いま内野小学校は?6

まちづくり

*いま内野小学校は?(6)*

<ナイジェリア大使がやってきた>

―「小さな縁」、校長が逃さずゲット―

―温かい歓迎に、「すごい学校だ!」と大使―

<民間人校長の「反応力」>

それは、小さなきっかけだった。大手商社マン出身の中村芳郎・内野小学校校長は10月29日夜、新潟市内のホテルで開かれたパーティに顔を出した。そこに、同じく大手商社マンから今は地元の新潟に戻った高橋克郎・愛宕商事社長が出席していた。旧知の2人が言葉を交わしているうち、高橋さんから「この週明け、ナイジェリア大使が新潟に来るんですよ。1日に歓迎会を新潟市でやるんですが、来ませんか」とお誘いがあった。聞いてみると、11月1日(月)に用務で柏崎市を訪れ、新潟市で歓迎会の後、翌2日には新潟東港を視察するらしい。話では、どうも日程にはまだ空きがあるようだ。「うちの小学校に来てもらえませんかね」と、中村校長はすかさず切り出し、高橋社長もその言葉に直ちに反応した。こうして、あっと言う間にフセイニ・アブバカ・モリキ駐日ナイジェリア連邦共和国大使の内野小学校への訪問が決まった。

<内野小へ、急転直下の展開>

ナイジェリア大使の柏崎市の用務とは、アルバネクス本社を訪ねることだった。同社は冷凍機器を扱っており、食べ物が暑さで傷みやすいナイジェリアでは優秀な冷凍機器が求められている。フセイニ大使はアルバネクス社を訪ね、自分の目で冷凍機器の生産現場を確かめることにした。同社の案内役、山田詩乃武副社長は佐渡の人間で、本当は佐渡まで大使をお連れしたかったが、今回は時間が足りない。「どこか良い視察先はないか」と高橋社長にも相談していたのだ。そこで急転直下、内野小学校への訪問が決まった。月曜日のアルバネクス社視察の後に行われる新潟市のホテルでの歓迎会にも、急きょ中村校長をはじめ内野小学校関係者も参加させてもらうことにした。しかし、土日を挟んで3日間しかない日程で、本当に大使の受け入れができるのか、不安がなくはなかった。

<地元の通訳も「出る必要なしです」>

そして迎えた2日朝、フセイニ大使は公使ら3、4人を従えて、内野小学校にやってきた。中村校長は欧州駐在時代に鍛えた英語力を駆使し、英語が公用語のナイジェリア大使らを迎えた。内野小PTAに通訳も務められる人材もいてスタンバイしていたが、「私が出る必要はありませんでした」と苦笑する一幕もあった。また、出迎えた学校関係者の中には、以前このブログで紹介した地域づくりグループ「スマイル ストーリ」のメンバーもいて、大使館員らの世話を焼いていた。

<大使のアンサーに、どよめきが…>

中村校長はまず4年生の教室に大使らを案内した。校長が大使を紹介し、子どもたちとの交歓が始まった。子どもたちは3人が代表となって質問を用意。まず「ナイジェリアでは、どんな食べ物があるのですか?」との問いに、大使は「おコメがとれますよ」とアンサー。子どもたちに「おーっ」と、どよめきが広がった。続いて「ナイジェリアで訪ねて面白い場所はありますか?」との質問には、「新しい首都がいい。日本人建築家の設計した建物もあります」と答えられた。最後の質問は「お休み(祝日)行事にはどんなものがありますか?」というもので、大使は「ナイジェリアでは宗教絡みの行事が多い。キリスト教徒はクリスマスが一番のお祝いだし、イスラム教徒には断食(ラマダン)の習慣があり、断食明けにはみんながご馳走でお祝いしますよ」と答えていた。子どもたちにとっては、驚きの連続だったようだ。

写真(左)=4年生の教室で、子どもたちの質問に答えるフセイニ大使(中央)。左が中村校長。(右)は教室の後ろで、まず授業を参観するフセイニ大使。子どもたちが振り返って歓迎した

次いで、5年生の英語の授業を視察した。この日のテーマは「どんな食べ物が好きですか」というものだったが、大使は映像を使った英語の授業に関心がありそうな様子で、興味深げに授業を参観。後半は自ら教壇に立ち、アルファベットの書き方で日本とナイジェリアに違いがあることなどを説明していた。

写真(左)=5年生の英語の授業で教壇に立つフセイニ大使(左)。写真(右)=黒板の前に立つフセイニ大使

<市長出身校と聞き、「さもありなん」>

次いで教室から多目的室に移動し、「歓迎会」に移った。歓迎会場にはナイジェリアと日本の国旗が飾られ、正面の白板には子どもたちが書いた「ようこそ内野小学校へ」との大きな文字が躍っていた。歓迎式に入ろうとすると、ナイジェリア側からハプニングのプレゼントが―。オルガンがあるのを見つけたナイジェリア公使が演奏し、ナイジェリア国歌が披露された。その後、内野小学校の子どもたち代表チームがおコメやチューリップなど新潟の名物や、「さくら学校」と呼ばれている内野小の誇りのサクラなどを紹介。折り紙でつくった鶴やコマなどがナイジェリア側にプレゼントされた。

写真(左)=歓迎会で子どもたちの説明を聞くフセイニ大使。写真(右)=歓迎会を終えて子どもたちと記念撮影

フセイニ大使は、この歓待に大変喜ばれた様子で、「ここは素晴らしい学校だ。こんなに良い学校なら、さぞかし重要な人物を輩出しているだろう」と発言。中村校長が「今の中原新潟市長が、この学校の出身です」と答えると、大使は「さもありなん。グレイト」という感じでうなずき、場がさらになごんでいった。

写真(左)=歓迎会で子どもたちから記念品を受け取り、披露するフセイニ大使。写真(右)=歓迎会の後、子どもたちと交歓するフセイニ大使

<最後に特別支援学級を視察>

そして最後が、内野小が力を入れている特別支援学級の視察だった。ここでも時間がない中、素晴らしい歓迎の準備がされていた。大使一行が教室に入ると、早速、映像機器を使って子どもたちにナイジェリアの位置を確認。次に先生から緑・白・緑のナイジェリア国旗について、「緑は農業、白は平和を意味しています」との説明があると、大使らは満足そうにうなずいていた。さらに一行を喜ばせたのが国旗の図柄を使ってコマをつくる取り組みだった。日本国旗をイメージして、あらかじめ作っておいたコマを回す映像を披露したが、日の丸なのでこれは当然のことながらあまり見栄えがしない。次にナイジェリアの国旗を模したコマを回すと、これは綺麗な模様を描いた。次いで、ナイジェリア国旗に日の丸を2つ、あしらった図柄のコマを回すと、さらに見事な模様を描いた。まるで「交流の素晴らしさ」を表現するかのようなミニ・パフォーマンスに教室からは思わず拍手が沸いていた。

写真(左)=映像でナイジェリア国旗の意味を説明する教員。写真(右)=特別支援学級の授業を視察するフセイニ大使

<青空記者の目>

こうして、フセイニ大使らの内野小訪問は終わり、校舎をバックに関係者と記念撮影の後、一行は次の目的地、新潟東港に向けて出発した。約2時間の限られた日程だったが、内容は極めて濃い国際交流となった。フセイニ大使らは、子どもたちからの手づくりのお土産を手に学校を後にしたが、内野小に強い印象が残ったのではないか。内野小の後、東港の視察に同道した高橋社長は「ナイジェリアはアフリカで一番の人口大国で子どもたちの数も多く、教育は大きな課題になっている。大使にとって内野小の訪問は有益で、新潟のアピールにもなった。このように即応できるネットワークがあることも新潟の魅力として伝えることができた」と語っていた。

今回の大使訪問で記者が驚かされたのは、短時間の中でこれだけの交流スケジュールをつくった内野小のチーム力だ。何より、たまたまの出会いで聞いた「ナイジェリア大使、新潟訪問」の情報を聞き流さず、自らの小学校訪問に結びつけた中村校長の行動力・反応力には驚かされる。これも商社マンの時に培った、VIPと付き合うノウハウや英語力の裏打ちがあるからなのだろう。さらに、中村校長の4年間で磨かれた教職員の対応力と、PTAをはじめとする内野の地域力に対して中村校長が強い自信を持っているから「大使の訪問受け入れ」が即断でき、これだけのもてなしが実現したのだと思う。

もっとも、この展開に驚いたのは記者だけではなかった。PTAや「スマイル」のメンバーも、「中村校長のスピード感は並じゃないですよね」と言いながら、歓迎会にも何人かが参加。時間がない中で、教職員も見事に訪問を受け入れた。フセイニ大使は来年度、内野小が開校150周年を迎えることについても熱心に聞いていた。ナイジェリア大使館と内野小学校の交流の第2幕があるかもしれない―そんな気持ちになったフセイニ大使の訪問だった

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