いま学校は?7

まちづくり

*ウィズ・コロナ時代 いま学校は?*

<新潟市内野小学校に見る⑦>

―地域総がかり 子どもの成長支援―

―「コミュニティ・スクール」へ準備急ぐ―

<熱中症から子どもをどう守る>

新型コロナウイルスの感染拡大の前から、全国各地の学校はさまざまな問題にさらされてきた。新潟市に取って最も衝撃的だったのは、前回のブログでも触れたように2018年5月に西区で起きた小学2年生女子児童の殺害事件だった。同じ西区の内野小学校ではこれを機に、学校・保護者・地域との関係が強化され、3者をつなぐ「つながるプロジェクト」が発足、成果を挙げた。一方で異常気象から子どもたちを守る取組も大きな課題となった。こちらは同じ年の7月、愛知県豊田市で校外学習先から戻った小学1年生男児が重度な熱中症である熱射病で死亡したことが直接の引き金だった。これを契機に、新潟市も遅れていた学校教室のエアコン導入を急ぐことにした。

<運動会を地域ぐるみで支援>

内野小学校では昨年5月、運動会の熱中症対策に地域ぐるみで取り組んだ。当時、PTA会長だった徳山啓輝さんは「昨年の運動会では、豊田市の事故が気になっていた。『つながるプロジェクト』で地域との関係ができていたこともあって、『暑い日になる』との予報だった運動会前日、手持ちのテントをグラウンドに張ってもらえないかと自治会にお願いしました。当日には15ものテントを張ってくれて、撤去まで自治会がやってくれた。地域の力を実感しました」と振り返る。この時は、地域企業に子どもたちが体を冷やす氷の提供もお願いし、300キロの氷が届いたという。「それらの効果で、体調不良の子どもが少なくなった」と徳山さんは笑顔で語った。

内野小の中村芳郎校長は、「学校へのエアコン導入は、2018年の熱中症事故で新潟市でも急速に進みました。また、今年の新型コロナウイルスの感染では、5月末に文科省が各学校に100万円の対策費をつけてくれた。大規模校の本校では200万円いただけたので、特別教室のエアコンと攪拌用の扇風機を導入しました」と暑さ対策の強化について説明。内野小は今年、夏休みが2週間と新潟市内で最も短かったが、「長く暑い学校の夏も、どうやら乗り切れそうです」と語った。

<「地域総がかり」を先取り>

中村校長が特にありがたいと思うのは、運動会などの学校行事でも「地域総がかり」の態勢が地域で築かれつつあることだろう。と言うのも、新潟市では「未来を担う子供の豊かな成長を『地域総がかり』で支える仕組みであるコミュニティ・スクールを導入」(新潟市教委資料より)することを目指しているからだ。新潟市教委ではこれまで、市教育ビジョンで「学・社・民の融合」を掲げ、地域と学校との関係強化に力を入れてきた。地域と学校をつなぐ「地域教育コーディネーター」をいち早く全校に配置し、「地域と学校パートナーシップ事業」を推進。全国でも注目されてきた。

<「地域とともにある学校」とは>

新潟市教委では、その延長線上に「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」の導入を決めており、今年度は北区(葛塚中、葛塚東小)、東区(山の下中、山の下小、桃山小)、中央区(鳥屋野中、上所小、女池小)、南区(白南中、新飯田小、茨曽根小、庄瀬小)の12校が2年間のモデル校としてスタート。来年度は残りの4区で1年間のモデル校が決まり、2022年度からはすべての学校がコミュニティ・スクールとなる。かなりのハイピッチだ。

その学校像について市教委では、「本市の学校は、学校運営協議会を設置し、地域と学校が支え合い、ともに成長し、活性化していく『地域とともにある学校』づくりを進めていきます」としている。運営協議会のメンバーは保護者、地域、学校支援者らから選ばれ、国の法律に基づき校長や市教委に意見を述べることができる。現在の学校評議員より一段と重い役割が求められる。そして市教委の目指す学校像を具体化する「3つの姿」のうち、3番目に挙げられているのが「地域総がかり」の言葉だ。「保護者、地域、学校が一体となり、『地域総がかり』で子供の成長を支える体制のある学校」と表現されている。この体制が内野小学校では既に動き出しているように思える。

<「素地はあり、スムーズに移行できる」>

中村校長は、コミュニティ・スクールへの移行に自信を見せる。「コミュニティ・スクールを動かす前輪が運営協議会で、後輪が学校と地域の協働活動だと思っている」と言い、「うちは、現在の学校評議員の方にはコミュニティ・スクールの運営協議会を見据えて活動してもらっています。そのため、学校側も良い所だけ言って学校の方針を押し付けるのではなく、学校課題を含めて経営方針を説明しています。後輪となる協働活動は地域教育コーディネーターに道付けをしてもらい、PTAが動き出して、それこそ地域総がかりでやってもらっています。素地はあるので、スムーズに移行できると思う」と、言葉に淀みはない。内野小の「令和2年度学校経営方針」を見ると、確かに「学校課題」も明示されていた。①いじめ・不登校の未然防止・解消②特別支援学校の充実―がそれだった。
写真=内野小学校の令和2年度教育ビジョン。ここにも学校課題が明示されている

新潟市のコミュニティ・スクールが形を整えるものではなく、「地域総がかり」で子どもの成長を支えるものになる可能性を感じた。

<青空記者の目>

「コミュニティ・スクール」には、新潟市長時代の思い出がある。教職員の人事権を持つ政令市になる際、「人事権を行使するには、新潟市の目指す教育の方向を教育ビジョンとして明示する必要がある」と市教委にお話しし、新潟市教育ビジョンを作成してもらった。「学校を地域に開き、地域から支援される学校づくりを」との私の言葉を、「学・社・民の融合」との精神に昇華してくれた当時の関係者には感謝している。

「地域と学校の関係」を重視した市長時代だったが、コミュニティ・スクールには少し違和感があった。当時は、「教職員の任用」についてまで学校運営協議会の権限が及ぶように制度設計されていたからだ。その後、参考メモのように制度は改善された.一方で、新潟市で地域と学校の関係を強化してくれた地域教育コーディネーターの中には、「学校運営協議会ができることで、私たちの役割が変わるのでは…」と心配されている方が1年ほど前にはいたことも事実だ。新潟市のアドバンテージをさらに伸ばすコミュニティ・スクールづくりが前進することを願っている。

(参考メモ)新潟市教委が目指す「地域とともにある学校の姿」のうち、残りの2つの姿は①保護者、地域、学校が「学校運営の基本方針」を共有している学校②保護者、地域、学校で「社会に開かれた教育課程」を実現している学校―となっている。

また、学校運営協議会のメンバーについては、保護者や地域住民、学校支援者らから選任され、最大で15人とされている。メンバーは、「校長から学校の運営基本方針について説明を聞いて方針を共有しながら、学校運営や教育活動についても説明を受け、意見を述べる」こととなっている。その役割は国の法律によって規定され、①校長が作成する学校運営の基本方針を承認する②学校運営について、教育委員会または校長に意見を述べることができる③教職員の任用について、教育委員会規則で定める事項について、教育委員会に意見を述べることができる―とされている。新潟市学校運営協議会規則の第13条には、「特定の職員の任用に関する事項を除き、学校運営の基本方針の実現に向けた、また、学校教育上の課題解決に向けた教職員の任用について意見を述べることができる」と記載されている。

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました