にいがた「食と農」の明日(2)

まちづくり

*にいがた「食と農」の明日2*

<ウィズコロナ時代 居酒屋の今②>

―「このままでは街が死んでしまう」―

―「みんな負けるなよ!今日も心に太陽を」―

<居酒屋魂を体現、品田裕志さん>

写真=自らの店舗「BAKEUP」で、コロナ禍の居酒屋の状況について語る品田裕志さん。情勢は厳しいが表情は明るい

小さい時から、料理が好きだった。品田裕志さんは高校を卒業後、何の迷いもなく大阪の調理師学校へ行き、卒業後、割烹で修業に入るがすぐに全国の有名大型飲食店にスカウトされ、店長に。27歳で新潟に戻り、回転寿司店の立ち上げに携わり5年間統括を務めた後、自らの店「一家」(いちや)を開いた。今は新潟市内に居酒屋を3店、ベーカリー&カフェ2店舗を経営する「一家グループ」を率いる。「居酒屋甲子園」で全国の頂点に立った今も、飲食の現場が好きで、時間があれば板場に立っている。品田さんは、「居酒屋魂」を体現しているような人だ。

<「夜の街」都知事のあの一言が…>

そんな品田さんもこの10カ月、コロナの逆風を全身に受けてきた。「夜の街…。都知事のあの言い方からですかね。ナイトクラブなど接客業に焦点を当てないようオブラートに包んだのかもしれないが、あの言い方で飲食店全部が悪になってしまった。大変なマイナスインパクトでした。でも、飲食店の光があるから、夜の街が生きている。夜の街を照らしているのは、飲食店です。このままでは、街が死んでしまいますよ」と品田さんは言う。

品田さんは、新潟の飲食を盛り上げる「NPO法人新潟維心の会」の理事長として、新潟の飲食を内外に発信・実践してきた。そんな品田さんが投稿するフェースブックには、「飲食人」に対する励ましが溢れている。「みんな負けるなよ!」「飲食人の皆さん、手を取り合って頑張りましょう!」「今日も心に太陽を」などのフレーズが並ぶ。12月13日の投稿に、新潟市で2016年に開催した一大イベント「第3回居酒屋大サーカス」の動画をつけ、「全国の愛すべき飲食のみんな~、この動画見て元気出していこう!!」などと綴ったのも、飲食人への熱いエールだ。品田さんは全国47都道府県の食を集めて盛り上げる「居酒屋大サーカス」を運営する一般社団法人「IZAKAYA NIPPON」の専務理事でもある。

<偏見だけはやめてほしい>

「夜の飲食が悪いと言われるが、飲み方によります。そりゃあ、回し飲みはダメですよ。勢いでそれをやっている若者グループもいるから、それはダメだって。高知はご返盃文化があるから、『返盃はやめてください』と行政も呼び掛けている」と品田さんは言う。行政には、しっかりとした情報伝達・啓蒙は求めるが、行政からの支援に期待はしていない。「私は行政からのばらまき支援はいらない、助成金もいらない、というのが基本的立場です。そりゃ、この状況なので筋の通る支援は受けますが、夫婦お二人でやっている店も、うちのように80人雇っている店も、『一律いくら』なんてやめてほしい。血税なんですから。ばらまきと見られることはやめるべきです。まぁ、皆さんへの一番のお願いは、『夜の飲食店は悪だ』との偏見だけはやめてほしい。そう思っているんです」と品田さんは訴える。

「お客さんから『お宅の店のコロナ対応は大丈夫か?』なんて聞かれると、私は『心配なら、来ないで結構です』と言っちゃう。プロの私たちは全力を挙げ、感染予防対策も最大限やっています。こっちは飲食が好きで、お店で皆さんの喜んでくれる様子を見るのが好きなんです。普通に商売できる環境があれば、感謝の気持ちで頑張りますから、少しで良いから応援してほしいんです」とも心情を語る。

写真=品田裕志さんのプロフィール(左)と「一家グループ」の店舗紹介

<現金での支払いはわずか1割>

一番の稼ぎ時、12月の賑わいはどうか。「ここにきて第3波が広がってきてから、『個室はありますか?』って問い合わせが増えています。特に公務員やお堅い職業の方が慎重になっている。まだ月半ばの段階ですが、大雑把にいって例年の半分でしょうか」と品田さん。国から「GoToトラベル」の一時停止が発表され、後半はさらに厳しい展開が予測される。「国のやっていることはチグハグで。ぼくらは別に遠い所から来てもらわなくても良いんですけど…。『国は一体どうするんだ、どうしたいんだ?』と聞きたいですよね」とも言う。

これまでも「GoToイート」などのキャンペーンを国は続けてきた。その影響はどうか。「例えば、売り上げを100とすると、今はGoToいーとなどの食事券が7割、クレジットが2割で、現金が1割だけなんです。みんな今、現金がほしい、現金に飢えているのに、現金が入るのは3週間後、みたいな感じ。飲食はみんな自転車操業。そこで稼ぎ時の12月に期待していた店が多かったから…。いろいろ借金もしているし、みんな心が折れ掛かっているんじゃないかな」と品田さんは仲間たちを気遣う。

「われわれ飲食関係は、国の働き方改革もやめてほしいと思っています。働く時間を減らすために、惣菜店で刻んだ食材を盛りつけているようでは、和食の職人がいなくなります。下の世代が育たたない。『大きな後ろ楯がなくてもやっていくんだ』という気概でやってきた人間が飲食には多い。だから、政治にも頼らない、選挙にも行かない、という連中が多いんですよね。まとまったら、すごい力になるのに」と品田さんは本音を語る。

<「当日日キャンセルだけはやめて」>

弱音を吐かない品田さんだがコロナの逆風に加え、「キャンセルなんて当たり前」というような風潮には我慢がならないようだ。「いくら何でも、当日キャンセルはやめてほしい。いろんな店が『当日キャンセルはお断り』『当日キャンセル料100%』と表示していても、当日キャンセルして当たり前のように一銭も払わない。飲食業界には深い傷になっています」と品田さんは言う。「政治になんか頼らない」―ずっとそう思ってきた品田さんも、「当日キャンセルを許さない法案とか、できませんかね。これだけは政治にお願いしたい気分です。要は飲食店が当たり前のように商売できる環境に戻ってほしいだけなんですけどね」と品田さん。

人生意気に感ずる生き方で、これまで飲食業を引っ張ってきた。本来なら東京オリンピック・パラリンピックが開催された今年は、店主として、「新潟維心の会理事長」として、新潟の食を世界に発信していく年のはずだった。そして来年は、これまで横浜で開催されてきた「居酒屋甲子園」を新潟市で実施し、新潟の居酒屋のレベルの高さを広く国内外に示す機会にすることにしていた。そこにコロナ禍が襲った。しかし、品田さんはへこたれてはいない。「居酒屋甲子園」の新潟開催の準備も進めている。「やれることはやるつもりで、8月の朱鷺メッセはすでに押さえてあります」と品田さん。「ストレス解消ですか?コロナが収まり、世の中が良くなった時に、こういうことをしたいって、いつも考えています。その時の光に向けて仕込みをしておくことで、今は我慢の時でしょうか」と、品田さんは苦笑しながらも前を向いている。

<青空記者の目>

2016年、新潟市のお店では前年の秋山武士さんの「燕三条イタリアンBit新潟店」に続く、「連覇」となった。その時会った品田さんの言葉にびっくりした。「新潟市には、うちクラスのの居酒屋は一杯あります。そいう店がやる気になれば、もっと勝ち続けられます」というものだった。普通は全国一になれば、「いかにうちの店が優秀か」を自慢するものだが、品田さんは新潟の居酒屋レベルの高さを力説したのだ。その後、2018年には「サムギョプサル専門店 ベジテジやSoi新潟万代店」が優勝し、新潟勢は4年間で3回、全国の頂点に立ったのだった。新潟の居酒屋レベルの高さは実証されている。

今回の取材で、話が来夏の「居酒屋甲子園・新潟開催」のことに及ぶと、品田さんは「その頃、オリンピックはどうなっているんでしょうね」と聞き返し、「首相や都知事には会見の度に『オリンピックはどうするんですか?』って聞いてほしいですよ、覚悟のほどをね」と続けた。これまで人一倍の情熱で居酒屋・飲食業界を引っ張ってきた品田さんは、コロナに立ち向かう国や東京都の本気度を確かめ品田さん率いる「一家」グループの「旬海佳肴一家」が「居酒屋甲子園」で全国の頂点に立った。てみたいようだった。

 

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