にいがた 「食と農の明日」24

まちづくり

*にいがた 「食と農の明日」(24)*

<新潟食料農業大学での講義から②

―1期生76人から感想コメント―

―「決意」「提案」数多く、実学の理念を反映―

新潟食料農業大学(NAFU)の武本俊彦教授(農水省出身=食料・農業・農村政策)から依頼を受けて先月末、NAFU新潟キャンパスで約1時間の講義とパネルディスカッションに参加する機会をいただいた。NAFUの1期生となる4年生約80人が出席し、熱心に話を聞いてもらったことは前回のブログで紹介した。後日、出席者が講義などを聞いての「感想コメント」を提出され、武本先生から私に76人分を転送いただいた。コメントを拝読し、さまざまに感じることがあった。

<「自分ごと」としての感想コメント>

76人の感想コメントを通読して、まず感じたことは「学生の皆さんが、『自分ごと』として私の話を聞いてくれた」ということだった。それは、コメントの中に自らの「決意」や「意志」が書き込まれていたものが多く、さらに「提案・提起」に類するものも数多くあったからだ。「よそごと」として話を聞き流すのではなく、「自らのこれから」に引き付けて感想コメントを書いてくれた印象が強い。NAFUは(文末のメモにあるように)大学としての「3つの理念」の中の1つに「実学―地域とくらしの役に立てる」を挙げている。また、「建学の精神」の最後には「常に好奇心をもって取り組む『創造力(Creativity)』を育む。」としている。

新潟は昔から「実学」を好む考え方が強く、私も実学の「地域とくらし」を重視する理念に共感する一人だ。また、新潟市長時代には「創造都市」を目指しており、まちづくりを進める際に、「持続可能性」「環境」などと共に「創造性」の視点を重視していた。今回、NAFUの4年生から寄せられたコメントに「決意」や「提案」が多く含まれているのを拝見して、「実学を追求する大学の考え方が学生に浸透している」「好奇心も旺盛で、創造力を育みつつある」との感想を抱いた。

写真(左)=今回の講義で使った資料から「新潟平野の美田風景」 (右)=新潟食料農業大学の案内看板

<感想コメントを紹介しよう>

ここからは、私が心強く思った感想コメントのいくつかを紹介することにしたい。今、新潟の地で「食と農」を学ぶ若者が、「どんなことを考え、どんな将来を目指しているのか」について、多くの方から知ってもらいたいからだ。以下が「感想コメント」

◆「今回の講義を聞いて、新潟の『田園型政令市』がどのようにつくられたかを知ることができた。合併後の新潟市は食料自給率も63%と高い水準にあり、農業産出額も日本一である大農業都市であったこと。様々な過程を経て『田園型政令市』になったことなど、新潟市のこれまでの背景について学んだ。燃えるごみの有料化により、ごみを30%減少させたことや新潟の米依存への疑問提起などに関しては、新潟に住む人の将来を見据えた取り組みを行ってきたのだと考えた。私が西蒲区に住んでいることもあり、西蒲区の中学校区において人口が減少している問題にも興味を持った。コロナ後において人口減少を食い止めるためにも子育て支援や若い人たちに帰ってきてもらうUターンの取り組みが必要になってくるのだと再認識した。私は新潟で暮らしていきたいという思いがあるので、在学中はもちろんのこと、卒業後も新潟のアピールポイントとなる食と農の理解を今後も深めて、新潟市民として新潟の良いところをしっかり認識していきたいと考えた」

(以下、少し私の意訳で紹介します)

◆(農業戦略特区や田園型政令市の流れ、合併マニフェストに触れられた後)「震災や新型コロナウイルスの影響で(巣ごもり需要に強い)新潟県・新潟市の強みが今後も発揮される可能性を知りました。これらの強みがあるにもかかわらず、人口の東京一極化が止まらないのはとってももったいない。より新潟の良さをより多くの人、特に若い人に知って欲しいと思いました。私はこれから新潟の食品メーカーに就活が決まっています。働くことを通じて、新潟県の食と農の活性に貢献し、ニューフードバレー構想実現に向けて貢献できる人材になりたい」

◆(新潟市の取り組みを、日本の事象と合わせ時系列的に知る機会になったことに触れた後)「都心への就職予定を見直すきっかけともなる話をいただいたので、もう一度新潟のフードベンチャー企業を調べ上げたい。新潟の発展における課題として『売り方が下手だ』というのはその通りと感じた。就活生として新潟のベンチャー企業を調べても、なかなかトップページに整列されてなかった印象がある。新潟発のベンチャー企業をより増やしていくためにも、人の気持ちの面を変えていく必要がある。『新潟はもっとコミュニケーションを活発にする都市づくりが必要』とのお話しに同感。自らはその言葉を胸に、将来的にはフードロス削減事業に携わりたい」

―など、自らの進路への決意を書き込むものがあったことを嬉しく思った。

<コメントのもう若干例の紹介>

◆「農業特区を日本的モデルとして発展させるため、『Washoku』を世界に発信していく必要がある。そのためには新潟が『制作(政策)都市』から「創造都市」になっていく必要がある」

◆「スマート農業は高齢者に浸透しにくいので、分かりやすい機械化の実例を示し、実用性を経験してもらって信用を高める必要がある」

◆「新潟県民が新潟の魅力を分かっていない。高齢者に目を向けた地域づくりだけでなく、若者にもっとアピールしていくべきだ」

◆「新潟市の『いくとぴあ食花』は、これからの時代に必要な施設と思ったので行ってみようと思う。イタリアの大学(ミラノ近くの食科学大学)の話を聞いて、私たちの大学ができた始まりを知った。(その例のように)シェフが学食に来て料理をするのは良いと思う」

◆「農業特区になった後、規制緩和を伴わない企業が様々なアグリプロジェクトで新潟市に参入したのは驚きだった。ただ、海なし県で育った者からすると、もっと水産業のアピールをしても良い」

以上のように様々な提起もいただいた。

<自ら行動していく決意として>

次は、冒頭の3人と同様に「自らの決意・方向性」を示したコメントだ。

◆「農業特区から食文化・ガストロノミーへと発展していくことが分った。新潟県に住んでいる外国人として、頑張っていきたい」

◆「地方の過疎化を止めるのは難しいが、合併マニフェストは過疎化を抑制した。新潟市ではスマート農業が進んでいるが、今後も過疎化が進めば機械化農業が必要になる。自分も新潟の若者として活躍したい」

◆「市長を目指すきっかけなどを聞け、元気をもらった。合併マニフェストに関心を持ち、他市の例はどうかと気になった。出身の鶴岡市も調べてみよう」

◆「田園型政令市には反対もあったというが、私も新潟にくるまでは食と花の日本一など知らなかった。新潟は宣伝下手だと言うが、売る努力をしないでそれを言うのは言い訳と思う(売る努力こそ必要)」

◆「食文化創造都市をつくっていくには、(自らも含めて)市民一人ひとりが新潟の魅力を考え続けることだ」

以上、印象に残ったコメントのいくつかを紹介した。76人の感想コメントを私の主観のままにパターン分類してみた(複数分野にまたがるコメント有り)。まずは主体性を発揮していると感じたコメント。

①「提案・提言」を含んでいるもの(20人がコメント)+「自らの意見」(7コメント)

②「自らの今後の努力」(20コメント)+「決意」(8コメント)

③「この際、積極的に聞いておこう」的な「質問」(10コメント)

この数字から、「我が事」として話を聞いてくれた感じがする。ちなみにいただいた質問としては

①「コメの自然栽培の収量・収益は?また、自然栽培の普及状況は?」②「新潟市の食料自給率63%というが、コメ以外の野菜などの状況は?」③「田園型政令市という、新潟での今後のまちづくりの推進方向は?」④「新潟はスマート農業の一大拠点になれるか?」⑤「政令市は農業以外の施策も必要。人口減の対応へ、他分野の産業政策は?」⑥「スマート農業が伸びていった場合、高齢者の働く先がなくなるのでは?」⑦「新潟市だけ栄えるのでは?県全体の発展はどう考えるのか?」⑧「海外の花の栽培技術で取り入れるものは?どこで聞けばよいか?」―などがあり、答えられるものは武本先生を介して学生に伝えた。

以上、主体性を感じられる学生のコメントについて紹介した。次に、学生の皆さんは私の話のどんな部分に特に反応してくれたのか。それについて分類してみた。

<コメントで特に反応した分野別の分類>

◆農業関連

・「田園型政令市・特区」(15人がコメント) ・「新潟市の食料自給率63%」

(13コメント) ・「食と花・ニューフードバレー」(9コメント) ・「コメやコシヒカリへの過度の依存」(8コメント) ・「自然栽培」(7コメント) ・「スマート農業」(5コメント) ・「農業分野への企業参入」(5コメント) ・「低平地という悪条件」(5コメント)

◆新潟の魅力やアピール力

・「新潟の宣伝下手」(16コメント) 「新潟の魅力について自らの認識不足」(10コメント)

◆環境

・「新潟市のごみ減量の取り組み」(9コメント) 「田園型政令市」(9コメント)

◆都市のあり方・政令市のタイプ

・「政令市のタイプ」(12コメント) ・「新潟市の合併マニフェスト」(12コメント) ・「大合併」(10コメント) ・「人口減少」(6コメント) ・「農業分野以外の産業振興」(5コメント) ・「交通・アクセス」(4コメント) ・「若者向け施策」(4コメント)

◆「市長経験者」からの話

・「いい機会・普段聞けない話」(20コメント) ・「市長としての改革・挑戦など」(10コメント)

NAFUで共に学ぶ方が「どんな点に反応されたのか」を知ることも、学生同士の「参考になるのでは」と考え、数字をまとめ、学生の皆さんに紹介した。「農業分野」での反応が多いのは当たり前と思うが、その中で「自然栽培」に敏感に反応された方が結構多かった。「新潟の宣伝下手」や、「新潟の魅力について自らの認識不足」にも多数の方が反応してくれた。近い将来、この点が克服されていくことに期待したい。「ごみ減量」や「環境的視点からの田園型政令市」の反応に若い人の感性が滲んでいたように思う。さらに、今回のメインテーマではなかったが「交通・アクセス」「若者向け施策」にも鋭い反応をいただいた。これも「新潟の課題である」ことを再認識する機会となった。

今回いただいた機会に感謝し、NAFUの今後にさらに期待したい。ありがとうございました。

【新潟食料農業大学(NAFU)の理念と建学の精神】

新潟食料農業大学(NAFU)は「大学の理念」として①マーケットイン=需要(消費者の要望)に応える②フードチェーン=切れることのない「食の循環」を守る③実学=地域とくらしの役に立てる―を掲げている。

写真(左)=新潟食料農業大学の「理念」 (右)=同じく「建学の精神」(共に渡辺好明学長の資料から)

また、NAFUは「建学の精神」として、「自由・多様・創造」を掲げる=自己規律に裏打ちされた「自由(Liberty)」のもと、他者の考え方や行動を尊重する「多様性(Diversity)」と常に好奇心をもって取り組む「創造力(Creativity)」を育む。

 

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