文化が明日を拓く11

まちづくり

*文化が明日を拓く?!(11)*

<ウィズコロナ時代 江口歩さんの今③>

―「前に戻って!」の願望から、「新しい道」に転換を!―

―「コロナさんと一緒」、年末にイベント―

<「これは変革の絶好の機会なの」>

「社会課題を面白く」「俺たちは何でもあり」と、世の中のタブーや矛盾に切り込んできたナマラ代表の江口歩さんだが、今回のコロナ禍ではエンターテインメント業界も大打撃を受け、苦しんでいる。ただ、江口さんの性格として、下を向くことはない。「みんなコロナで大変だけど、耐えているだけではダメ。これは変革の絶好の機会なの」との姿勢は、苦しい中でむしろ明確さを増している。「コロナ禍を一つのきっかけとして、社会や地域を変えていく。やれることは一杯ある。エンタメを切り口にね」と江口さん。

写真=さまざま表情を見せるナマラ代表の江口歩さん

<3・11の自粛ムードにも一石>

やがて10年になる2011年3月11日、大震災が起きた後も江口さんの動きは速かった。世の中が「自粛ムード一色」に染まる中、江口さんは被災地・仙台のお笑い仲間の支援に走った。「あの時は、自粛、自粛で、イベントは軒並み中止でしょ。被害がまったくない地域でもね。ボクらは仙台に芸人仲間がいて、様子が分かってくると、家が流されて大変なことになっていた。どう支援しようかを考えて、お笑いコンビ2組を新潟に呼ぶことにしました。うちのアパートに住んでもらい、生活費を稼ぐために大型店などでイベントに出てもらった。そしたら、『不謹慎だ』『こんな時に、何でお笑いなんかやっているんだ』とクレームがくる。『いや、彼らは被災者で、大変なんです』と説明すると、『分かった。悪かった』と。彼らも『被害を受けていない地域は元気出してください。それが被災地の支援にもなる』と言ってくれ、マスコミも大きく取り上げてくれた」と江口さんは振り返る。ちょうど自らの本を出版するタイミングで、最初は「出版パーティーなんか、とんでもない」との気分だったが、敢えて全県で出版パーティーを開き、元気を注入した経験を持っている。

「それは3・11大震災時と今は違いますよ。今は、世界全体がコロナで大変なんだから。でも、世界すべてが一緒というわけでもない。大都市圏と新潟のような地方とは状況が違うのに、何で大都市圏に合わせないといけないの、って。今回も、できる所は工夫しながら動いていった方がいい」と江口さんは言う。「だって、感染症の専門家の言うことだって、予測と現実は大きく違っている。ボクのような門外漢が何か言うと、『素人は余計なこと言うな』って怒られるけど、専門家だって本当のことは分からない。例えば、外出による感染リスクと、外に出ないことによる心身の問題リスクとどっちが大きいのか?分かりませんよね。科学的に予測できないなら、感覚的に動いていくしかない。誰の言うことを信じるのか?こういう時代は自分で考え、自分自身で判断し行動していく。ある意味、自立するチャンスじゃないですか」と江口さんは続けた。

写真=「コロナは自立するチャンス」と語る江口歩さん

<ポストコロナに必要な機能は?>

そんなことを考え、発言している江口さんには、経済的に呼吸不全に陥っている多くの地域や商店街などから相談がくる。江口さん自身もある商店街の理事を務めてもいる。商店街や地域活性化に向けた取り組みを江口さんはどう見ているのだろうか。「今、活性化のためのおカネはあるんですよ。国も県も市も、いろんな支援策を考え、メニューを提示している。商店街も従来やってきたイベントやキャンペーンが中止になったから、その分おカネはあるの。でも、全国がそうなんですけど、『コロナ前に戻ってほしい』『以前のように賑わいが返ってきてほしい』との願望で頭が一杯になっちゃっている」と江口さんは言い、「ポストコロナとかアフターコロナとか人は言うけど、ボクは人の流れはある一定のところまでしか戻らないと思う。だから、『ポストコロナの時代に、まちや集客施設にどんな機能が必要なのか』―そこを考えて、別のやり方を仕掛けていくことが必要なのに、頭が切り替わらない。だから、ボクはフラーの渋谷修太さんのように新潟にUターンした若手に期待している。彼らはアプリとかAIという武器も持っているしね」と江口さんは心境を語った。

<「引きこもりのベテランに聞こう」>

江口さんは、自らの主戦場であるエンターテインメントの世界でも、新しいことを企画している。それもポストコロナ時代をにらんで、新しいやり方を考える契機をつくりたいからだ。その一つが年末の12月26日、りゅーとぴあ劇場で予定しているイベント「コロナさんと一緒」だ。パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」の代表者である月乃光司さんらと組んでの新しい企画だ。江口さんは、引きこもりやアルコール依存を体験した月乃さんを「コロナ時代の貴重な人材」と言う。「だって今、みんな引きこもっているじゃないですか。大学生だってリモート講義だしね。それなら、引きこもりのベテランに、引きこもっていてもできることや役立つことなんか教えてもらえばいいですよね。それで月乃さんと一緒に今、企画を詰めています。ポストコロナ時代に向けて、新潟にどんな機能があれば良いのか、どんな機能が必要なのか、それを考える機会にもしていきたい」と江口さん。年末に向けて、江口さんは動き出している。

<青空記者の目>

江口さんのコロナ禍に対する危機感は大きい。それはコロナという感染症への恐れだけではなく、「コロナ禍によって、社会が金縛り状態になってしまっている」ことへの危機感でもある。「耐えているだけでは、来年はもたない」と語る江口さんの表情はいつになく真剣だ。国は「Go Toキャンペーン」で動き出しているが、「感染防止最優先」と「GO To」の落差の大きさに、戸惑う市民は多い。

先日、千葉市の熊谷俊人市長と川崎の福田紀彦市長と私の3人でリモート会議をする機会があった。3人とも「世の中の風潮として、外出などの行動に厳しい発言をする首長が評価され、工夫して外へ出ようと言う首長が批判されがちである」ことに対し、強い疑問を持っていることで一致した。熊谷市長は「地域包括ケアや健康寿命の延伸などの取り組みを後退させてはいけない」と語り、福田市長は「高齢者が外に出なくなっている。これが長期化するとコロナより、介護度や認知症のリスクの方がはるかに顕在化してくる」と警鐘を鳴らしていた。私もまったく同意見で、「ただ、引きこもっていれば良い、という話ではない。どう工夫して地域住民の心身の健康を守るか。これが首長の大きな仕事」と言わせてもらった。新潟でも江口さんの言動を孤立させてはいけない。

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