にいがた 「食と農の明日」10

まちづくり

*にいがた 「食と農の明日」(10)*

<ウィズコロナ時代 プロ農家の今③>

 ―「コメを安くして消費者のメリットに」―

―「メリット分で農家への直接支払い制度を」―

<「園芸強化、提起は10年遅かった」>

一方で、平野さんと坪谷さんは農業の未来をどう描いているのだろうか。新潟大学名誉教授・伊藤忠雄さんが提起した「園芸への転換」について聞いてみた(この問題提起については、今回のブログ6回目=亀田郷の今①でも触れてある)。平野さんは言う。「園芸が大事なことはその通りです。以前に、秋葉区の花木農家から言われたことがある。『平野はいつまで経っても田んぼ、田んぼだな。おれは40㌃規模で、子どもを育ててきた。農業は規模じゃないよ』ってね。私も昔は色んな作物つくってみた。でも、結局うちはコメに特化していきました。それぞれの生き方がある、ってことかな」

写真=地域農業の未来について語る平野栄治さん(右)と坪谷利之さん

坪谷さんも「農業は規模じゃない。野菜農家は1㌶でも超大規模です。十分に食べていける」と園芸の力を評価する。しかし、今は米作県の秋田まで園芸産地を育て、販売ルート争奪戦を繰り広げている。「そこに今から参加するんですか?私は伊藤先生に言いましたよ。『それを指摘するなら、十数年前にしてほしかった』ってね。これから新しい園芸産地を育てるのは大変ですよ」と平野さん。園芸強化について、二人の意見はほぼ一致している。「新潟県内では、既存の園芸産地にテコ入れして、既存産地を太らせることに力を注ぐべき。新しく園芸産地育成に税金を使うなら、中国のカット野菜と勝負できるレベルを目指すこと」だった。「そうしないと、後発の野菜産地と国内の既存産地の競争になり、値崩れを起こす」と二人は言う。

<「3000億円規模模のメリット発生」>

では、亀田郷をはじめとする低平地の越後平野は、どう生き残り策を立てるのか。平野さんは「麦と大豆の転換に国が3000億円台を支援する亀田郷の杉本理事長プラン。基本的には、その方向でいいんだわ。コメをはじめ、麦・大豆を安く提供する。そうすれば誰のメリットになりますか?消費者のメリットになるでしょう。それも3000億円を超すメリットが発生する。それを税金で埋めて、欧州風の戸別支払い制度を日本でつくれば良いんです」と大きな方向を語る。

実はこの方向が、前回紹介した「坪谷ペーパー」の結論でもあった。「水田農業の生き残り」への戦略については、先に触れた「コメ生産者の生活を保障する規模」のほか、「コメの販売先の多様化」や「圃場の集積・集約による経費削減とICT化」などに続いて、「コメの海外輸出戦略と課題」に触れられていた。二人は、これまでも台湾などへのコメ輸出を共同で手掛け、県内生産者と「新・新潟米ネットワーク」(3Nグループ)をつくり年間350トンを海外輸出した実績を持つ。坪谷さんは輸出についても、「きちんと所得確保が見込めるものでなければ長続きしない。現状では、各産地がてんでんに売り込みに走り、足の引っ張り合いをしている。オールジャパン、オール新潟の取り組みをしなければ海外での販売競争には打ち勝てない」と厳しく総括していた。

<「コメを1俵1万円程度に」>

それを踏まえた結論部分が「欧州型直接支払い制度の日本での導入」だった。日本のコメが輸出先市場に定着するためには「1俵(60㌔)当たり1万円程度の水準が必要」とし、「その水準でコメを生産し、生活できる所得を得られる経営体は今の日本にはほとんど存在していない。規模拡大やコスト削減・ICT化などで、その水準を実現する経営体が育つには10~15年かかる」と坪谷さんらは考え、「その期間、国は何らかの支援策を講ずる必要がある」と提起する。それが「欧州型直接支払い制度」だ。

写真=冬の厳しい表情を見せる越後平野。コメ農業の未来をどう開いていくのだろうか(西区から西蒲原の田んぼを望む)

ここで坪谷さんは一つの試算を挙げている。「680万トンの国内主食用米の現状価格を『1俵(60㌔)1万3000円』と仮定すると、1俵3000円下げて市場に提供する消費者メリットは3420億円になります。このメリット分を原資として、『日本型直接支払い』の仕組みを構築する提案です。これなら新たに財源を求めることなく、消費者への恩恵を財源にすることで制度ができあがります」と坪谷さん。平野さんも「米価が下がれば、消費者はみんな喜びます。『消費者皆さんの負担が軽減されるから、それを税金で農家にお返ししますよ』という仕組みです。欧州などでもやっていることで、国際的に批判されることじゃない」と後押しする。

<「分配の秤は、まず青色申告者」>

「農家への3000億円オーダーの分配をどうするか?オレに言わせれば、秤は規模じゃない。対象は、農業で食べている『青色申告者』です。そこに『一家の生計における農業収入依存度』で、さらに篩にかける。そうすれば、何十㌶つくっていても不動産収入で食っている人は対象から外れる。一方で、1㌶未満の野菜農家でも大丈夫、対象にになります。農業で食べている農家はね」と坪谷さんは、ペーパーの締めの部分を示した。今後、農政関係議員や農水省と本格的に意見交換するつもりだ。

<青空記者の目>

今回、坪谷さんがまとめたペーパー「水田農業の生き残り」の結論部分をお聞きした。日本農業を持続可能にするための原資として、ここでも「3000億円規模」が登場した。亀田郷土地改良区の杉本克己理事長の試案「麦・大豆への大転換」と同じレベルの数字で、これは今年度の第3次補正予算と新年度予算案を合わせた「水田フル活用予算」3400億円とも同じ規模の数字だ。どの考え方が「日本の農業を持続可能にする」最有効策なのか?新潟から、本格的に議論を巻き起こしてほしい。

今回、話を聞いた平野さんと坪谷さんは、新潟市内の農業者の中でも代表的なコメの大規模経営体リーダーだ。二人は、有限会社「ナーセリー上野」(新潟市東区)の代表者である上野喜代一さんとも仲がよく、情報を共有して、越後平野からさまざまな実践・発信を行ってきた。農業分野の「異能3兄弟」と呼ぶ関係者もいる。坪谷さんは「平野さんが73歳で、オレが62歳。その間に上野さんがいて、5歳ほどずつ離れている仲間です」と言う。今回、坪谷さんがまとめたペーパーも、「3兄弟」が意欲ある農業者らと何度も話し合い、農水省幹部OBや農政関係者と意見交換した成果品だ。平野さんは「もう少し若ければ、もっと暴れられるんだが…。もう年ですよ」と言うが、今も国の農政関係者らとも意見交換を怠らない。「3兄弟」から、当分目が離せないようだ。

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