、「次の現場事務所にも飾りたいから、また、元気の出る作品を頼むよ」などと、リピーターが増えている。

<新潟駅南口にも障がい者アート>

さらに行政の注目度も増している。新潟市は4年前に「障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例」を施行した後、条例の趣旨を知ってもらう一環で、障がい者アートの普及にも力を入れてきた。JR新潟支社もその活動に共感して、新潟駅構内に障がい者アートを展示してきた。さらに今月には新潟駅南口に新潟市が大きな障がい者アートを展示。市街地の南北をつなぐ通路に2か所にも障がい者アートを掲示した。

写真=新潟市が新潟駅南口に展示した障がい者アートのボード(左)と、連絡通路に掲示した障害者アート

一方で、全国の自治体には「まちごと美術館」の活動に学ぼうとする動きが出ている。「先日は千葉県の流山、安孫子、野田市に呼ばれ、まちごと美術館について説明してきました。18日には神奈川の黒岩知事のお声掛かりで、神奈川県庁に行くことになっています」と肥田野さん。本来は今年開催予定の東京パラリンピックで光が当たるはずだったが、逆にパラリンピック延期の因をつくったコロナ禍で注目度が上っている。

<「馬頭観音」の絵に衝撃>

 元々まちづくりや人づくり、環境づくりの会社「バウハウス」を経営する肥田野さんが、障がい者アートに触れたのは2016年だった。「デザイナーさんが障がい者アートを持ってきてくれて、それを見て衝撃を受けました。『こんな絵、今まで見たことない』って。それがこの『馬頭観音』という作品だったです。そんなに高くなかったんで、早速購入することにしました。どんな人が描いたのか知りたくて、障がい者施設に会いに行ったんです。『(作品購入の)おカネは何に使ったの』と聞くと、『みんなで寿司を食べた』と言うんです」と肥田野さんは振り返る。おカネをシェアして使うやり方にも魅かれて、もう1枚作品を買ったら、今度は掃除機を買って施設に寄付したという。「もう1枚買ってくれたら、今度はみんなで旅行に行こう」と相談していたことを肥田野さんは後で聞いた。

写真=最初に購入した作品「馬頭観音」の絵を持つ肥田野さんと担当の高橋亜紀さん(左)、角地智史さん(右)

他の施設では、障がい者アートは価値のない「厄介もの」として押し入れに仕舞っていたところもあったそうだ。しかし、「馬頭観音」を肥田野さんにオフィスに飾っておくと、「この絵は、何ていうものでしょうか?」と関心を示す人が多かった。「その後、新潟市のビジネスメッセで障がい者アートのアンケートを取ったら、9割以上が『興味がある』と答え、『1枚、月3千円くらいでレンタルされるなら飾ってみたい』という声が多かった。これはビジネスにもなる」と肥田野さんは考え、まちごと美術館cotocotoを始めることにした。現在のレンタル展示は120か所程度で、枚数は200枚以上になる。登録作家は25人ほどで、レンタルに採用されると、500円が作家さんに行くシステムだ。中には何万円も稼ぐ人もいるそうだ。これまでアーティストに支払われた総額は200万円を超えたが、その中の90万円近くが今年の支払い分だ。

<「誰の絵が採用?」、走る緊張>

担当の高橋さんは、「作家さんがいる施設にとっても、刺激になっているようです」と言う。「私たちが行くと、『おカネの人がきたよ』って、入居者が出迎えてくれる。絵を描いている部屋まで手をつないで連れていってくれるんですが、作家さんたちは私らの顔を見ると緊張が走る。『今日は、誰の絵が採用されるのか』ってね。創作のスイッチが入る材料にしてもらっている」と高橋さん。まちごと美術館のスタッフは、親御さんからも仲良くしてもらい、色んなお話を聞ける。「障がいのある方の日常生活の大変さも聞きますが、視点を変えてみると大変というよりはむしろ楽しい内容に聞こえる。いろんなエピソードが障がいの理解につながると感じています」と高橋さん。新潟県アール・ブリュット・サポートセンターのアートディレクター、角地智史さんは「障がい者のアートを展示したら、などの思いは福祉の現場にもあった。でも福祉サイドの人間だけでは回らない。肥田野さんのようにレンタル展示の場所を増やす営業をやる人がいませんから。肥田野さんや高橋さんは、関心を持った上で定期的に施設に来てくれるので、関係性が続いています」と説明する。レンタル展示に参加する企業も「本当は障がい者雇用のところまで行きたいんですが、そこはちょっとハードルが高い。まず、障がい者アートを展示することで、障がいへの理解を深めていきたい」と言うところが多いそうだ。

肥田野さんは「企業の展示以外でも、新潟市では循環バスの車体や連節バス内、バス停にも展示するなど、公共の場に障がい者アートが飾られている。これは新潟の個性。もっともっと、公園などの公共スペースで障がい者アートに触れることができる街にしたい」と語っていた。

<青空記者の目>

 障がい者アートとアール・ブリュット(生のままの芸術)は同一ではないが、日本では同義語の様に語られることが多い。世界のアール・ブリュットをリードしているのはフランスで、中でも新潟の姉妹都市・ナント市の市長を務め、後に仏首相ともなったジャン・マルク・エローさんはけん引役の一人だ。その縁もあって新潟市美術館では2011年に「アール・ブリュット・ジャポネ展」を開催した実績を持ち、障がい者アートに力を入れてくれている方も多い。

日本では滋賀県が障がい者アートをけん引してきたが、数年前、滋賀で開かれた全国規模の障がい者アート展のカタログの表紙を飾ったのは新潟市の作家だった。新潟の障がい者アートのレベルの高さに気づくと共に、「障がいがある人もない人も共に生きるまち。これが新潟の個性だ」と私も思うようになった。肥田野さんらの障がい者アートのレンタルにより、その個性はさらに伸び、磨きがかかっている。コロナ禍で、障がい者アートの放つエネルギーがさらに認められてもいる。

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