文化が明日を拓く10

まちづくり

*文化が明日を拓く?!(10)*

<ウィズコロナ時代 江口歩さんの今②>

 ―居酒屋とIT企業をマッチング―

   ―「ポストコロナへ、新しいやり方が必要」―

<新しいネットワークを>

10月28日の夜、新潟市の「ホテルイタリア軒」にナマラ代表の江口歩さんの姿があった。江口さんが進行を取り仕切る会の名は「にいがた 未来・創新会」。この会は、新型コロナウィルスの感染拡大に対応して、以前からの会を衣替えしたもので、会則には、「ウィズコロナ時代を見詰めながら、これからのポストコロナ時代を展望し、新潟の未来を切り開こう」との趣旨が盛られ、経済人や新潟市議ら70人近くが集まっていた。会の代表には今夏から私、篠田昭が就任させていただいている。代表幹事には新潟市議会の最大会派「翔政会」を率いる古泉幸一さん、顧問には中原八一・新潟市長やNSGグループ会長の池田弘さん、前亀田商工会議所会頭の古泉肇さんらが名前を連ねている。江口歩さんは幹事の主要メンバーだ。この日は、今年度初の創新会研修会で、メインスピーカーは(株)「フラー」の渋谷修太・代表取締役会長だ。

写真=「創新会」のトークセッション。右から渋谷修太さん、和田亮さん、品田裕志さん、江口歩さん(ホテルイタリア軒)

「渋谷さんに講演を頼もう」と、強く推したのは江口さんだった。「だって、コロナの感染が広がってきた大変な時、渋谷さんは首都圏から自分が育った新潟市に帰ってきた。IT関係の社業も新潟を拠点とし、リモートを駆使して事業拡大を図っている。そんな渋谷さんは、これからの時代を考える上で最高の講師でしょう」と、江口さんは渋谷さんを推した理由を説明する。前回のブログで、江口さんが金森穣さんと公開トークした「柳都会」を紹介した。そこで、金森さんから「いま関心を持っている人は?」と聞かれ、江口さんは「新潟の若手で、面白いことをやり出している人たちがいる。新しい『こと』を起こして、この時代に変化を生み、刺激を与えている人たちが出てきた」と答えた。どうも、その一人がフラーの渋谷さんのようだ。

<6月に千葉から新潟へUターン>

ここで、渋谷さんの横顔を紹介しよう。渋谷さんは新潟市の中学校を卒業後、長岡高専―筑波大で学んだ。23歳でモバイルのアプリ事業を起業し、経済誌「フォーブス」で「アジアで注目される30歳以下の30人」の一人に選ばれている。事業の本拠地は千葉県だが、新潟市にも支社を開設した。長岡花火をアピールするアプリを提案・製作、100万人が利用するなどの実績を県内でも積んでいる。コロナの感染が広がり、自宅勤務やリモート会議などが日常的になるのを見て、「どこに住んでも仕事ができる時代。それなら出勤時の混雑がなく、自然が豊かで食べ物のおいしい新潟にいた方が良い」と、6月に新潟市に居を移した。「新潟に帰ってきたのは大正解。今年の夏は、友達らとバーベキューをやり放題。新潟の海や自然も満喫しています」と語る32歳だ。

<「長岡だけではもったいない」>

渋谷さんは、この日のミニ講演でも「新潟愛」を前面に出し、新潟での暮らしがいかに素晴らしいかを語った。「新潟にずっと暮らしている方は、その素晴らしさが分かっていないところがあります。これは本当にもったいない」と渋谷さん。アプリ事業でも、「もったいなさ」を感じているという。「長岡花火のアプリは、100万人が見てくれているけれど、そこでの情報は長岡のものばっかり。もったいないですよね。そのアプリを見ている人たちに、例えば、新潟の「酒の陣」や高田の夜桜、苗場の「フジロック」、佐渡の「アースセレブレーション」などの情報を流せれば、新潟全体が活性化します」と、今の状況を語った。

今後の夢についても多くを語ったが、その一つを紹介しよう。「アメリカには『サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSE)』という音楽・映画・インタラクティブをテーマにしたビジネス会議・商談会・フェスティバルがあって、『世界で最もチケットが高い』と言われるほど人気があります。でも、そこはテキサスで食べ物がハンバーガーばかり。正直言って、まずい。新潟なら、さっき言った新潟のイベントをミニ版で良いから集め、10日間ぐらいやるフェスティバルにしたらどうでしょう。食べ物がおいしい分、SXSEより魅力的になると思う」―という具体アイデアだった。

写真=「五郎グループ」和田亮さん(中央)の話を聞く渋谷修太さん(右)。左は「一家グループ」品田裕志さん

<2人の居酒屋チェーンリーダー>

渋谷さんのミニ講演の後が江口さんの出番だ。新潟市内で居酒屋チェーンなどを経営する「五郎グループ」の和田亮さんと、同じく「一家グループ」の品田裕志さんが登壇。江口さんの進行で、トークセッションが展開された。和田さんは、コロナの感染が急激に広がった3~4月に店を改装したという。「一番お客がこない時に、コロナ仕様に改装しました。マスコミが注目して取材に来てくれ、『国などの支援は十分ですか?』と聞く。私に『支援が不十分』と言わせたかったのでしょうが、さまざまな支援を組み合わせて対応していたので、『工夫次第。やりようはあります』と答えた」と言う。5年ほど前、「居酒屋甲子園」で日本一になった品田さんは、「今回のコロナで、居酒屋の3割はやめることになるでしょう。でも、今回やめる店、つぶれる店は、コロナがこなくとも、やがてつぶれる店なんです。そういう覚悟でやっています」と決意を語った。

<来年、新しい試みに挑戦>

和田さんは既に渋谷さんと組んで、国などへの提案も出してきたという。2年連続で中止とせざるを得なかった「にいがた酒の陣」について、2人は県酒造組合の役員と話合い、来年は「三密」を避ける形で新潟の地酒の素晴らしさをアピールする方策を探っている。品田さんも来年、一つのイベントを仕掛ける準備を進めている。これまで横浜で開催されていた「居酒屋甲子園」を新潟市で開催すべく、関係者との話し合いの詰めに入っているそうだ。渋谷さんは品田さんとは初対面だったが、その覚悟と行動力に意気投合して話が弾んだ。今回の会合を契機に、居酒屋・酒文化をアプリで発信する新しい試みが生まれるかもしれない。

<「編集工学が大事」>

江口さんは、新潟の誇るべき文化の一つである居酒屋で頑張っている二人と、新潟に新しい風を送り始めた渋谷さんを出合せることで、新潟に新たな変化が生まれることを期待しているようだ。江口さんは、「今、新潟にいる人材と、新潟にある社会資源をマッチングするだけで、すごいことができる。ボクは松岡正剛さんの言う『編集工学』が大事だ、とずっと思ってきたけど、ウィズコロナ時代でもマッチングが良ければ突破口が開けますよ」と言い、「コロナで今、世界も日本も金縛り状態ですけど、エンタメを絡めてマッチングしていけば、こんな風に元気出していける、生きていける、という実例をつくりたい。日本は、『万が一、感染者が出たらどうする』という圧力にすくんでしまっているけど、ボクらは批判されることは恐れないから…。面白い編集者になって、エンタメを駆使して、新潟を明るく元気に動いていけるモデルにしたい」と語るのだった。

<青空記者の目>

コロナの感染が広がった後、初めて開かれた「にいがた未来・創新会」の研修会は大いに盛り上がった。「久しぶりに元気の出る話をきいた」「きょう聞いた夢を、一つでもいいから実現したい」などと、参加者は感想を語ってくれた。これは講師陣の人選が良かったのだと思う。江口さんの言葉を借りれば、「若きIT起業家と、志ある居酒屋チェーンリーダーとのマッチングの良さ」であり、そこに本音を引き出す江口歩のトーク進行という「編集工学」が加わった結果、わくわく効果が倍増された。

新潟にUターンした渋谷さんは、ネットワークをつくる効果の大きさも十分に認識しているようだ。若手経営者や起業家、研究者らがスクラムを組んで、「新潟ベンチャー協会」(NVA)を既に立ち上げてもいる。渋谷さんが代表理事だが、NVAの顔ぶれを見てチームとしての可能性を感じる。22日には新潟市でビジネスコンテスト「NVAピッチ」を開催した。若い社会人や学生のアイデアを事業化す試みで、「おカネだけでなく、人脈や知識など、トータルで支援していきたい」と渋谷さんは言う。NVAのチーム力にも期待したい。

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