「茶の間」再開15

まちづくり

*「実家の茶の間」再開*(15)

―「より重要性を増した 住民主体の助け合い」―

<河田珪子さんに今後の課題を聞く>

2020年7月31日

「実家の茶の間・紫竹」が再開して2カ月が経とうとする7月22日、実家の茶の間運営委員会代表の河田珪子さん(76)に、「地域包括ケアシステム」の今後や、河田さんが取り組んできた「住民主体の助け合い」についてインタビューした。

写真=「実家の茶の間・紫竹」の事務室で、電話応対する河田珪子さん。ホワイトボードには、行政と住民組織との協働の模式図が描かれている

 

<コロナで、より厳しくなる財政>

―超高齢社会が進行する日本で、国は団塊の世代がみんな75歳以上になる2025年までに、地域で医療・介護が受けられる「地域包括ケアシステム」を構築することとしています。そんな大状況の中で新型コロナウイルスの感染が広がりました。介護保険制度や地域包括ケアシステムにも影響が出ることは避けられません。

河田珪子さん これまでも介護保険制度は財政面からの制約を受けてきました。そこに今回の新型コロナでしょう。国や自治体の財政に大きなダメージを与え、介護保険への公的支援はより厳しくなるでしょう。地域包括ケアの準備について、掛け声のトーンは落ちたかもしれません。でも、2025年に向けて国は頑張らざるを得ない。これしか道はないのですから。私は、団塊の世代がみんな85歳を超す「2035年が一番大事だ」と国は考えているように思います。私たちの目的は一つ。「いつまでも安心に暮らせる地域をつくっていく」ことです。ここは、ぶれずにやっていく。新型コロナで、地域包括ケアのことが今はあまり話題に上らなくなっても、2025~2035年に備えていく取り組みは、これからかえって密度を濃くしていかなければなりません。国の財政が厳しくなれば、なおさら地域の自主的な取り組みが重要になりますよね。私は、住民主体の助け合いを根付かせる必要性が一層増した、と思っています。

<「公助」と「共助」だけでは無理>

―河田さんは、日本が高齢化社会の入り口に立った1990年代から「地域での安心な暮らしを、住民同士の力で築く」ことに強い関心を持たれ、「地域の茶の間」や有償の助け合い「まごころヘルプ」を育ててきました。これは新潟という地域の「宝」となり、その延長線に新潟市との協働事業として地域包括ケア推進モデルハウスが始まり、「実家の茶の間・紫竹」がその第1号となりました。一方で、超高齢社会の流れは、さらに速くなっていますが、現状をどう考えていますか。

河田さん 先日も「老老介護の割合が増えた」とマスコミで報道されていました。高齢化が進むのですから、ある意味、当然です。私は40代に夫の両親を介護した時に「介護される側も、介護する側も、大切にされる。みんなで助け合う地域をつくりたい」と強く思いました。この必然の流れが細くなることはないでしょう。私たちはこれまで、介護保険制度の対象にならない、多くの困りごとについて、「住民同士が助け合って、安心に暮らせる地域づくり」を目指してきました。介護保険について、これまで「在宅介護を担うヘルパーさんのニーズは高くない」と言われてきました。でも、それは「ニーズがない」んじゃなくて、介護保険の在宅サービスが少なすぎるからですよね。あの空白だらけのサービス密度では、在宅で介護を受ける暮らしが成り立ちません。かと言って、そのすべてを公的支援(公助)や保険(共助)でやることも無理でしょう。今回の新型コロナで、いろんなところにおカネが出ていくわけだから、それはさらに明らかになった。結局、介護保険の在宅サービスと、私たちが取り組んでいる「お互いさま・新潟」のような住民同士の助け合いを組み合わせる以外にない、ということだと思います。

<「お客さまにしないことが大事」>

―新型コロナウイルスで大変な状況が広がる中、河田さんたちが切り開いてきた「住民同士の助け合い」の重要性がますます高まってきました。「住民同士の助け合いを広げるには地域の総合力を高めることが大事」と河田さんはよくおっしゃいます。

河田さん 私は20年以上前に、「地域の茶の間」という名前を地元記者さんにつけてもらった時から、「地域」という言葉を「社会性のある」と捉え、「地域との関係性」を重視してきました。それは2014年秋に、新潟市との協働事業で「実家の茶の間・紫竹」を運営した時も同じ。私たちはご近所のつながりはもとより、地域の小学校や保育園など子どもたちとの関係、自治会や老人クラブなど地縁組織との関係を大切にしてきました。実家の茶の間が空いている日には、自治会や老人クラブに使ってもらうよう、関係づくりを進めてもきました。今は、それぞれの組織を超えて一住民としてできることから助け合い、協力する気風ができてきたように思います。その結果、自治会や老人クラブの役員の方が大勢、実家の茶の間に顔を見せてくれています。

「地域との関係や地縁組織を大切にする」と言うと、「では、地縁組織を主体として助け合いをやったらどうか」とおっしゃる方がいますが、私は「それは違う」と申し上げてきました。自治会などは行政と同じで、得てして命令系統の縦組織になっています。これは「助け合い組織」には向きません。私たちは、茶の間に来られる方はみんな「場の参加者」と考えています。「何か、やってもらおう」として来られる方はいらっしゃらない。私たちの方は「何もされずに、自由に過ごしていらして良い」を茶の間の基本にしていますが、体の利かない方もお年寄りの方も「できることはやっていただく」ようにもしています。そうすると、来られる方も「何か、できることをやりたい」との気持ちになっていかれる。一人も「お客さま」をつくらないようにする。それが「住民主体」を広げていくポイントじゃないでしょうか。だって、「自分が役に立つ」ということはすごく嬉しいことじゃないですか。「主体者」になるとは、そういうことじゃないでしょうか。

<「生活支援」の土壌を豊かに>

―河田さんたちのこれまでの取り組みは、新潟だけでなく、多くの地域に大きな刺激と励ましを与えてきたように思います。「それぞれが主体者になる」取り組みは、「参画型民主主義」の最も大事なポイントですね。

河田さん この紫竹地区で、地域包括ケア推進モデルハウス第1号の「実家の茶の間・紫竹」の取り組みが評価され、多くの方々がさまざまなことに協力してくれています。助け合いの気風ができていて、「地域の総合力がすごく高い」と感じています。地域のことを「税金でやってくれる」「役所がやってくれる」と他人ごとにしていては、自分の知力も体力も落ちてしまう。地域の総合力は高まりませんよね。「この地域で安心に暮らしていく」ことを他人任せにするのではなく、「どうすれば?」「自分にできることは?」と自分事として考え、主体的に動いていく人が増えていくことで、「地域の総合力」は上がっていくんじゃないでしょうか。

私はいつも平成25(2013)年に国の研究会がつくった「地域包括ケアシステム」の図を思い出しながら助け合いに取り組んできました。あの植木鉢の絵ですね。「医療・看護」「介護・リハビリ」「保険・予防」の3つの葉っぱを支える土壌の部分ね。あの「生活支援・福祉サービス」という土壌を豊かにするのが私の役割だと思って、これまで動いてきました。「実家の茶の間・紫竹」を始めるよう、新潟市にお願いしたのも、あの図がきっかけでした。いま思うと、私が夫の親の介護のため新潟に帰って来た時は、その土壌は瓦礫だらけでしたが、今は随分変わって、良い土になってきた。もう少し、地域全体の意識が変わってきた時、「お互いさま・新潟」のような助け合いがうまくいくようになると思う。土壌が豊かになるって見えにくいけれど、私は地域に助け合いの気風が広がり、土壌が随分豊かになってきたと思っています。焦らずに、着実に、でしょうかね。

図=2013年に国の研究会がつくった「地域包括ケアシステム」の図を基に、3枚の葉っぱと植木鉢をクローズアップした図。インターネットから引いた

<青空記者の目>

河田さんは、国の研究会が作成した図を基に「地域包括ケアシステム」の今後を語った。「住民主体の助け合い」が根付いていくには、3つの葉っぱを支える土壌を豊かにする必要があると言う。その土壌を豊かにするには、地域の総合力上げていくことが必要だとも言う。新潟市初の地域包括ケア推進モデルハウスである「実家の茶の間・紫竹」が新潟市東区紫竹にできて5年半。地域の老人クラブや自治会などの地域組織は、地域包括ケア推進モデルハウスが開設され、共に動いてきたことで、大きく変わったように思う。新型コロナの後、実家の茶の間を再開するために河田さんたちは検温をして、換気に留意するなど「三密」を避け、消毒など衛生面での実践を徹底して行った。それを体感した老人クラブの役員は、カラオケ会合再開の是非を聞かれ、「再開するには、やることがまだある」との意見を述べられていた。7月に、実家の茶の間で会合を開いた自治会の方は、市の衛生面のガイドラインを自主的に学び、当然のようにガイドライン通り会を運営したという。地元だけではない。河田さんたちの取り組みは、「実家の茶の間・紫竹」の視察や、「茶の間の学校」「助け合いの学校」の受講を通して、県内外の広い地域に伝わり、各地で「地域の総合力」を高めているように思う。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました