実家の茶の間 新たな出発(特別編)

まちづくり

*実家の茶の間 新たな出発(特別編)*

2022年10月16日

<8周年機に関係者アンケート>

―「モデルハウス」の意義、改めて確認―

―「助け合いの気風」 着実に育つー

<53人から聞き取り方式で実施>

新潟市の地域包括ケア推進モデルハウス第1号である「実家の茶の間・紫竹」(東区)は2022年10月17日、「運営8周年」の記念日を迎える。運営委員会代表の河田珪子さんらは、8年間の取り組みを振り返り、モデルハウスとしての役割をどの程度果たしてきたかを評価する関係者アンケートを9月上旬から実施。利用者やお当番さん、サポーターら関係者53人に聞き取り方式で答えてもらった。そこから浮かび上がってきたのは、河田さんたちが目標としてきた「助け合いの気風育て」が着実に実をつけつつある現在の姿だった。「8周年アンケート」について紹介する。

写真=遊びに来た子どもたちの世話をするサポーターの武田實さん

<コロナ禍で3回目の周年事業>

今回迎えた「8周年」はコロナ禍の下での3回目の周年事業となった。コロナ前の周年事業は利用者や関係者が集い、毎回、新潟市長らを招いて、まさに祝祭のような催しだった。2019年の5周年の時は、3つの座敷を開け放った大広間に百数十人もが集まり、「茶の間の床が抜けるのでは‥」と、河田さんらが心配するほどだった。みんなでお弁当や紅白饅頭を食べ、実家の茶の間の思い出話などに花を咲かせた。コロナ禍の中でも6周年(2020年)では、黙食を徹底してカレー昼食を提供した。昨年の7周年はお昼の提供はできなかったものの、「これまでを振り返り、これからを考える」写真展をメインにして、市の地域包括ケア推進モデルハウス第1号である「実家の茶の間・紫竹」の運営の軌跡と展望を確認する取り組みとした。モデルハウスには単に「地域の茶の間」運営モデルだけでなく、健康寿命を延伸する「介護予防としての拠点」や、生活支援の重要な要素となる「住民同士の助け合いの拠点」などの役割が求められているのだ。7周年の写真展では、それらの要素もできるだけ可視化し、「ご近所さんから多くの協力を得ている」ことも紹介していた。両方の周年事業には中原八一新潟市長が訪れ、挨拶で関係者の労をねぎらった。

「8周年はどうするか…?」。運営委員会代表の河田珪子さんら運営チームは8月から本格的に8周年事業のことを考え始めた。「今の状況で、人を集めることは前年以上に難しい」ことは皆が理解していた。「では、どうするか…」―8周年を考えるメンバーの脳裏には、コロナ禍の下での苦しかった2年半余の日々のことが浮かんでいたのではなかったか。

<コロナ禍と闘った2年半余の日々>

新型コロナウイルス感染が新潟市でも広がり出して以降、河田チームは「実家の茶の間・紫竹」の運営に様々な角度から気を配り、「見えないトンネル」の中を手探りで歩き続けてきた。2020年2月24日を最後に実家の茶の間を自主休止することを決めると、利用者からは、「茶の間が閉まっていると、私はどこも行くとこがない」「うちの中で寝てばかりになってしまった」との声が寄せられた。一方、利用者の家族には「年寄りが集まる場所が一番危ない。そこでコロナをもらってきたらどうする」との懸念が広がり、「万が一、うちの年寄りがコロナにかかっていて、茶の間で感染を広げたら大変な迷惑になる」との心配もあって「茶の間への出入り禁止」を言い渡す家もあった。そんな中、同年6月に河田チームは実家の茶の間を再開させるのだが、その時も多方面から「再開させて、本当に大丈夫なのか」と危ぶむ声が聞かれた。さらに感染の波は何度も繰り返し、その度に河田チームは対応に追われた。

茶の間の活動再開に疑義の声が挙がるだけでなく、2025年度を目標年度とする地域包括ケアシステム構築の道筋が見えなくなったことも河田チームを苦しめていた。国も、自治体も、目前のコロナ禍対応に追われ、2025年度に向けて示されるはずの工程表はかすんでいくばかりだ。それでも河田チームは、「茶の間はお年寄りをはじめ利用者にとって、暮らしに欠かせない大切な場所。ここを長く閉めておくとお年寄りの外出機会が失われ、心身の機能低下が取り返しのつかないことになってしまう。何としても、活動を再開させていかねば」との使命感に背中を押され、コロナ禍と「しなやかに」闘ってきたのだ。

<「8周年は心の中を聞いていこう」>

コロナ禍との闘いの日々を思い起こすうち、河田さんの8周年事業への思いが固まっていった。「昨年の7周年では写真展を中心にして、これまでここがどんな活動をしてきたのか、皆さんに目で確認していただきました。今度の8周年は目には見えないものを取り上げたらどうでしょう。皆さんの心の中のもの、胸の内をお聞かせいただいたら、と考えています。例えば、『あなたにとって実家の茶の間はどんな存在ですか?』とか、『ここに来て、どんなことを良かったと思われていますか?』などをですね。そうすると、実家の茶の間が社会資源として『どういう存在なのか』、あるいは地域包括ケア推進モデルハウスとして『どこまで役割を果たしているのか』を確認できると思うんです」と河田さん。8月半ば以降、この思いをお当番さんチームに徐々に伝えていくと、お当番さんの多くがその考えに賛同した。

「利用されている方だけでなく、お当番さんやサポーターの方にもお聞きしたい。『どんな動機、どんなお気持ちでお当番・サポーターをやっていられるのか』などについてですね。皆さんがどんなことを考え、どんなことを目指していらっしゃるのかが分かると、これからさらに茶の間を広げていく上で大きなヒントになると思うんです」と河田さんは続けた。河田チームのメンバーと一緒に、それぞれの胸の内を聞く質問づくりが始まった。河田さんは新潟医療福祉大の石上和男教授(医療情報管理学科)ら、多くの関係者にも自らの考えを投げかけ、それぞれの専門分野での協力を求めていった。

<聞き取り方式で胸の内を聞く>

8月の終わりには①アンケート方式を取るが、ただ回答を書いてもらうのではなく聞き取り方式でしっかりとお気持ちを聞き出すこと②質問への答えの例を数多く挙げて、具体的に答えてもらうこと③多くの方にアンケートを受けていただくよう外部の力も借りていくことーなどが決まっていった。ただ数字を求めるのではなく、それぞれの「胸の内」を聞き出すことが重要だった。幸い、石上教授の計らいで情報管理学科の学生さん4人も聞き取りに当たってくれることになった。また、河田さんはお当番さんたちにも内緒でアンケートに一つの仕掛けを入れ込むことにしていた。それは「マズローの法則(欲求5段階説)」を設問に織り込むことだった。それがどう活かされたかは、アンケート結果を報告してから最後に触れることにしたい。

写真=8周年を前にした実家の茶の間の様子

<回答事例の多彩さに「体験の裏打ち」>

アンケートの設問は回答者の「年代」・「居住地」・「利用者か、お当番さんかなどの分類」・「茶の間をどこで知ったか」・「参加しての期間」・「茶の間への移動方法」―などの基礎的質問から入り、メインの質問ともいうべき「実家の茶の間に通われる理由」「実家の茶の間に来る前の心身の状態」「通い続けられる理由の深掘り」―などに移るのだが、驚いたのは回答を引き出す「選択事例」が具体的で多彩なことだ。

例えば、「実家の茶の間に来られる前の状況は?(複数回答)」の項目では、①知り合いがいなかった②人と話をする機会・会話がなかった③体力の低下を感じていた④何をするにもおっくうになっていた⑤テレビをつけて横になることおおくなっていた⑥犬がいなくなって散歩しなくなっていた⑦買い物に出なくなった⑧買い物に行っても、重いものが持てなくなった⑨歩き始めると、すぐに息切れがし、腰かかけるところを探すようになっていた⑩夜眠れない。睡眠剤がないと眠れない。夜中に必ず目が覚める⑪一人暮らしのために回覧板が回ってこない⑫家族と同居のため、回覧板を見ることがない⑬免許証を手放し、外出が減った―などなど、23項目に上っている。これらの選択事例は、これまでの茶の間の活動で河田さんらが実際に利用者から聞き取った言葉を基にしている。いわば体験の集大成で、この方式が利用者から「本当の気持ち」を引き出しやすくしている。

アンケートは次に、「助け合いに向けた現在の気持ち」を聞く分野に移る。実は、ここが河田さんたちが最も重視しているポイントの分野だ。①「(実家の茶の間にきて)困った時に『助けて!』と言える人はできましたか?」②「頼まれたとき、できることは手助けできますか?」③「(助け合いは)生きがいにつながりそうですか?」の3つが用意されている。アンケートでは最後に、「今後に向けて」自由に意見を述べてもらう形式とした。そこには①今一番欲しいことは何ですか?②実家の茶の間のような居場所はこの地域で今後もずっと必要と思いますか?③今後、(このような居場所を)続けるとしたら、代表者・当番はどうしたら手を挙げてもらえるかアイデアを教えてください④どうしたら(このような居場所を)続けられるでしょうか?⑤なぜ必要と考えられるのか?教えてください―の5点を聞くことにまとまった。ここは次の展開に向けて様々なヒントをいただくパートだ。

<「助け合い」に多くの方が肯定回答>

聞き書きは9月12日から28日に掛けて行われ、その中から、実家の茶の間の果たしてきた驚くべき役割が浮かび上がってきた。「助け合いへの参加意思」を問う質問のうち、「実家の茶の間の活動に参加する中で、困った時に『助けて!』と言える人はできましたか?」に対し、35人(約66%)が「はい」と回答しているのだ。「いいえ」は1人もおらず、「わからない」が12人、「未回答」が6人となった。さらに「困りごとを頼まれた時、できることは手助けしますか?」の問いには、なんと43人(約81%)が「はい」と答えている。「わからない」と「未回答」は各5人となった。続く「助け合いが生きがいにつながりそうですか?」の問いにも、35人が「はい」と答えている。

「なぜ、実家の茶の間に来るのか?」との問い(複数回答)には、「人に会えるから」が41人、「話ができるから」が34人と多いが、注目されるのは「誰かの役に立てるから」(24人)「誰かに喜んでもらえるから」(21人)の多さだ。さらに、「実家の茶の間に通い続けられるのはなぜ?」との深掘り質問には、「喜んでもらえることがあるから」にチェックした方が31人で最多となった。その内訳には「自分の得意なことで役に立てる」「花を持っていく」(共に14人)と「貢献型」に喜び・意義を見出す方が多いことが浮き彫りになった。「人とつながることで、今後の生活に張り合いや安心感ができた」には27人がチェックしている。「実家の茶の間・紫竹」の活動には、お当番さんやサポーターだけでなく利用者も、「自らの自己実現」を求めて参加しているようだ。

このことは石上教授の分析で裏付けられた。アンケートの回答をお当番さんとそうでない方(利用者ら)に分けて集計しても「貢献型・自己実現型」での差異はほとんどなかったことが10月中旬に河田さんらのもとに届けられたのだ。

<アンケートで浮かぶ実態>

これ以外にも興味深い結果が出ている。例えば、「実家の茶の間を運営日以外に利用する事例」では14人が「老人クラブの活動」を挙げ、「お当番さんの研修など」は9人、「自治会活動」には3人、「その他の打ち合わせ」には4人が回答した。「無回答」は23人なので53人のうち30人から「多目的利用」の実態が示された。「実家の茶の間のことをどこで知りましたか」については、「知人」が14人、「ご近所の人」が10人で、口コミで知った方が多い。移動方法については、「車を運転して」が22人と最も多いものの、「徒歩」18人、「自転車」10人、「杖歩行」3人、「押し車で歩行」1人―と、ご近所からの利用が多いことも確認された。「居場所」は、やはり身近な場所にあることが望まれるようだ。

<実家の茶の間に通う理由は?>

核心部分に入ろう。「実家の茶の間に通われる理由(以下いずれも複数回答)」については、「人と会えるから」(41人)、「話ができるから」(34人)、「いない人の話はしない、などの決まりごとがあるから安心なので」「自分の都合でいつ来て、いつ帰ってもいいから」(共に30人)が上位となり、利用者にとって茶の間が貴重な人との語らいの場であることに加え、「自主性と決まりごと」に支えられていることも確認された。それは、「何をしてもいい、しなくてもいいから」「何をしていてもいいから」を共に20人が挙げていたことからも推察できる。さらに注目されるのは、「誰かの役に立てるから」(24人)「誰かに喜んでもらえるから」(21人)に多数が反応したことだ。実家の茶の間は「サービスを受けられる場」よりも、「自己実現の場」であることがここでも裏付けられている。一方で「相談ができるから。話を聞いてもらえるから」を18人、「地域包括支援センターや東区保健師さんらの健康・生活相談があるから」を16人が挙げ、「頼れる場」にもなっている。また、「子どもや学生、県外の人、外国人、視察者、研修者ら多様な人に会えるから」「多様な価値観や環境・考え方の違う人の集う場所だから」を共に21人が挙げていたことも興味深い。

写真=8周年のお祝いへ、利用者たちも自らができることで役割を果たしている

<実家の茶の間に来る前の状況は?>

実家の茶の間などの居場所がない場合、住民たちはどんな状態だったのだろうか。最も多かったのが「今後の生活を考え、人とつながり、役に立ちたいとおもっていた」の26人だった。「退職後、子育て終了後、今後の自分探し」を挙げた方も11人いらっしゃった。ここにはお当番さんやサポーターの方たちが含まれているのだろうが、人はやはり「つながり」「役割」を求めているのだ。「人と話をする機会がなかった」「体力の低下を感じていた」(共に9人)や「テレビをつけて、横になることが多かった」(7人)も目立つ項目で、「居場所がなければ、この方たちの衰えはより進んでいただろう。

<通い続けられたのはなぜ?>

この設問に対する答えでは、「喜んでもらえることがあるから」をチェックされた方が31人で最多となった。その内訳には14の項目があるのだが、「自分の得意なことで役に立てる」「花を持っていく」が共に14人。「顔を見せるだけで喜ばれる」「当番をする」が共に9人、「食事作りや手伝いをする」(8人)、「手助けが必要な人の役に立てる」(7人)と「お役に立てる」ことで自己実現を図る方が多いことも分かった。

それ以外の答えでは、「いつ来て、いつ帰るのも自由だから」(28人)、「知り合いができた」(24人)、「昼食がある」(20人)などとなった。

写真(左)=利用者と話し合う河田珪子さん (右)=盲導犬もやってきました

<自由記載から浮かぶものは?>

「実家の茶の間のような居場所は、この地域でずっと必要と思いますか?」との問いには、「未回答」の7人を除く46人が同意・肯定した。「人と人がつながる場所。健康と生きがいづくりのために絶対に必要な場所」、「必要。まだ来られていない方も多いと思うので、掘り起こしてほしい」「必要不可欠」―などの記載があった。

「今後、続けるとしたら、代表者・当番はどうしたら手を挙げてもらえるでしょうか?」との設問には、「若手に関心を持ってもらうことも必要。仕事を持っている人のために時間帯・曜日を変えて集う」、「やる気のある人、退職後に元気な人は多い。スタート時のハードルを下げれば、参加者・運営者は増える」などの意見がある一方、「河田さんのような優しい人柄でないと務まらない」「難しい」などの記載もあった。

「なぜ(実家の茶の間のような居場所が)必要と考えられるのか?」については、「全国や県・市の居場所・通いの場のモデルとして先駆的な取り組みを続けていること。地域で気軽に専門職に相談できたり、回数券を仲立ちに助け合いができたりするかけがえのない場所」との指摘や、「居場所、いつでも気軽にける場所は癒しを与えてくれ、生きる希望につながるから」、「ここでいろんな人たちと話をして、視野が広がり、考え方も変化し、表情もよくなったと言われます。ありがとうございました」などの記載があった。

 

河田チームは、このアンケートをフルに生かし、今後の運営や課題解決に活用していくことだろう。

<青空記者の目>

アンケートから明確に浮かび上がってきたのは、実家の茶の間が「安いおカネでお昼が食べられる」とか「みんなと話ができるから」とかのレベルではなく、「自分も誰かの役に立ちたい」「喜んでもらえると嬉しい」との気持ちで参加している方が大変に多いことだった。ここで「マズローの法則(欲求5段階説)」に戻ろう。「欲求5段階説」とは、人間の欲求をピラミッド型に整理した心理学理論で、最下辺の「生理的欲求」から2段階目の「安全の欲求」、続いて「社会的欲求(所属と愛の欲求)」、「承認欲求」が上位にきて、ピラミッドの最上位に「自己実現欲求」を置くものだ。実家の茶の間の参加者は、利用者・お当番さんの枠を超えて、自らの「自己実現」のために茶の間に通っていることが明確化された。

河田さんはこの結果に、「私は40代で自分が癌になり、死ぬ思いをした。その後、夫の親の介護のために新潟に戻ってきて、有償の助け合い『まごころヘルプ』を立ち上げたんですが、その頃からずっと『助け合いの気風を、地域に広げていきたい』と思ってきました。人とのつながりだけで、今日までこれたんですから。嬉しかったのは今回のアンケートで利用者の方とお当番さんとの回答傾向にほとんど差がなかった、ということ。『茶の間にはお世話する方も、お世話される方もいない。居るのは場の利用者だけ』という考え方を皆さんが具現化してくれていた。実家の茶の間に関わって人とつながり、それを自己実現と捉えてくれる方がこんなに多いって、素晴らしいですね。私も勇気づけられました」と語っている。

国は地域包括ケアシステムを推進するに当たって「地域共生社会」との言葉を使いだした。実家の茶の間は今、その言葉に最も近い「場」になっているのではないか。そう感じた今回のアンケートだった。関心がある方は「実家の茶の間・紫竹」でアンケート結果を確認してほしい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました