文化が明日を拓く13

まちづくり

*文化が明日を拓く?!(13)*

<ウィズコロナ時代 「サウンドエイト」の今>

―「村祭りから大イベントまで中止続き」―

―「五輪がどうなるか、来年がヤマ」―

<例年の70~80%ダウン>

新潟でも各種イベントの中止が相次いでいる。新潟市の観光コンベンション協会では、新型コロナウイルスの感染が拡大した今年3月から現在まで、学会や見本市など、いわゆるMICE(マイス)関連で120件以上が中止・延期になり、9万人近い新潟への訪問者が失われたと言う。身近な催しなどを入れると、中止・延期の数はその何倍にもなり、あるべきはずの人出も大量に減っている。

「小は村祭りから、大きいものは酒の陣などの大イベントまで、コロナの影響でみんななくなりました」と語るのは「サウンドエイト」の滝沢等社長だ。同社は、イベントの企画から音響・照明など催しの設営・運営まで携わる新潟市の中堅企業で、新潟のイベント活性化の一翼を担ってきた。「うちらは受注産業なもので、イベント関連が中止になると、どうにもならない。音響・照明関係の売り上げは例年の70~80%ダウンの状況ではないですか」と滝沢社長。

写真=「サウンドエイト」の社内に貼られたポスターの前に立つ滝沢等社長

<波及効果の大きいMICE>

新潟市のイベント関連業界は、地方都市で見ると力のある企業が多いのだそうだ。イベント関連業界に詳しい関係者は「例えば国体などの大イベントも、大手企業の力を借りず、ほとんど地元企業だけで設営・運営をこなしていける。その頂点に立つのがイベント・コンベンションの雄『新宣』で、学会やイベントの企画・運営から事務局代行、看板取り付け、宣伝の印刷物からホームページ作成まで、イベント全般をこなす力を持っている。それに次ぐレベルの有力企業もあり、音響・照明や看板を中心にする会社もレベルが高い。サウンドエイトさんも、その有力企業の一つです」と解説してくれた。

MICEで新潟市を訪れる人も多く、その波及効果は飲食・ホテル業界など幅広い分野に及んできた。それが新潟市の活力にもなってきたのだが、朱鷺メッセなどのコンベンション会場やホテルも閑古鳥が鳴く状況だ。「コロナの影響で『密になる』イベントはできなくなり、感染防止のための手段は最大限取っていくことが求められます。単純に言えば、イベントをやっても収入は少なくなり、出費はかさむことになる」と滝沢社長はコロナ後の状況を語る。イベントや催しの企画を頑張って立てても、国や県・市の指針を守っていくと、利益が出ない。厳しい状況の中でステージをつくっても、参加タレントが一人コロナ陽性の疑いが出ると、関係者全員のPCR検査が必要になり、「一人3万円かかって、赤字が膨らんだ」と嘆く関係者もいる。サウンドエイトが関わった商談会では、「感染対策の費用が従来の3倍かかり、人件費も大きく膨らんだ」(滝沢社長)そうだ。

<行政の支援が手厚い新潟>

サウンドエイトは仙台にも拠点を持っており、滝沢社長は新潟と仙台を比較できる立場にある。「新潟ではここにきて、行政関係の催しは増えてきました。有り体に言えば、利益に捉われないで済む行政系のイベントしかない訳なんですが、我々にとっては大変にありがたい。一方で、仙台では行政の催しが依然として少ないんですよ。新潟はコロナ禍の中でも死者が出ておらず、市中感染レベルにならずに抑え込んできたから、行政系のイベントができるのかもしれません。これは、新潟のありがたい状況です」と滝沢社長は仙台との比較を語る。

行政の支援も積極的だ。新潟県の需要喚起支援策は当初2億円だったところ、応募が200件を超え、県は支援額を4億円に増額した。新潟市の観光コンベンション協会も7月から各種支援制度を拡充した。80万円を上限に感染対策費用の4分の3を助成し、県外からのMICE参加者に対しては市内の飲食店で使える2千円の商品券を配布した。さらに10月からは、次回の来訪時に使える宿泊券5千円分を上乗せした。

滝沢社長は「行政の支援は基本的には全部ありがたい」と言う。国の休業補償もあったため、「利益の上がらない仕事はやらずに、従業員を休ませた方がいい」と考えていた時期もあったが、滝沢社長は「10月からは休んでいない」と言う。「休業していては、従業員の士気にかかわるし、さまざまなイベントをこなすノウハウの継続にも差しさわりが出てくる」からだそうだ。一方で、仕込み期間が一定必要なイベント業界では、支援期間の短いことが気がかりだ。「県の支援は10月に採択が決まって、来年2月末までに消化しなければなりません。宿泊や飲食業界はそれで対応できるかもしれませんが、我々がイベントをやるには仕込みが大事になる。最低で3カ月、大きいものは半年から一年が必要です。職人根性と言われるかもしれませんが、納得のいくイベントにしていくことが、次につながることにもなる。おカネはありがたいんですけどね…」と滝沢社長。

写真=今年の年末まで続く「新潟県文化祭」ポスター

<オンライン会議にも挑戦>

そんな中で、サウンドエイトは新しい分野にも挑戦している。その一つがzoomなどを使ったオンライン交流で、行政にもzoom会議などを提案している。「北東アジア国際会議など、国際交流も新しい形でやれる。人材の問題もあって、うちは大転換は難しいかもしれないが、中国・韓国などとのオンライン交流を提案できるようになった。今、デトロイト美術館を核にしたオンライン・プロジェクトも進めています」と滝沢社長。ここでも、中国の技術革新のスピードには驚かされるという。「日本ではzoomとユーチューブの間のシステムがない。zoomはリアルタイムでやり取りができるけど、参加するには招待が必要でしょう。中国のアリババはユーチューブでもリアルタイムの反応ができるようにしました。今は、字だけですけれどね。新たな武器を手にしようとしています」と滝沢社長。

写真=新潟市古町7で行われている光のイベント。新潟市のクリエイターが夢の世界を創り出している

これからのMICEやイベント業界はどうなるのだろうか?滝沢社長は「イベントは経済活動の『おまけ』的なところがあって、我々の音響・照明は、『そのまた、おまけ』でしょう。今年度一杯は新潟だと行政が頑張ってくれるから良いとして、来年度からは勝ち残れるところと、そうでないところが出てくる。目安は東京オリンピックがどうなるか、でしょうか。オリンピックがなくなると、再来年は大変に苦しい。企業努力と知恵の絞りどころ、になるんでしょうか」と滝沢社長は来年以降を見据えた。

<青空記者の目>

今回は視点を変えて、イベント関連企業の現状について「サウンドエイト」さんを中心にお話を伺った。新潟の祭りや伝統文化から、NegiccoやNGT48などのアイドル文化まで、幅広い文化・芸能活動を支える大事な役割を果たしているのがイベント関連産業だ。関係者から話を聞いて、新潟には「国体」などの大イベントを、大手企業の手を借りずに運営できるノウハウや力を持つ地元企業があることを知った。「これは全国でも稀な地域」と関係者は言う。そのイベント業界もコロナ禍の中で大変な状況に置かれているが、新潟はコロナの感染拡大がある程度抑えられているせいか、行政がイベントの実施・支援に大きな力を入れている地域の一つのようだ。学会・見本市などを企画・運営できる地元企業があることは、地域活性化の上で大きなアドバンテージだ。新潟の多彩な文化を下支えするイベント関連企業が今後も頑張っていけるよう、行政の支援と民間・地域の後押しを組み合わせていきたい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました