にいがた 「食と農の明日」(4)

まちづくり

*にいがた 「食と農の明日」4*

<ウィズコロナ時代 農家レストランの今①>

―衰えぬ客足、ゆったりした造りが奏功―

―「こだわりトマト、使い放題ですから」―

<「コロナ前より伸びています」>

「コロナの影響ですか?それはうちも心配でした。でもどういう訳か、お客さんが来てくれる。コロナの前より、増えています。今年は売り上げ目標を下げようか、と言っていたけれど、結果は当初の目標をクリアしていますて」。新潟市北区新崎の田園地帯に立つ農家レストラン「ラ・トラットリア・エストルト」を経営する「有限会社高儀農場」の主、高橋治儀さんは首をひねりながらも笑みを浮かべた。

写真=木をふんだんに使った農家レストラン「ラ・トラットリア・エストルト」の前に立つ高橋治儀さん

エストルトは、新潟市が「国家戦略特区」に農業分野で指定されたのを受けて、2016年にオープンした農家レストランの一つだ。高儀農場で生産されるフルーツトマトなど、新鮮でレベルの高い野菜類をふんだんに使ったイタリアンが人気を博し、女性・家族客を中心に昼は毎日のように行列ができていた。

<イチゴ狩りはまったくダメ>

そのエストルトも、新型コロナウイルスの感染が拡大した4月末から5月上旬の大型連休は、2週間近く休業した。その後も客足が戻るか、心配な日々が続いたという。「うちの経営の柱の一つであるイチゴ狩りは3月から全くダメ。そんなに密にならないと思うんだけど、4月以降もダメでしたね。直売所で買ってもらって、何とかしのいでました。だから、レストランもホント、心配だったんだけど、休業後、少しずつ戻ってきてくれました。夏前には例年並みに回復し、秋からの入りはすごかった。10月もそうだし、11月まですごく入ってくれた」と高橋さん。店がオープンする11時前から開店を待つ列ができ、午後1時半過ぎまで行列が続く状況だった。

全般的に飲食がコロナの厳しい逆風にさらされる中、なぜ高儀の農家レストランは支持されたのか?高橋さんにもつかみきれないところがあると言う。「うちの営業は基本的に昼だけ。コロナ前は月に平均2回ぐらい夜の宴会がありましたが、夜の飲食が厳しくなると、それはなくなった。それでも前年を上回っているんだから、お昼がそれだけ入っているということ。うちのレストランは天井が高いし、100近い席の割にはゆったりと造ってある。動線も確保できているし、まちなかからちょっと離れていて、ほとんどがマイカーのお客様。結果的にコロナ対応になっていたのかも…」と分析する。

<「材料の野菜がいい」「いや、調理が良い」>

支持されている最大のポイントは、やはり高儀農場でつくっている野菜のうまさだろう。売り物のフルーツトマトと越後姫のイチゴ。さらに多種多様な野菜を栽培している。「とにかく、うちの看板であるフルーツトマトは、料理にふんだんに使っています。使い放題ですね。多品種の野菜は、私がボランティアでつくっているようなもの。うちの味が支持されているのは、原材料の野菜類が他とは違うんじゃないろっかね。厨房は長男の真之介が担当していて、彼は『いや、調理が違うんだ』と言っていますがね」と高橋さんは笑いながら語る。一方、越後姫など農場の主力農産物は次男の泰道さんが担当し、少量多品種の野菜類とコメづくりは高橋さんが主に担っている。

写真=「高儀農場」の事務室で、コロナ禍を乗り切った1年を振り返る高橋さん

エストルトは客の多くが新潟市民か近郊の方だ。「休日には県外ナンバーも目につきましたけど、基本的に近場の人が大半。それも女性が8割以上です。女性に嫌われると昼の飲食は厳しいんで、そこに支持されていることは大変にありがたい。ヘビーリピーターというのか、コアのお客さまもいてくださる」と高橋さんは言う。

<「非日常が喜ばれている」>

高橋さんは、エストルトに県外から来るお客さんの話を聞くことも多い。「福島の方は農家レストランが盛んで、やっていらっしゃる方も多いそうなんですが、『店出しては、やめ』で、結構入れ替わりが激しいそうです。みんな地の物、地の味で売っているんでしょうがね。やっぱ、飲食は難しいです」。そう言う高橋さんは「新潟はコメもうまいし、野菜もうまい。居酒屋も、家庭の味もうまいですよね」と言い、「食べ物がうまい新潟の中でも、エストルトに来てくれる。うちはピザ、パスタ、野菜類がよく出ます。コメにもこだわっていて、せがれに『ご飯のメニュー、もっと増やせや』と言うんですが、『うちでは、ご飯類の注文は少ない。コメを売りにはできない』と言うんですよ。普段食べているものとは一味違う、『非日常』が喜ばれているんですかね」と笑顔を浮かべた。高儀農場の挑戦は続く。

<青空記者の目>

農高儀農場の農家レストランが、コロナ禍の中でも売り上げを伸ばしていることには、ちょっとびっくりした。2016年度の売り上げが100として、昨年度まで130近くに順調に伸び、コロナ禍でもその前年を上回る勢いだというからすごい。

「テイクアウトが伸びている」「朝需要を掘り起こしている店が増えた」などの飲食情報が巷には流れているが、エストルトの好調さとは少し事情が違うように思う。「まちなかを少し離れて、密ではない快適な環境、女性中心の寛いだ雰囲気、普段食べている新潟のおいしい料理とは一味違う非日常のイタリアン」―これらの総合力がエストルトを支えているように思える。そして、何より高儀農場のチャレンジ精神が陰の推進力になっているのではないか。次回はその挑戦者魂に、ちょっぴり焦点を当てることにしたい。

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